■概要
人数:4人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、童話、コメディ
■キャスト
王子
執事
エマ
女性
■台本
城のバルコニー。
王子「うおおおおお! 好きだ―!」
女性「ごめんなさい」
王子「うおおおおーん! なんでだぁー!」
場面転換。
王子の部屋。
王子「はあ……。またフラれた」
執事「まあ、仕方ありませんよ」
王子「は? なんでだよ? 俺、王子だぞ? 一国一城の主! 人間として勝ち組だぞ?」
執事「……男としては負け組かと」
王子「か、顔なんて飾りだよ、飾り!」
執事「飾りとしても獣の顔は正直、キツイかと思いますが?」
王子「……馬鹿野郎。男は内面だよ、内面」
執事「それなら、王子は絶望的かと」
王子「はあー! くそ! なんでこんなことに」
執事「……自業自得だと思いますが?」
王子「なんでだよ! ただ、不細工なババアが城に泊まりたいって言ったのを断っただけだろ!」
執事「それを自業自得だと言っているのです」
王子「あー、もう! 魔女だって知ってたら、泊まらせてやったのにさー! そういうこと最初に言わないの、最悪だと思わね?」
執事「最悪なのは王子の性根でございます」
王子「あーあ。俺を愛してくれる人ができれば呪いが解けるって言われてもさー。野獣の顔じゃ難しいって」
執事「……王子の場合、野獣の顔であることはそこまで関係ないと思いますが」
王子「はあ……。また、街から女の子さらってこないとなぁ。そこから口説いてって……はあ、また一からやり直しか」
執事「呪いが解けるより先に、呪い殺されそうですな」
王子「よし! くよくよなんかしてられないな! ポジティブポジティブ! 元気出していこう!」
執事「はあ……。一生部屋で大人しくしててくれればいいのですが」
場面転換。
森の中。
ガサガサと草をかき分けながら進んでいる王子。
王子「くそ、どこに隠れた! おーい! 出てこい!」
執事「王子、もう止めましょう。恐怖で逃げた人が王子を好きになるはずがありません」
王子「うう……。可愛い子だったのにぃ」
執事「……野獣のくせに、自分は顔にこだわるのは、ホント、クソでございますな」
そのとき、草むらからエマが出てくる。
王子「お! 出てきてくれたか!」
エマ「きゃああああ!」
執事「逃げた方とは別人ですな」
王子「落ち着け! 俺はこの地域の王子だ!」
エマ「え? 王子?」
王子「ああ。聞いたことないか? 野獣の王子って」
エマ「……ああ、はい。確かに噂を耳にしたことがあります。獣のような王子がいると」
王子「それそれ。それが俺だよ」
エマ「そうだったのですか。獣とは比喩と思っていたのですが、本当に獣の顔をされているんですね」
王子「いやあ、照れるなぁ」
執事「褒めてはいませんぞ。それより、なぜ、こんなところに?」
エマ「実は森で迷ってしまって……」
執事「ほう? 森に……」
王子「あ、どうせなら、俺の城で休んでいかないか? 疲れただろ?」
エマ「よろしいんですか?」
王子「いいよいいよ。こっちだ」
王子とエマが歩いていく。
執事「……」
場面転換。
城の中。
王子「へー。エマちゃんっていうんだ?」
エマ「以後、お見知りおきを」
王子「ははは。そんなにかしこまらなくていいよ」
エマ「そうですか? ふふ、優しいお方なんですね」
王子「いやあ。あははは。それほどでも」
エマ「それにしても、本当に立派な城ですね」
王子「親父が遺してくれたんだ。親父は本当にいい王だったんだよ」
執事がやってくる。
執事「王子も是非、見習ってほしいところですな」
王子「うっ! また、そういうこと言う」
執事「お茶でございます。どうぞ」
エマ「ありがとうございます!」
執事「それにしても驚きですな」
エマ「何がですか?」
執事「最初こそ、王子の顔に驚かれたようですが、今では恐怖が微塵も感じていないようで」
王子「あ、言われてみれば確かに!」
エマ「顔なんて飾り。男は内面だと思います」
王子「おおおおおおお! さすが! エマちゃん、わかってるねー!」
エマ「ふふふ。そうですか?」
王子「あのさ、エマちゃん。しばらく、城で暮らさない? 部屋もいっぱい空いてるしさ」
エマ「いいんですか? 嬉しいです」
王子「ホント!? やったぁー!」
執事「……」
場面転換。
城の庭園。
エマ「うわー! 素敵なバラ園ですね」
王子「でしょ? 執事に世話させてるんだ」
エマ「私、バラが好きなんですよ」
王子「そうなんだ? あとで、執事にバラの束を部屋に持っていくように言っておくよ」
エマ「ふふふ。ありがとうございます」
場面転換。
城の広場。
ゆったりとした音楽が流れている。
エマ「さあ、踊りましょ」
王子「踊れないよ。……踊ったことないし」
エマ「ふふ。私が教えますよ。さ、手をとってください」
王子「じゃ、じゃあ……」
王子がエマの手を取る。
エマ「さ、まずは右足を出して」
王子「こう?」
エマ「そうそう。上手いですよ」
王子「えへへへ」
エマ「ふふふ。はい、ワンツーワンツー」
王子「えい、えい、えい……」
ぎこちなくも二人は笑顔で踊っている。
執事「……」
場面転換。
城のバルコニー。
エマ「今日はとても月が綺麗ですね」
王子「あの日も、こんな月の日だったんだ」
エマ「え?」
王子「俺が呪いをかけられた日」
エマ「呪い……だったのですか?」
王子「ははは。そりゃそうだよ。生まれつきこんな顔なわけないよ」
エマ「ふふ、確かにそうですわね」
王子「呪いがかかる前に、エマちゃんに会いたかったなぁ」
エマ「……どうやったら、その呪いは解けるんですか?」
王子「俺のことを好きになってくれる人が現れた時、呪いは解けるらしいんだ」
エマ「そんなの簡単じゃないですか」
王子「え? そんなわけないよ。今まで何百人にもフラれたんだからさ。無理に決まってる」
エマ「じゃあ、私が解いてあげますよ。呪い」
王子「え?」
エマ「私、好きですよ。王子様のこと」
王子「ほ、ホント!?」
エマ「もちろん、ホントです」
そのとき、野獣の体が光り始める。
王子「うわっ! 身体が光り始めて……」
光に包まれる王子。そして、光が収まるとそこには呪いの解けた王子の姿が。
王子「……解けてる! 俺の呪いが解けてるよ!」
エマ「……」
王子「ありがとう、エマちゃん! 君のおかげで俺は人間に戻れたんだよ」
エマ「ええー……」
王子「え? なに、その顔?」
エマ「ぶっさ!」
王子「は?」
エマ「いやいやいや! そこは普通、イケメン王子でしょー! 呪いが解けても、ブサメンってないわー!」
王子「はあ? 何言ってんだ、この美男子に」
エマ「あんた、鏡見たことあんの? いっそ、野獣の顔のままの方がよかったじゃん」
王子「なんだと!? こっちが下手にでてりゃ、このアマ!」
エマ「あー、もう! 王子で金持ちって聞いてきたからやってきてみれば、まさか、本当はブサメンなんて詐欺よ、詐欺!」
王子「うわっ! お前がこんな性悪女だったなんて、こっちから願い下げだね!」
エマ「はあ?」
王子「なんだよ?」
それを遠くから見ている執事。
執事「……やっぱり、こんなことだろうと思ってましたよ。やれやれ」
王子とエマの口げんかが城の外まで響いている。
終わり。