■概要
人数:3人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、コメディ
■キャスト
ライリー
ティーナ
カザトフ
■台本
洋館の廊下。
ライリー(N)「私の名前はライリー。名探偵と呼ばれて、早、半世紀が経った。数々の事件を解決し、多くの犯人を逮捕してきた。現在は探偵を引退し、毎日を気ままに過ごしている。……はずなのだが」
ティーナ「先生、この事件、どう思いますか?」
ライリー「……それよりも、ティーナくん。なぜ君がここにいるのかね?」
ティーナ「え? 私は先生の助手ですよ。一緒にいるのは当たり前のことだと思うのですが」
ライリー「ふう……(ため息)。色々と突っ込みどころが満載だな。だが、あえて、一つ一つ突っ込んでいくことにしよう」
ティーナ「先生からのご指摘ですか! 恐悦至極です!」
ライリー「はあ……(ため息)。まず、君はもう助手ではないと言ったはずだ。君はとっくに私を超えている。探偵として独り立ちしても十分やっていけるだろう」
ティーナ「いえ! 私なんてまだまだです。だから、こうして助手として色々と勉強させていただいているんですよ」
ライリー「……そもそも、今回は私が私的に招待いただいたパーティーだ。君は呼ばれていないはずなのだが?」
ティーナ「なので、先生の助手枠として参加させていただいています」
ライリー「……最後に、事件なんて起きていない」
ティーナ「探偵の行くところ、事件ありです。先生をわざわざ招待したのですよ、これは事件が起こるに決まっています」
ライリー「……小説じゃないんだから、そんなことあるわけないだろう。それに私が事件を呼ぶ疫病神みたいに言わないでくれ」
ティーナ「いやー、今回はどんな事件ですかね? 私、ドキドキして、昨日からあまり寝れていないんですよ」
ライリー「はあ……。突っ込んでも無駄だということはわかっていたが、これほどとはな」
ティーナ「それでは先生、行きましょう」
ライリー「ん? どこにかね?」
ティーナ「屋敷内の散策です」
ライリー「……なぜ、そんなことをする必要があるのかね?」
ティーナ「もちろん、下調べですよ。事件が起こってから調べるのでは初動が遅くなります」
ライリー「……事件も起こっていないのに、屋敷内を調べるのは失礼だろう」
ティーナ「何言ってるんですか!? 呼ばれたのに、先生が屋敷内を調べない方が失礼です!」
ライリー「……ティーナくん、何を言ってるんだね?」
ティーナ「さあ、行きましょう!」
ライリー「うわ、引っ張るんじゃない!」
場面転換。
色々と見て回っているライリーとティーナ。
ティーナ「……変ですね。変わったところはありません」
ライリー「……変わったところがある屋敷が稀なのだよ」
ティーナ「うーん。壁も特に異常なしですか……」
コンコンと壁を叩きながら歩くティーナ。
ライリー「止めなさい。変人だと思われるぞ」
ティーナ「探偵というものは変人なのです」
ライリー「……色々と危険な発言は止めたまえ」
コンコンという音から、ふと、軽い音になる。
ティーナ「……先生」
ライリー「ふむ。今のは空洞のときの音だな」
ティーナ「やはり、仕掛けがあったようですね」
ライリー「だとしても、無暗に障るものではない」
ティーナ「えーと、こういう場合は、この辺に……ああ、ありましたよ、スイッチです」
ライリー「……ティーナくん、随分と手馴れているな。まさか、他でもこんなことをやっているわけないだろうね?」
ティーナ「私は助手ですから」
ライリー「……どういう意味かね?」
ティーナがボタンを押すと、壁から盤面のような物が現れる。
ティーナ「盤面……ですね。将棋……いえ、チェスですかね?」
ライリー「……ティーナくん、その辺をもう少し調べてみてくれ。おそらく、駒のようなものが入ったカバンを隠してあるボタンがあるはずだ」
ティーナ「わかりました」
ティーナがペタペタと壁を触る。
ティーナ「ありました。押してみますね」
ティーナがボタンを押すと、壁が空き、中からチェスの駒を模したものが現れる。
ティーナ「先生の言う通りでしたね。チェスの駒を模したものが出てきました」
ライリー「ふむ」
ティーナ「で、これをどう使うんですかね?」
ライリー「おそらく、このように、盤面にチェスの駒を押し込む……」
ティーナ「あ、駒が沈んでいきますね」
すると、カチという音が小さくなる。
ティーナ「なにか作動したような音ですね」
ライリー「おそらく、抜け道を繋ぐからくりだろう。昔、担当した事件に同じようなギミックがあった」
ティーナ「そうなんですか」
ライリー「このように、どこになんの駒を入れるかによって、様々なパターンの道を作り出せるんだろう。……このようにね」
ライリーが色々と駒を押し込むと、そのたびにカチカチという音がする。
ティーナ「今回はこのギミックを使ったトリックを仕掛けてくるんですかね?」
ライリー「……まだ事件も起きていないのに、邪推するんじゃない。ほら、そろそろパーティー会場に行くぞ」
ライリーが歩き出す。
ティーナ「あ、待ってください、先生」
場面転換。
パーティー会場がにぎわっている。
ライリー「……ティーナくん、さっきから何をしているのだね?」
ティーナ「録画です」
ライリー「なんのために?」
ティーナ「おかしな仕草をしている人がいないか、後で見直すためです」
ライリー「……助手としての仕事は満点だが、事件が起こることを前提に行動するものじゃない。そんなことでは、行く先々で嫌われてしまうぞ」
ティーナ「平気です。探偵は嫌われるものですから」
ライリー「時々、後悔するよ。探偵にならなければ、私にももっと友人ができたのではないだろうか、とね」
ティーナ「大丈夫です。先生は探偵でなかったとしても、友人はできてないと思いますから」
ライリー「……フォローになってないぞ」
ティーナ「それにしても、遅いですね。そろそろ、第一の事件が起こってくれないと、時間的に厳しくなってきました」
ライリー「……だから、事件が起こる前提で話を進めるんじゃない」
すると遠くで何やら騒ぎが起こる。
ライリー「ん? 何かあったのかな?」
ティーナ「見てきます」
ティーナが歩き出す。
場面転換。
部屋の一室。
ライリー「ティーナくん、これはどういうことかね?」
ティーナ「犯人が自白しました」
ライリー「……自白も何も、事件なんて起こってないじゃないか」
ティーナ「ですから、事件を起こすつもりだったらしいです」
ライリー「どういうことかね?」
ティーナ「……それは本人から聞いた方が早そうです」
カザトフが入ってくる。
カザトフ「くそっ! 誰かが屋敷のギミックを弄りやがったんだ! そのせいで、完璧な計画がおじゃんになっちまったじゃねーか!」
ライリー「……」
カザトフ「もう……やる気がなくなった。本当は名探偵を呼んで、勝負しようと思ったのに……」
ライリー「ティーナくん」
ティーナ「はい」
ライリー「彼の処分は警察に任せる」
ティーナ「わかりました」
ティーナが歩き出そうとして、立ち止まる。
ティーナ「先生、さすがですね」
ライリー「なにがだね?」
ティーナ「事件が起こる前に、事件を解決する! やっぱり、先生は名探偵です!」
そう言ってティーナがカザトフを連れて部屋を出る。
ライリー「はあ……やれやれ。いつになったら私は探偵を引退できるんだ?」
ライリー(N)「……私の名前はライリー。数々の事件を解決し、多くの犯人を逮捕してきた名探偵だ」
終わり。