■概要
人数:4人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、コメディ
■キャスト
柿沼 純一(かきぬま じゅんいち)
幸田 みのり(こうだ みのり)
受付の女性
店員
■台本
純一「……はあ」
純一(N)「婚活を始めて、早3年。これまで数多くの女性にフラれ、騙されてきた。もう疲れた、やめよう。そもそも俺なんかが結婚できるわけがなかったんだ」
受付の女性「プロフィールを変えましょう」
純一「……話聞いてました? 退会したいって言ってるんですけど」
受付の女性「そもそも、柿沼さんは正直に書きすぎですよ。これじゃ、寄ってくる女も寄ってこないわよ」
純一「いや、盛って上手くいったとしても、結婚してから大変じゃないですか? 話が違うって」
受付の女性「そんなの、結婚しちゃえばなんとかなるってもんよ。こういうのは勢いが大事なの、勢いが!」
純一「……それ一番ヤバいと思うんですけど」
受付の女性「はい、できた。これがあなたの新しいプロフィール。ちゃんと目を通しておいて」
純一「……これ、原型が残ってないんですけど」
そのとき、受付の電話が鳴る。
受付の女性がとって。
受付の女性「はい、中幡支部です。……はい、はい……。ああ、ちょうどいいわ。今からプロフィール送るから。はいはーい、よろしく」
ガチャリと電話を切る受付の女性。
受付の女性「ってことで、マッチングできそうだから、今度の週末に会ってちょうだい」
純一「ちょっと待ってください! このプロフィールで送ったんですか?」
受付の女性「そうよ」
純一「こんなの詐欺ですよ」
受付の女性「いいのいいの」
純一「けど……」
受付の女性「まあ、これが最後だと思って。ね?」
純一「……わかりました。これが最後ですよ」
受付の女性「うんうん。これを最後にするって心意気で頑張ってきて」
純一「……あれ? なんかニュアンス変わってません?」
場面転換。
駅の改札付近。
みのり「あの……柿沼さんですか?」
純一「はい。じゃあ、あなたが幸田さん?」
みのり「そうです。今日はよろしくお願いします」
純一「こ、こちらこそ……」
純一(N)「うわー。可愛い人だ。……こりゃダメだな。外れだ。っていうか、これ、騙されるやつだ。……傷が深くなる前にさっさと切り上げよう」
場面転換。
レストラン内。
みのり「おしゃれなお店ですね」
純一「ははは……」
純一(N)「ここはあのおばちゃんに勝手に予約されたんだけどね……。ここ、絶対高いだろ」
みのり「あの、そういえば柿沼さんのプロフィールなんですけど」
純一「え? あ、はい。なんでしょう?」
みのり「職業ってなにをなされてるんですか?」
純一「ただの会社員ですよ」
みのり「え? ただの会社員なのに年収一千万なんですか?」
純一(N)「来た来た。年収しか見ない女か」
純一「嘘ですよ」
みのり「え?」
純一「年収一千万なんて、受付の人が盛ったんですよ。本当は400万くらいです」
みのり「へ、へー……」
純一(N)「引いてる引いてる。これで、解散になるかな」
場面転換。
みのり「ありがとうございます。美味しかったです」
純一「あ、ああ。いえ、まあ……」
純一(N)「お会計は男に払わせる、か。あるあるだよな」
みのり「じゃあ、これ、私の分です」
純一「え?」
みのり「……割り勘、ですよね?」
純一「えっと……ああ、まあ。でも、さっき、ありがとうって……」
みのり「あれは、いいお店を選んでくれてありがとうございますってことだったんですけど」
純一「そ、そうだったんですか……」
場面転換。
町中を歩く二人。
みのり「……この後、どうしましょうかね?」
純一「あー、そうですね……」
純一(N)「しまった。すぐに切り上げるつもりだったから、考えてなかった」
みのり「あの、知り合いがお店をやってるんで、よかったらそこに行きませんか?」
純一「……あー、えっと……」
純一(N)「うわー! ぼったくりの方かー。これ、絶対、ぼったくりの店に連れて行かれる―!」
みのり「こっちです」
純一「あ、はい……」
場面展開。
バーの店内。
みのり「どうですか? おしゃれなお店ですよね?」
純一「そ、そうですね……」
純一(N)「どこかでトイレを装って、脱出する経路を考えておかないと。それか、いつでも警察に連絡できるようにして準備するか」
場面転換。
みのり「あの……柿沼さんのアピールポイントに、結婚相手は専業主婦をしてほしいって書いてましたけど、ホントですか?」
純一(N)「あー、これもあるあるだね。専業主婦になりたいから結婚したいってやつだ」
純一「あー、それも嘘ですね。俺の年収から考えて、やっぱり共働きでお願いしたいですね」
みのり「……そうですか」
純一(N)「ガッカリしただろ? もう解散しよう。俺を無事に家に帰してくれ」
みのり「よかったです」
純一「へ?」
みのり「あー、いえ。私、今の職場が気に入ってるんですよね。辞めて欲しいとかいう人だったらひいちゃうなーって思って」
純一「そ、そうですか……」
場面転換。
店員「お会計です」
純一「え? こ、こんなに安いんですか?」
店員「ふふふ。幸田さんのお知り合いなんですよね? サービスさせていただきました」
みのり「ありがとうございます。あ、割り勘でお願いします」
店員「はいはい。わかってますよ」
純一「……」
場面転換。
みのり「今日はありがとうございました。楽しかったです」
純一「あ、あの……」
みのり「なんですか?」
純一「俺のプロフィール嘘ばっかりだったのに、なんで怒らないんですか?」
みのり「ふふふ。こういうのって盛るのは当然じゃないですか」
純一「そ、そうなんですか?」
みのり「はい。女性によく見せるために凄く盛る人は多いですから」
純一「……はは」
みのり「その点、柿沼さんはあっさりと本当のことを言ってくれたので安心しました」
純一「安心?」
みのり「はい。盛る人って、下心持ってる人が多いですから。変に女性に受けが良さそうなことばっかり答える男の人の場合、すぐに切り上げることにしてるんです」
純一「……」
純一(N)「えええー! この人、外れどころか、大当たりじゃないか!」
純一「あ、あの……。それじゃ、その、結婚を前提にお付き合いしてくれませんか?」
みのり「あ、ごめんなさい。無理です。好みの顔じゃないんで!」
純一「ダメなんかーい!」
純一(N)「ホント、最初から最後まで空気が読めない人だった」
場面転換。
家の中。
みのり「あなた。はい、コーヒー」
純一「ありがとう」
純一(N)「まあ、今となったら、いい思い出だ」
終わり。