■概要
人数:3人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、コメディ
■キャスト
ライリー
ティーナ
ビル
■台本
ライリー(N)「私の名前はライリー。名探偵と呼ばれて、早、半世紀が経った。数々の事件を解決し、多くの犯人を逮捕してきた。現在は探偵を引退し、毎日を気ままに過ごしている。……はずなのだが」
部屋の中。
ガチャリとドアを開けてライリーが入ってくる。
ティーナ「あ、先生。ご足労をおかけして、申し訳ありません」
ライリー「ティーナくん。私はもう探偵を引退して、隠居した身だ。事件だと呼び出されても困るのだよ」
ティーナ「どうしても事件の謎が解けないんです。なので、先生に解いていただこうかと思って、お呼びいたしました」
ライリー「……私の話を聞いていたのかね?」
ティーナ「事件は3日前。つまり、土曜日の21時に起こりました」
ライリー「待ちたまえ、ティーナくん」
ティーナ「え? もしかして、これだけの情報で、もう解けたのですか? さすが先生です」
ライリー「いや、日時だけでは無理だよ」
ティーナ「では、続けます。第一の被害者はベン・マッキード。35歳で医者をやっていました」
ライリー「だから、待ちたまえ、ティーナくん」
ティーナ「え? もしかして、これだけの情報で、もう解けたのですか? さすが先生です」
ライリー「いや、被害者の情報だけでは無理だよ」
ティーナ「では、続けます」
ライリー「待ちたまえ」
ティーナ「なんでしょう?」
ライリー「私は君にこういったはずだ。君はもう一人前の探偵だと」
ティーナ「恐れ多いですが、確かにそう言っていただけました」
ライリー「君は私を十分に超えている。君に解けないのであれば、私にも解けんよ」
ティーナ「いえ、そうは思いません」
ライリー「私が言っているのだから、確かだろう?」
ティーナ「私は先生の足元にも及びません」
ライリー「そんなことはないさ」
ティーナ「では、とりあえず、事件の概要を聞いていただけませんか? それでもし、先生にも解けないのであれば、私も諦めます」
ライリー「はあ……。結局、聞くことになるのか。わかった。話しなさい」
ティーナ「ありがとうございます。では、続きを話します。第一の被害者が出た状況は……」
場面転換。
ティーナ「……というのが、一連の事件の概要です」
ライリー「なるほどな」
ティーナ「いかがですか?」
ライリー「やはり、君は私を買いかぶり過ぎだ。私にもさっぱりわからんよ」
ティーナ「……そうですか」
ライリー「恐ろしいことに、私が現役だったころよりも犯罪は高度になっているな」
ティーナ「……はい」
ライリー「おそらく、犯人は我々が知らないような道具を使っているのだと思う。それが何かがわからないうちは、手の施しようがないな」
ティーナ「では、その何かを探すことから始めるべきでしょうか?」
ライリー「いや、それは広い砂漠の中から一粒の砂糖を探すに等しい行為だ。アテもないのに探しても見つかるわけがない」
ティーナ「……探偵はもう、時代遅れということでしょうか?」
ライリー「いや、そんなことはないさ」
ティーナ「といいますと?」
ライリー「探偵と言うものは、事件の犯人さえ見つければいい。どうやったかなどは、警察に任せればいい」
ティーナ「ですが……」
ライリー「まあ、見てなさい」
場面転換。
別室。
ビル「なんだよ、俺だけ、こんなところに呼び出してよぉ」
ライリー「あなたに自首してもらおうと思いまして」
ビル「自首だと?」
ティーナ「先生は全ての謎を解かれたんです」
ビル「な、なんだと?」
ライリー「さあ、諦めて自首しなさい。その方が罪は軽くなる」
ビル「ちょ、ちょっと待てよ。謎を解いただと? 嘘を言うなよ」
ライリー「残念ながら、本当に解いたのです」
ティーナ「事件の概要を話したら、すぐに解いてくれました」
ビル「……じゃ、じゃあ、聞かせてくれよ。犯人がどんなトリックを使ったのかよぉ」
ライリー「いいでしょう。まず、犯人は停電を利用して……」
場面転換。
ライリー「……というトリックです。つまり、これができたのは、あなたしか……」
ビル「……ぷっ!」
ライリー「ん?」
ビル「あははははははははははは!」
ライリー「何がおかしいのかね?」
ビル「違う! ぜんっぜん、違う! 大外れ!」
ライリー「外れ? どういうことかね?」
ビル「そんなトリックじゃないってことだよ」
ライリー「理論的には矛盾しているところはないはずだ。どこがどう違うのかね?」
ビル「え? えっと……あのとき、ハシゴなんかなかったはずだ」
ライリー「だから、それはカーテンの裏に隠したのだと説明したはずだが?」
ビル「いやいや、そんなのバレるって。誰かがカーテンの裏を見たらどうするんだよ?」
ティーナ「ですが、実際にカーテンの裏を見た人はいません。ハシゴがなかったという証拠はないということです」
ビル「あー、いや、そうじゃなくってさー。……例えば、例えばだからな!」
ライリー「うむ。話を聞こう」
ガサガサとポケットを探るビル。
ビル「これ。アラミド繊維っていう、ピアノ線よりも固い糸なんだけど、これを天井の隙間から通して、こうやってひっかければ、ハシゴを使わなくても可能だろ?」
ライリー「なるほど……。確かに可能だが、どうやって通すのかね? あらかじめ用意するのは無理だろう?」
ビル「あー、いや、それは……」
ライリー「それが証明できないのであれば、君の理論は間違えていることになる。やはり、ハシゴを使っての犯行で……」
ビル「こういうのがあるんだよ!」
ビルがステッキを出す。
ライリー「そのステッキがどうかしたのかね?」
ビル「ここをこうやってひねれば、仕掛けが出てくるんだ。で、こうやって、仕掛けにアラミド繊維をセットして……」
バシュッと打ち出す音。
ビル「こうすれば、うまく通すことができるだろ?」
ライリー「なるほど。それを使えば、君がいうことがた正しいと言えるだろうな」
ビル「だろ?」
ライリー「では、ティーナくん。警察に連絡して、引き取りに来てもらいなさい」
ティーナ「はい」
ビル「ちょっと待て! なんでだよ!? あんたのトリックが間違ってるって、ちゃんと証明しただろ?」
ライリー「ええ。ですが、同時にあなたが犯人だということも証明しましたよね?」
ビル「え?」
ティーナ「既に容疑者の荷物検査はさせていただいています。アラミド繊維と仕掛けを持っているのはあなたしかいません」
ビル「し、しまったー!」
場面転換。
ティーナ「お見事でした。まさか、容疑者全員分の偽のトリックを考え出すなんて思いませんでした」
ライリー「そこは経験でカバーしたまでだよ」
ティーナ「犯人ではない場合は、ずっとオロオロして終わりでしたからね」
ライリー「本当の犯人だけだよ、反論ができるのは」
ティーナ「本当のトリックがあるからですね」
ライリー「ああ。自信のあるトリックならなおさら披露したくなるものだ」
ティーナ「なるほどです」
ライリー「探偵だからと言って、謎を解くことだけに固執してはならない。あくまで、犯人を見つけるのが探偵の仕事だ」
ティーナ「勉強になります! また、事件があったときはお願いします!」
ライリー「……いや、私はもう引退した身だし、君の方が探偵としての腕は上で……」
ティーナ「現に先生は私が解決できなかった事件を解決してくれました。やはり探偵として先生の方が上です」
ライリー「……しまった」
ライリー(N)「私の名前はライリー。名探偵と呼ばれて、早、半世紀が経った。数々の事件を解決し、多くの犯人を逮捕してきた。現在は探偵を引退し、毎日を気ままに過ごすはずなのだが……それはいつになるのだろうか」
終わり。