ダンディライオン

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■概要
人数:5人以上
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス

■キャスト
千隼(ちはや)
涼真(りょうま)
誠(まこと)
男1~3
子供

■台本

公園。

千隼「ちょっと、止めてよ」
男1「ぎゃははは。ほらよ、パス!」
男2「キャッチ! そして、そのままトライ!」

男2がカバンを地面に叩きつける。

千隼「僕のカバン……」
男1「もう一回やろうぜ」
男2「よーし、じゃあ、キックオフからかな?」
千隼「もう止めてよ」
男1「嫌なら、取り返せばいいだけだろ」
千隼「うう……」

そこに涼真がやってくる。

涼真「弱い者いじめか? 格好悪いな」
男1「なんだよ、お前?」
涼真「いじめを止めに来た人、かな」
男2「うるさいな。俺らは遊んでるんだから、邪魔するなよ」
涼真「カバンをボール代わりにするのが、遊びなのか?」
男1「だって、ボールにちょうどいいんだもんな?」
男2「そうそう。だからいいの」
涼真「ふーん」

涼真が歩いていき、ベンチの上に置いてあるカバンを持ち上げる。

男1「おい、それ、俺のカバン!」
涼真「おら!」

涼真がカバンを投げる。

男1「何するんだよ!」
涼真「いや、ボールにちょうど良かったからさ」
男1「ふざけんな!」

カバンを追って走る男1。

涼真「よし、じゃあ、こっちもだ」
男2「ちょっと、止めてよ!」
涼真「おらーー!」

カバンを投げる涼真。

涼真「おおー、飛ぶ飛ぶ! あ、でも中身が出ちゃったな」
男2「ふざけんなよ!」

泣きながらカバンを追いかける男2。

涼真「ほら、行くぞ」
千隼「え? あ、うん……」

場面転換。

千隼「……ありがとうございました」
涼真「偉かったな」
千隼「え?」
涼真「泣かなかっただろ? 一度も」
千隼「……う、うん」
涼真「ああいう奴らは泣いたりしたら、余計、調子に乗るもんだ」
千隼「……」
涼真「でも、君は泣かないことがせめてもの抵抗って考えているかもしれないが、それは違うぞ」
千隼「……そうなんですか?」
涼真「ああ。耐えるだけだと、やり返して来ないから、そこでもドンドン調子に乗っていくんだ」
千隼「じゃあ、どうすれば……」
涼真「一番いいのはやり返すことだな。ああいう奴って、意外とやり返されたらビビるもんだよ」
千隼「でも……」
涼真「わかってる。難しいよな」
千隼「うん……」
涼真「俺も君くらいのときは苛められてたんだ」
千隼「そうなんですか?」
涼真「ああ。毎日が地獄でね。学校に行くのが本当に嫌だったよ」
千隼「……」
涼真「そんなあるとき、一人の男の人に助けて貰ったんだ。でも、いつもその人に助けてもらえるわけじゃないからね。また、いじめられるようになったんだ」
千隼「それで、どうしたんですか?」
涼真「学校に行くのを辞めた」
千隼「え?」
涼真「その人に言われたんだ。学校なんて、無理していかなくてもいいって。その人も、同じように学校には行かないで、家で勉強してたらしいんだ」
千隼「……そんなこと、考えたこともなかった」
涼真「うん。そうだね。親や周りは学校に行くことが当たり前のように言うからね」
千隼「うん。お父さんもお母さんも、つらくても学校に行きなさいって……」
涼真「日本人の死因の一番は病気でも事故でもない。何か知ってるかい?」
千隼「え? えーっと……。わからないです」
涼真「自殺なんだ」
千隼「自殺……」
涼真「そう。病気になることよりも、事故に遭うことよりも、死にたいって思うことの確率の方が高いんだ。毎日苛められて過ごしていたら、ドンドン、自殺を考えるようになる」
千隼「……怖いですね」
涼真「ああ。だからさ、そんなことになるくらいなら、学校なんて行かなくていいんだ」
千隼「はい」
涼真「あ、もちろん、家でちゃんと勉強はするんだよ?」
千隼「(笑って)はい」
涼真「それじゃ、ね」
千隼「ありがとうございました」

場面転換。
千隼と誠が歩いている。

千隼「じゃあ、今度僕の家においでよ」
誠「うん。行く行く」

そこに涼真が歩いてくる。

涼真「あれ? 久しぶりだね」
千隼「あ、お兄さん」
涼真「友達かい?」
千隼「はい。フリースクールで仲良くなったんです」
涼真「じゃあ、学校は?」
千隼「はい、行ってません」
涼真「そっか。頑張ったね。偉い偉い」
千隼「へへへ。ありがとうございます」
涼真「それじゃね」
千隼「はい、また」

涼真が歩き去っていく。

誠「今の人は?」
千隼「僕の恩人だよ」

場面転換。
千隼と誠が走っている。

千隼「誠くん、遅刻するよー」
誠「ま、待ってー」
男3「おい、誠!」
誠「ひっ!」
男3「学校サボって、何やってんだよ! お前のせいで、俺、先生に怒られたんだぞ」
誠「う、うう……」
男3「お前にはそのお礼をしないとな」
千隼「……」
男3「なんだ、お前? 邪魔だからどっかいけ」
千隼「嫌だ!」
男3「なんだ、お前? お前も殴られたいのか?」
千隼「うわああああ!」
男3「うわっ! やめろって!」

千隼が男3をボカボカ殴る。

男3「いってぇ! やったな!」

場面転換。
千隼と涼真が原っぱで並んで座っている。

涼真「君は凄いな。本当に凄いよ」
千隼「ははは。結局、負けちゃいましたけど」
涼真「勝ち負けは問題じゃないよ。誰かのために戦ったのが凄いんだ」
千隼「……でも、お兄さんだって」
涼真「俺の場合は相手は子供だったからね。勝てるってわかってたからやったんだよ。でも、君は強い相手に向っていった」
千隼「……」
涼真「よし、君にはこれをプレゼントしよう」

咲いてあるタンポポを取って、輪っかにする。

千隼「……タンポポの指輪?」
涼真「俺はね、花の中で一番タンポポが好きなんだ」
千隼「……珍しいですね」
涼真「はは。そうだろうね。みんな、雑草だろって笑うよ」
千隼「……」
涼真「タンポポはね、英語でダンディライオンって言うんだ」
千隼「ライオン?」
涼真「そう。花弁がライオンの歯みたいだから、ダンディライオン」
千隼「へー」
涼真「格好いいだろ? それに、雑草で踏まれてもへこたれないんだ」
千隼「……」
涼真「なんか、君みたいだなって思って」
千隼「え?」
涼真「弱弱しく見える。でも、実はライオンのような牙を持っている。そして、何度踏まれてもへこたれない」
千隼「あははは。なんか照れちゃいます」
涼真「でもね、俺が一番好きなところは花じゃないんだ。タンポポは花が咲いた後、綿毛になるだろ?」
千隼「はい」
涼真「役目が終わった後、綿毛に種を乗せて、遠くに飛ばす。そして、その種を受け取った場所で、また新しい、タンポポが咲く」
千隼「……」
涼真「つまり、俺の想いが君に届いて、君の中で花が咲いたんだ」
千隼「え?」
涼真「俺の人を助けたいって思いが、君の中にも芽生えたって思えてさ、嬉しいんだ」
千隼「……ふふ。それじゃ、僕も誰かに、この思いを飛ばさないといけないですね」
涼真「ありがとう。そうやって、ドンドン増えていくといいなって思うんだ」
千隼「……そうですね」

場面転換。
10数年後。
原っぱで、千隼と子供が並んで座っている。

子供「助けてくれて、ありがとう」
千隼「……君は凄いな。3人相手にかかっていくなんて」
子供「……友達がイジメられてるのを見て、カッとなっちゃって」
千隼「そっか」
子供「でも、勝てなかった……」
千隼「ううん。凄いよ。負けるかもしれないのに、友達のために戦うのって、凄く勇気がいることだだからね」
子供「……」
千隼「よし、そんな君にはこれをプレゼントしよう」

千隼がタンポポを取って、輪っかにする。

子供「タンポポの指輪」
千隼「うん。僕は花の中で、タンポポが一番好きなんだ……」

終わり。

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