母からもらったもの

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■概要
人数:4人
時間:15分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス

■キャスト
玲人(れいじ)
小和(こより)
映美(えいみ)
医者

■台本

玲人(N)「思い返してみても、俺は母から何かをもらったという記憶がない。母子家庭で貧乏。子供を甘やかす余裕なんてないことわかる。だが、それでも普通は親からなにかしらプレゼントをしてもらえるものではないだろうか。誕生日やクリスマス、お正月のお年玉。少なくても年3回は世間でいう、子供がプレゼントを貰える日がある。けど、俺は今まで母から何かをもらったという記憶はない」

場面転換。

家の中。

玲人「母さん、俺、来週、修学旅行なんだけどさー」

映美「うん」

玲人「……お土産買ってくるから、少しだけ小遣いもらえない?」

映美「あんたさ、それ、もらえると思って言ってる?」

玲人「……いや、思ってない」

映美「なら、言わないでよ」

玲人「もしかしたら、奇跡が起こるかなって思っただけだよ」

映美「そんなとこで貴重な奇跡を使わないで欲しいわ。どうせなら、宝くじ当てるとかあるでしょ」

玲人「買ってないのに当たるわけないだろ」

映美「あはは。確かに。てか、そんなの買ってたらぶん殴るけどね」

玲人「金のありがたみは痛いほど知ってるよ」

映美「うんうん。私の教育は間違ってなかったみたいね」

玲人「……正解だとも思わないけどね」

映美「さてと、そろそろ、仕事に行こうかな」

玲人「あれ? 今日は休みって言ってなかった?」

映美「さっき、シフト変わって欲しいって連絡来たのよ。ラッキーだよね」

玲人「あのさ。今日の分で美味しい物を食べたいとまでは言わないけど、今日の晩飯どうすんだよ?」

映美「まあ、それは適当に」

玲人「適当にできるほど、物がないだろ」

映美「そこを含めて、適当にって言ってんの」

玲人「飯くらいはちゃんと用意してくれよ」

映美「じゃあ、行ってきまーす」

玲人「あっ!」

ガチャンとドアを開けて、そそくさと出て行ってしまう映美。

玲人「はあ……。最悪」

場面転換。

学校の教室内。

机に突っ伏している玲人。

玲人「……」

小和「どったの、玲人」

玲人「腹減って死にそうだ……」

小和「なに? まさか、おばさん、昨日、仕事だったとか?」

玲人「……正解」

小和「ふーん。……土曜日に付き合ってほしいとこあるんだけど」

ガバっと顔をあげる玲人。

玲人「どこでも付き合う! なんでもする!」

小和「あははは。じゃあ、やきそばパン1個ね」

玲人「もう一声」

小和「じゃあ、コロッケパンも」

玲人「乗った!」

小和「はい。300円。おつりはいらないから」

玲人「お前は天使なのか?」

小和「早くいきなよ。売店、売り切れちゃうよ」

玲人「お、おう!」

ものすごい勢いで立ち上がり、ダッシュで教室を出ていく玲人。

場面転換。

町中。玲人と小和が並んで歩いている。

玲人の腕には多くの買い物袋。

玲人「あのさ……。いくらなんでもやるとは言ったけど、この量の荷物持ちはエグくないか?」

小和「帰りにハンバーガー屋、寄ってく?」

玲人「いやー、軽い軽い。まだまだ持てるぜ、俺」

小和「よかった。じゃあ、もう一軒、あそこ行っていい?」

玲人「……」

場面転換。

ハンバーガー屋。

玲人「つ、疲れた……」

そこに小和がハンバーガーセットをもってやってくる。

小和「ご苦労、ご苦労。はい、チーズバーガーセットでよかったんだよね?」

玲人「ありがたくいただきます!」

ガサガサと袋を開けて食べ始める玲人。

小和「いやー、玲人が友達でよかったー。買い物が捗る捗る」

玲人「くそ、金持ちめ! 今に見てろ。下剋上してやるからな!」

小和「私の分のポテトいる?」

玲人「いただきます」

小和「にしても大変よね、あんたん家も」

玲人「もう慣れたさ」

小和「……あんた、高校どうすんの?」

玲人「……行けると思うか?」

小和「おばさんに相談してみたら? 高校には行った方が良いって。もしかしたら何とかしてくれるかもよ?」

玲人「はは。宝くじが当たるより、ありえねー」

小和「おばさん、お金持ちを捕まえればいいのに。美人だし、まだまだいけると思うのよね」

玲人「俺に同意を求めんなよ。……けど、まあ、再婚すりゃ、今の極貧生活から抜け出せそうだけどな」

小和「だよね」

玲人「そうなったら、俺が邪魔だろうけどな」

小和「あっ……」

玲人「母さんには、俺のことは気にすんなって言ってんだけどな」

小和「あんたに言われなくても、きにしなさそう」

玲人「……反論できねえ」

小和「あーあ。それじゃ、大学に行ったら、あんたをこき使えなくなるのかー」

玲人「どこまで、俺を搾取する気なんだよ」

場面転換。

小和の家の前。

小和「今日はありがと」

玲人「ああ……。あれ?」

小和「どうしたの?」

玲人「いや……眩暈が……」

ドサッと倒れる玲人。

小和「え? 玲人? 玲人!?」

場面転換。

病室。

医者「……腎臓に酷い障害が起きてます」

映美「……どうにかならないんですか?」

医者「移植するしかないですね。……このままでは玲人くんは半年もつかどうかです」

映美「……」

場面転換。

小和が病室に入ってくる。

小和「玲人、調子はどう?」

玲人「……」

小和「……どうしたの?」

玲人「消えた」

小和「え?」

玲人「母さんがいなくなった」

小和「ど、どういうこと?」

玲人「どうもこうもねえよ! 母さんは俺を捨てやがったんだ!」

小和「……」

玲人「……いくら、金がないからって捨てることねーだろ。手術とか入院とかしなくてもいいからさ……。せめて、最後まで看取ってくれよ……」

小和「玲人……」

玲人(N)「それはまるで夜逃げのようだったらしい。俺が入院している間に、すべてを引き払って、母さんは消えてしまった」

場面転換。

医者「これ、君のお母さんから預かっている手紙だ」

玲人が受け取って中を見る。

だが、すぐに丸めて床に叩きつける。

玲人「なにが、なんとかなるだよ! なんねーよ! 自分は逃げやがったくせに!」

医者「……それがそうでもなさそうなんだ」

玲人「え?」

医者「幸運だったね。ドナーが見つかったよ」

玲人(N)「嘘のような本当の話。なんと、俺に腎臓を提供してくれるドナーが現れたそうだ。そのおかげで俺は一命を取り留めることができた」

場面転換。

学校内。

小和「玲人、今日の帰り、スイーツ食べに行かない?」

玲人「ごめん。今日はバイトなんだ」

小和「……今日も、でしょ?」

玲人「しゃーないだろ。生活、ギリギリなんだから」

小和「……おばさん、まだ見つからないんだよね?」

玲人「ああ」

小和「もう、4年かぁ」

玲人「母さんのことはもういいよ。俺は一人で生きてく決心をしたんだからさ」

小和「……なんかあったら言ってね。私、協力するからさ」

玲人「もう、十分だよ。お前にはいつも世話になってばっかだしさ」

小和「そ、そんなことないよ」

玲人「はは。母さんより、よっぽど、お前からものを貰ってるよ」

場面転換。

ガチャリとドアが開いて、玲人が部屋に入ってくる。

玲人「ふう。疲れたな……。あれ? 郵便? あっ!」

すぐに手紙を丸めて捨てる。

玲人(N)「母さんから定期的に手紙が届く。何が書いてあるかは知らない。いつも読まずに捨ててるからだ。俺を捨てた母親を俺は一生、許すことはできない」

場面転換。

家の中。

小和「玲人。明日の挨拶なんだけど」

玲人「うう……。めっちゃ緊張するな」

小和「あはは。そんなに心配しなくたっていいって」

玲人「殴られたりしないか? 大事な娘をって」

小和「昔の人じゃないんだから。逆に結婚を喜んでくれてるって」

玲人「それならいいけど……」

小和「……ねえ、おばさんって、やっぱりまだ見つからない?」

玲人「……母さんを探すのはこれで最後にするよ」

小和「え? どうして?」

玲人「いやさ、母さんを見つけたいのって、単に俺が『あんたが捨てた息子は、ちゃんと幸せになったぞ』って言いたいだけのエゴだからさ」

小和「でも……」

玲人「いいんだって。嫌味を言いたいだけで、会いたいわけじゃないんだからさ」

小和「……」

場面転換。

玲人「えーと、式に呼ぶのは……」

バンとドアが開いて、小和が入ってくる。

小和「玲人、見て! 今回の報告書」

玲人「……ああ、母さんのだろ? どうせまた見つからなかったって結果か?」

小和「ううん。見つかったって!」

玲人「ホントか!? どこにいるんだ?」

小和「……」

玲人「どうした?」

小和「……亡くなってたって」

玲人「……そっか」

小和「でもね、変なんだ」

玲人「なにがだ?」

小和「亡くなったの……10年前だって」

玲人「……けど、それって……」

小和「そう。玲人が倒れた時と同じ年なの」

玲人「……どういうことだ?」

小和「それがね。……玲人のドナーって、おばさんだったの」

玲人「……え?」

小和「玲人に腎臓を提供して、その影響で亡くなったって」

玲人「そ、そんなわけない。だって、ずっと母さんからは手紙が……」

小和「書き留めてたんだと思う。自分が生きてるって思わせるために」

玲人「……そっか」

玲人(N)「今まで俺は母さんから何も貰ってないと思い込んでいた。だけど、それは全然違っていた。母さんからは大切な物をちゃんともらってたんだ。俺の人生と母さんの愛情を」

終わり。

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