■概要
人数：5人以上
時間：10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、コメディ
■キャスト
結弦（ゆずる）
羽生 翼（はにゅう つばさ）
武（たける）
男子１～３
女子１～３
教師
■台本
弓弦（Ｎ）「現実は小説より奇なり、とはよくいうけど、やっぱり現実は現実。そんなに変わったことはない。死んでも異世界になんかに転生しないし、急に女の子にモテモテになったりもしない。小説と現実をごっちゃにしてはいけないのだ」
場面転換。
教室内。
教師「今日からうちのクラスに転校してきた、羽生翼くんだ。みんな、仲良くな」
翼「羽生翼です。よろしくお願いします」
教室内がざわざわと騒がしくなる。
男子１「おいおいおい。マジかよ」
女子１「きゃー。凄い綺麗な顔」
男子２「あれで、男かよ」
女子２「翼くーん」
弓弦「……この時期に転校してくるなんて珍しいな」
武「……」
弓弦「どうした、武？」
武「弓弦。俺は気づいたぜ」
結弦「なにが？」
武「今は説明してる時間がない。放課後まで待ってくれ」
弓弦「……勿体ぶるなぁ。どうせくだらないことだろ？」
武「ふっふっふ。今回だけは俺に感謝することになるぜ」
結弦「期待しないで待っててやるよ」
場面転換。
チャイムが鳴り響く。
生徒たちが下校のため、廊下を歩いている。
教室内。
ガラガラと教室のドアを閉める武。
武「よし、クラスのみんなは帰ったな」
結弦「で？ 気づいたことってなんだ？」
武「今日、転校してきた羽生翼のことだよ」
結弦「羽生がどうかしたのか？」
武「……あいつ、女だ」
結弦「……は？」
武「わかる！ わかるぞ、そのリアクション。実に凡人のリアクションだ」
結弦「なんか、ムカつくな。で、そういうからにはちゃんと根拠があるんだろうな」
武「もちろんだ。まずは、この時期に転校してきたということだ」
結弦「確かに、あんまりこの時期に転校してくるっていうのは聞かないな。で？ それがなんの根拠なんだ」
武「焦るなって。いいか。普通はあり得ない時期の転校ってことは、理由は普通じゃないってことだ」
結弦「うーん。そうとも限らねーと思うけどな」
武「まあ、待て。これはあくまで根拠の一つってだけだ。で、次は、名前だ」
結弦「名前？ まあ、珍しい名字だけど」
武「違う！ 名前の方だよ、名前の方」
結弦「……翼、だよな。それが？」
武「男でも女でもある名前だ」
結弦「んー。まあ、確かにな。男でも女でも翼って名前の人はいるな」
武「そして、最後の根拠は、あの顔だ！」
結弦「顔？」
武「そう！ まさしく美少年。つまり、美少年ってことは、中性的ってことだ」
結弦「確かに、綺麗な顔だとは思うけど……」
武「いいか、弓弦。この３つが揃ったということは、翼ちゃんは女だって確定したってことだ」
結弦「いやいやいや。ラノベじゃねーんだから。大体、なんで性別を偽る必要があるんだよ？」
武「それはお前！ ……色々あるんだろ」
結弦「色々ってなんだよ？」
武「知らねーよ。きっとそうしなきゃいけない事情があるんだろ。……とにかく、俺は翼ちゃんゲットのために動くぞ」
結弦「ゲット？」
武「こういうのって、男の友情と見せかけて仲良くなってから、女だってカミングアウトされるって流れだよ。そこまできたら、彼女フラグが立つってわけだ」
結弦「……ラノベじゃないんだから、ねーよ」
武「ま、お前は指をくわえて見てるんだな。ふはははははは」
場面転換。
教室内。
男子１「ねえねえ、翼くーん。喉渇かない？ 俺、ジュース買ってきたんだけど」
翼「ありがとう。でも、奢って貰うなんて悪いから」
男子２「翼くん、翼くん！ 昼休みさ、キャッチボールしない？ 二人でさ？」
翼「誘ってくれてありがとう。でも、僕、みんなとサッカーする約束があるんだ」
その様子を見ている女子たち。
女子１「なに？ 男子たち気持ち悪いんだけど」
女子２「なんだろうね？ 急にチヤホヤしてさ」
女子１「おかげで、私たちが翼くんに近づけないじゃない」
その横では頭を抱えている武。
武「く、くそ……」
結弦「……武、お前まさか」
武「口が滑っちまった！ 俺一人で出し抜くつもりだったのにぃー！」
結弦「……それで、朝から男たちが気持ち悪い態度を取ってたのか」
場面転換。
チャイムが鳴り響く。
男子１「ねえねえ、翼くん、一緒に帰ろうよ」
男子２「おい！ 俺が翼くんと一緒に帰るんだぞ！」
男子３「はあ？ お前は黙ってろよ！」
翼「あははは……。ねえ、みんなで帰ればいいんじゃない？」
男子２「それじゃ、意味ないんだよ！」
男子１「そうだそうだ！」
男子３「ってことで、翼くん。この中で誰と一緒に帰りたい？」
翼「え、えっと……」
そこに結弦がやってくる。
弓弦「おい、羽生。先生がプリント渡すから職員室に来いって」
翼「あ、うん。わかった。今、行くよ」
男子１「あ……翼くん」
場面転換。
廊下を結弦と翼が歩く。
翼「……結弦くんだっけ？ ありがとね」
結弦「あれ？ 嘘だってバレた？」
翼「うん。だって、さっきまで先生のところにいたし」
結弦「そっか」
翼「僕、ああやってグイグイこられるの苦手でさ」
結弦「クラスの馬鹿どもなんて気にするなよ」
翼「ははは。ありがとう。でも、なんだろ？ クラスのみんな、なんか僕を変な目で見てる感じがするんだよね」
結弦「は、はははは……」
翼「それがなんか気持ち悪くってさ」
結弦「だろうな。じゃあ、羽生。また何かあったら気軽に言ってくれ」
翼「ねえ、結弦くん」
結弦「ん？」
翼「翼でいいよ」
結弦「そっか。じゃあな、翼」
翼「うん。また明日ね、結弦くん」
場面転換。
教室内。
翼「ねえ、結弦くん。バスケ勝負しようよ」
結弦「ほう？ あんなにボロ負けしておいて、いい度胸だ」
翼「きょ、今日こそは絶対勝つから」
結弦「ふん、完膚なきまで叩きのめしてやるぜ」
場面転換。
教室内。
翼「ねえ、結弦くん、一緒にお弁当食べようよ」
結弦「いいけど、俺、パンだから速攻で食い終わっちまうぞ？」
翼「なら、また僕のお弁当を少しあげるよ」
結弦「マジで？ 腹減ってたから助かる」
翼「言っとくけど、少しだからね。この前、半分くらい食べたでしょ」
結弦「男が小さいこと言うなよ」
翼「もう……」
場面転換。
結弦と翼が一緒に歩いている。
翼「あはははは。それは酷いね」
結弦「だろ？ 武はホント、バカだからさ」
翼「ねえ、そういえば、もうすぐ修学旅行だね」
結弦「ん？ ああ、そういえば、そうだな」
翼「……僕、結弦くんと一緒の班になりたいんだけど、いい？」
結弦「いや、俺は最初からそのつもりだったんだけど」
翼「ふふふ。そっか。よかった」
結弦「そこまでか？ 普通、友達と一緒の班作るだろ」
翼「そうなんだけどさ」
翼がピタリと立ち止まる。
結弦「どうした？」
翼「結弦くんには、僕の秘密、教えておこうかな」
弓弦「秘密？ なんだよ？ ベッドの下にエロ本隠してるとかか？」
翼「僕……本当は女なんだ」
結弦「……は？」
翼「ビックリした？ でも、本当なんだ」
弓弦「いやいやいや！ んなわけねーだろ。大体、なんで男だって偽る必要があるんだよ？」
翼「これには色々と事情があって……」
弓弦「……色々な事情？」
翼「とにかく、みんなには内緒にしておいてね。 それじゃ、また明日！ バイバイ」
翼が走り出していく。
結弦「……いや、ラノベじゃないんだから」
弓弦（Ｎ）「前言撤回。現実は小説より奇なりのようだ」
終わり。