鍵谷シナリオブログ

言霊が招いた天下統一

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■概要
人数:5人以上
時間:15分

■ジャンル
ボイスドラマ、時代劇、コメディ

■キャスト
藤吉郎・秀吉
寧々
男1~男2
信長
家臣

■台本

村の外れ。

藤吉郎と男1が話している。

男1「なあ、藤吉郎。言霊って知ってるか?」

藤吉郎「なんだよ、急に。あれだろ? 夜に丸い火の玉みたいなのがフラフラ飛ぶ奴だろ?」

男1「それは人魂」

藤吉郎「……わ、わざとだよ、わ、ざ、と!」

男1「言霊って言うのは、言葉に力が宿るってことなんだよ。つまり、言ったことが本当になるって話」

藤吉郎「なんか、嘘くさい話だな」

男1「お前もさ、くだらない嘘をつくよりも、もっとこう、大きなことを言ったらどうだ?」

藤吉郎「大きなことっつってもなー。戦で手柄を上げる! とかか?」

男1「ちっちぇなー。本当に、お前の器は小さすぎる。その程度で大きなことなんて、男として恥ずかしいぞ」

藤吉郎「……俺は天下統一をする!」

男1「ぎゃはははは。いいね。それくらいじゃなくっちゃ。けど、ま、雑兵の俺たちには無理だよなー」

藤吉郎「……いや、俺はやるぞ! 天下統一をしてみせる!」

男1「……なんだよ、さっきの器が小さいって言ったこと、根に持ってるのか?」

藤吉郎「ち、ちげーよ! 俺はそんなことを気にするほど、器は小さくねーって」

男1「……いや、気にしてるだろ。思いっきり」

そこに男2がやってくる。

男2「あ、いたいた。おーい、藤吉郎!」

藤吉郎「ん? どうした?」

男2「どうしたじゃねーよ。約束の日、今日だぞ。ちゃんと用意してるのか?」

藤吉郎「え? なんだっけ?」

男2「はあ……。お前なぁ。度胸試しの件だよ。誰が一番、度胸を示せるかって賭けをやってただろ」

藤吉郎「……あー。そうだった!」

男1「お前ら、またくだらないことを……」

男2「留吉(とめきち)は熊の穴から、子熊を取ってきたんだぞ」

藤吉郎「え? 本当に? お前は?」

男2「俺はうめちゃんのかんざし取っただけ」

藤吉郎「それはそれで、すげーけどな。見つかったら殺されるぞ」

男2「ば、バレなきゃいいんだよ、バレなきゃ。それで、お前はどうするんだよ?」

藤吉郎「……そうだなぁ。あ、そういえば、今、信長様、来てるんだよな?」

男1「ん? ああ、そういえばそんなこと言ってたな。それがどうした?」

藤吉郎「俺は、信長様の草履を取ってきてやるよ」

男1「ばっ! お前、殺されるぞ、本気で」

藤吉郎「大丈夫大丈夫。まあ、見とけって」

場面転換。

館に忍び込む藤吉郎。

藤吉郎「えーっと、確か、この部屋に信長様が泊ってるはず……。お、あったあった。信長様の草履。さてと、これを拝借してっと」

懐に草履を入れる藤吉郎。

藤吉郎「へっへっへ。これで賭けは俺の勝ちだな」

そのとき、扉が開く。

信長「お前……何をしてるんだ?」

藤吉郎「へ? あ、ああ……えっと、これはその……温めてました」

信長「温めるだと?」

藤吉郎「はい。このように懐に入れておけば、信長様が履くときに温かいかと思いまして」

信長「はっはっは。お前、面白い奴だな」

藤吉郎「あ、ありがとうございます」

場面転換。

街の外れ。

男1「いやあ、お前、本当にスゲーな。まさか、信長様の家来になるなんて」

藤吉郎「は、ははは。まあ、ざっと、こんなもんよ」

場面転換。

遠くで合戦の音が聞こえてくる。

信長「やはり、劣勢か」

家臣1「……信長様。もはや、これまでかと」

信長「……ふーむ。猿よ」

藤吉郎「は、はい! なんでしょう?」

信長「何か、よい策はないか?」

家臣1「信長様! このような者が策を持っているなど……」

信長「今は猿の知恵でも借りたいところだ。なあ、どうだ?」

藤吉郎「あー、その……そうですね。戦は大将の首を取れば勝ちなので、そこを突くのはどうですかね?」

家臣1「はあ……。それができれば苦労はしないわ! 今川義元がどこに陣を張っているのか、わかるのか!?」

藤吉郎「いや、それは……」

信長「よし、猿よ。調べてこい」

藤吉郎「は?」

信長「期待しておるぞ」

藤吉郎「あー、いや……」

場面転換。

雨の中を走る藤吉郎。

藤吉郎「くそ。厄介なことになったぞ。どうする? ……あれ? そうえば、前に今川家に仕えてたからな。その情報網を使ってみるか」

場面転換。

街の外れ。

男1「藤吉郎、ホントにスゲーな。桶狭間で大活躍だったんだって?」

藤吉郎「はっはっは。まあな」

男2「なあ、そういえばさ、寧々って女のこと知ってる?」

男1「ああ。浅野家の養女だろ?」

男2「すげー、美人って話だぞ」

藤吉郎「ふーん」

男2「なあなあ、見に行こうぜ」

藤吉郎「うーん。あんま、気が進まんな」

場面転換。

屋敷に忍び込む3人。

男2「あ、いたいた。あそこあそこ」

男1「ちょ、押すなって」

藤吉郎「うわあああ!」

倒れこむ3人。

寧々「……あなた達、何をしてるの?」

男2「あー、いや、ちょっと……」

寧々「まったく。雑兵の分際で、こんなところに入り込むだなんて、本当に最悪ね」

男2「なんだよ、生意気な女だな!」

寧々「ふん!」

男1「けど、まあ、そんな態度を取れるのはそこまでだぞ」

男2「そうだな。こっちには藤吉郎がいる」

藤吉郎「……は?」

男1「お前なんて、藤吉郎にかかれば、一瞬で落ちるに決まってる」

藤吉郎「ちょちょちょ、何言ってるんだよ!」

男2「大丈夫だって。お前なら、あんな女、すぐに落とせるって。なんせ、雑兵から信長様の家臣になった男だからな」

藤吉郎「んな無茶苦茶な……」

寧々「あり得ないわ。私がそんな男の虜になるだなんて」

男1「じゃあ、勝負だ! 藤吉郎がお前を落とせるかどうか」

寧々「いいわよ、受けて立つわ」

藤吉郎「……え? いや、勝手に決めるなよ」

場面転換。

屋敷の入り口。

ガラガラと扉が開く。

寧々「あら、あなたは昨日の……」

藤吉郎「昨日の無礼を謝りに来たんだ。あと、その、賭けについては忘れてくれ」

寧々「いいの? そんなこと言っちゃって。お仲間に恨まれない?」

藤吉郎「いいんだよ。別に、あいつらが勝手にやった賭けだしな。それに……」

寧々「それに?」

藤吉郎「こんな猿顔に付きまとわれたら、お前だって嫌だろ?」

寧々「ぷっ! あははははは」

藤吉郎「なんだよ?」

寧々「自分からそんなことを言う人なんて珍しいわね。男なんて、自尊心の塊だと思っていたのに」

藤吉郎「はは。自尊心なんて持ちたくても持てないよ」

寧々「あら、そう? 信長様の家臣なんて、凄いと思うわよ」

藤吉郎「あれは運だよ、運」

寧々「あなた、面白い人ね。中に入らない? お茶くらい出すわよ」

藤吉郎「渋くないやつで頼む」

場面転換。

城の中。

展望台から外を見ている秀吉。

秀吉「……」

そこに寧々がやってくる。

寧々「秀吉様、これですべてが終わりましたね」

秀吉「おいおい寧々。様付けはやめてくれよ、気持ち悪い」

寧々「そうね。私も気持ち悪いと思ったわ。でも、今は、あなたは天下人。正室でも態度は改めないと」

秀吉「せめて2人の時は今まで通りにしてくれ」

寧々「……色々あったわね」

秀吉「ああ。信長様の無茶で、一夜城を建てさせられたり、金ヶ崎の戦いではしんがりを任された」

寧々「……そして、信長様が亡くなった」

秀吉「光成を倒して、あれよあれよという間に、なぜか天下人だ」

寧々「ふふふ」

秀吉「なんだよ?」

寧々「周りから勝手に期待されて、その期待に無茶をして応えただけなのにね」

秀吉「本当だよ! みんな、期待してるってテイで俺に押し付けただけだ」

寧々「断ればよかったのに」

秀吉「いや、断れる雰囲気じゃなかったんだよ」

寧々「ふーん」

秀吉「あーあ、すべては一つの見栄から始まったんだよなぁ」

寧々「見栄?」

秀吉「ああ。度胸試しで、信長様の草履を盗むっていうのをやったんだ。あれで、信長様の家来になって……」

寧々「で、こうなった、と?」

秀吉「ああ」

寧々「後悔してる?」

秀吉「んー。後悔したことはあったかな」

寧々「でも、もし、その見栄がなかったら、私とも出会ってなかったんじゃない?」

秀吉「そう考えれば、あの見栄は良かったのかもな」

寧々「もう、かも、ってなによ、かもって」

秀吉「ごめんごめん。確かに後悔することはあっても、今は、これでよかったと思ってる」

寧々「本当に?」

秀吉「ああ。本当だ」

寧々「なら、許してあげる」

秀吉「……あ」

寧々「どうしたの?」

秀吉「寧々、言霊って知ってるか?」

寧々「もちろん。夜に炎の玉がゆらゆら飛ぶやつでしょ?」

秀吉「……それは人魂だ」

寧々「……わ、わざとよ。わざと」

秀吉「言霊って言うのは、言葉に力が宿るってことなんだよ。つまり、言ったことが本当になるって話」

寧々「ふーん。嘘くさいお話ね」

秀吉「で、昔、その話を聞いたとき、俺は冗談で天下統一するって言ったんだ。今考えると冗談でも言えないことなんだけど」

寧々「じゃあ、その言霊の力で、あなたは天下統一できたってこと?」

秀吉「そうかもな、って話」

寧々「うーん。私はそう思わないけど」

秀吉「今になって思えば、信長様は死なせないって言っておけばよかったなぁ」

寧々「……」

秀吉「周りのやつらは俺を置いて、みんな死んでいった……」

寧々「……」

秀吉「……お前は俺を置いていかないでくれよ」

寧々「じゃあ、私の言霊。私は絶対に、あなたより先に死なない。83歳くらいまで生きるわ」

秀吉「ははは。それは心強い」

終わり。

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