■概要
人数:4人
時間:15分
■ジャンル
ドラマ・実写、現代、シリアス
■キャスト
月城 哲郎(つきしろ てつろう)
矢吹(やぶき)
月城 由佳(つきしろ ゆか)
和美(かずみ)
■台本
警察署。
書類に向き合っている哲郎。
目頭を抑え、引き出しを開ける。
哲郎「……おい、伊吹。アメ買ってきてくれ」
伊吹「え? もう無くなっちゃったんすか? 哲さん、アメ、食いすぎっすよ」
哲郎「うるせーな。落ち着かねーんだからしょうがないだろ」
伊吹「今回は続いてますね。禁煙」
哲郎「……あいつとの約束だからな」
伊吹「もう、5年も経つんですね」
哲郎「……」
伊吹「犯人は今も、のうのうと生きてるんですよね」
哲郎「……」
場面転換。回想。
道路。雨が降っている。
哲郎が血だらけの由佳を抱きかかえている。
哲郎「由佳! 由佳―――!」
場面展開。回想終わり。
矢吹「あれから、犯人の行動はピタリと止みましたからね。先輩を殺した犯人、どこでなにをしてるんですかね」
哲郎「……早く、アメ、買って来い」
矢吹「あ、はい」
矢吹が立ち上がって歩いていく。
哲郎「……」
場面展開。
夜。一人、机で資料を見ている哲郎。
そこに矢吹がやってくる。
矢吹「あれ? 哲さん、まだ帰ってないんですか?」
哲郎「ん? ああ」
矢吹「でも、明日は……」
哲郎「あん?」
矢吹「あ、いや、なんでもないです。俺は帰りますね」
哲郎「ああ」
矢吹「明日、すんませんっすけど」
哲郎「有給だろ? ゆっくり休め」
矢吹「お願いします」
矢吹が歩き去っていく。
哲郎が矢吹の方をチラリと見る。
哲郎「……」
場面転換。
朝。お墓の前に立っている哲郎。
お墓は綺麗な状態。
墓には『月城由佳』と書かれている。
哲郎「……」
場面転換。
警察署内。
机で資料を見ている哲郎。
そこに矢吹が駆け込んでくる。
矢吹「哲さん! あいつです! あいつがまた現れました!」
哲郎「っ!?」
立ち上がる哲郎。
場面転換。
霊安室。
女性の死体を見下ろしている哲郎と矢吹。
矢吹「司法解剖によると、胸部圧迫による心破裂らしいです」
哲郎「……状況から見て、普通の事故死だな」
矢吹「ですが、先ほど、これが届きました」
矢吹がビニール袋に入った紙を渡す。
哲郎「『再び、月は欠けていく』か」
矢吹「……もう一枚の方の紙には、殺害された宮本優月さんの死体の状況が書かれています」
哲郎「その場にいなければ、わからないってわけか」
矢吹「はい」
哲郎「……」
紙を矢吹に戻し、歩き出す哲郎。
矢吹「哲さん、どこに行くんすか?」
哲郎「……一から、捜査の見直しだ」
矢吹「……」
場面転換。
家の前。表札には佐藤と書かれている。
哲郎がインターフォンを押す。
場面転換。
家の中。
仏壇で手を合わせている哲郎。
目を開いて振り返る。
和美「ありがとうございます。息子もきっとお喜んでいると思います」
哲郎「いえ……。いまだに犯人を捕まえられず、申し訳ありません」
和美「……」
哲郎「朔真くんのことなのですが……」
和美「息子は部屋の中で首を吊っていました。ドアにも鍵がかかっていました」
哲郎「ええ」
和美「もし、その状況で捜査に行き詰っているなら、息子のことは考えないで捜査していただきたいんです」
哲郎「……どういうことですか?」
和美「あの……その……息子は……遺書を書いてたんです」
哲郎「え? なんですって?」
和美「私、見たんです。息子の足元に手紙が置いてあったのを」
哲郎「待ってください。その遺書が、犯人の犯行声明に変わっていたということですか?」
和美「申し訳ありません! 私、どうしても……どうしても、息子が死んだことが信じられなくて……」
哲郎「自殺ではなく、他殺だと思い込みたかったと……」
和美「はい……」
哲郎「……あの、最初にここに来た刑事のこと、覚えてますか?」
和美「え? あ、はい……」
哲郎が胸ポケットから、写真を出して、和美に渡す。
哲郎「この刑事じゃなかったですか?」
和美「そ、そうです!」
哲郎「……」
場面転換。
部屋の中。
白板には様々な人間の写真が貼られている。
その横には『真白嘉月』、『源朋晴』『佐藤朔真』『月城由佳』、そして、『宮本優月』と書かれている。
名前の下には日付がそれぞれ書かれている。
矢吹「……」
矢吹が手帳を見ている。
その手帳には高田和弘、木下正義、田代真中と書かれている。
そこに哲郎が部屋に入ってきている。
哲郎「ここにいたのか」
矢吹が慌てて手帳をしまう。
矢吹「あ、哲さん、お疲れ様です」
哲郎「……事件を洗い出してるのか」
矢吹「はい。……俺だって、犯人を捕まえたいですから」
哲郎「……」
矢吹「俺、絶対に犯人を許しません。先輩を奪った人間を絶対に……」
哲郎「今回は必ず、捕まえるぞ」
矢吹「はい!」
場面転換。
パトカーに男が乗せられ、連れて行かれる。
それを見ている哲郎と矢吹。
哲郎「……ニートって奴か」
矢吹「はい。全ての被害者が殺害されたときに、アリバイがありませんでした」
哲郎「動機は?」
矢吹「ただの快楽殺人ですね。あいつの部屋からスナップビデオが見つかってます」
哲郎「……」
矢吹「これで、事件、解決です」
哲郎がポケットからアメを出して口に入れる。
場面転換。
由佳の墓の前。
矢吹が立っている。
矢吹「先輩。終わりましたよ。5年ですよ、5年。たったの5年です。結局、哲さんの先輩への思いなんてそんなもんだったんです」
にやりと笑う矢吹。
矢吹「ようやく……ようやく、先輩を俺だけのものにできましたよ。先輩を愛しているのはもう、俺だけです」
哲郎「……やっぱり、お前だったか」
矢吹「なっ! 哲さん!」
哲郎「……由佳の墓。掃除したのお前だな?」
矢吹「……」
哲郎「最初から、お前は由佳だけがターゲットだった。だが、それを誤魔化すために、一連の事故者や自殺者を使って、連続殺人に仕立て上げた」
矢吹「……」
哲郎「名前に月が入った人間の死人が出れば、すぐに現場に行って仕込みをした。違うか?」
矢吹「よくわかりましたね」
哲郎「……あっさり自供するんだな」
矢吹「まあ、惚けてもいいんですけどね。なんて言うか、先輩を手入れた幸せで、もう、なんかどうでもよくなっちゃいました」
哲郎「なかなかうまい手だったが……もう少し被害者を増やすべきだったな」
矢吹「なんで俺が怪しいと?」
哲郎「内部の犯行だってことに気づいた。唯一の密室事件の謎が解けたからな」
矢吹「ああ、佐藤の自殺のことですか」
哲郎「それに、由佳だけ名前じゃなく、苗字に月が付いていた。さすがに違和感がある」
矢吹「ちょうど、いなかったんですよね。苗字に月が入っている人間が」
哲郎「そうか……」
矢吹「それにしても、5年で、先輩のこと、どうでもよくなるなんて、ガッカリですよ」
哲郎「……あいつのこと忘れたことはないさ」
矢吹「なにを白々しい。先輩の命日さえも忘れてたくせに」
哲郎「……」
場面転換。回想。
由佳の墓の前。
墓は落ち葉が積もり、少し汚れている。
哲郎「……すまんな由佳。今年は掃除はなしだ」
場面転換。回想終わり。
哲郎「……」
矢吹「あはははは。これで、本当に先輩は俺のものだ!」
場面転換。
新聞の記事。
『警察誤認逮捕。真犯人は刑事』という見出し。
場面転換。
警察署。
新聞を読んでいる哲郎が、新聞を閉じて机に置く。
引き出しを開けて、アメを取り出し、口に入れようとする。
哲郎「……」
場面転換。回想。
家の中。
タバコを吸っている哲郎。
由佳「ねえ、禁煙の話、考えてくれた?」
哲郎「ん? んー。そう簡単には止めれねーなぁ」
由佳が哲郎の咥えているタバコを取る。
哲郎「お、おい!」
由佳「私と約束して」
哲郎「なにを?」
由佳「次の事件が解決するまで禁煙するって」
哲郎「ああ? なんだそりゃ?」
由佳「吸いたかったら、頑張って解決することね」
哲郎「そう言われてもなぁ」
由佳「刑事なんでしょ?」
哲郎「……はいはい。わかりましたよ」
場面転換。回想終わり。
哲郎「……」
アメを置き、ポケットから煙草を出す。
そして、火を付けて吸い込む。
哲郎「……不味いな」
タバコを消し、アメを咥える。
終わり。