■概要
人数:5人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、コメディ
■キャスト
一樹(かずき) 17歳
冴(さえ) 17歳
隼人(はやと) 17歳
老人 65歳
■台本
試合会場。
空手の試合が行われている。
男1「はっ!」
一樹「うっ!」
男1に正拳突きをもらい、崩れる一樹。
審判「一本!」
一樹「く、くそ……」
試合を見ていた冴。
冴「あー、負けちゃったか」
場面転換。
河原で走っている一樹。それを見ている冴。
一樹「はあ、はあ、はあ……」
冴「……」
場面転換。
河原で正拳突きをしている一樹。それを見ている冴。
一樹「301! 302! 303……」
冴「……」
場面転換。
河原で型をやっている一樹。それを見ている冴。
一樹「はっ! やっ!」
冴「まだやるの? ハードワークじゃない?」
一樹「(無視して)はっ! やっ!」
そこに隼人がやってくる。
隼人「おい、一樹」
一樹「あ、隼人くん……」
隼人「お前、この前の試合、また一回戦負けだってな」
一樹「……」
隼人「お前、空手の才能ねーよ。辞めちまえよ」
一樹「……」
冴がずんずんと歩み寄ってくる。
冴「ちょっと! 辞めるかなんて、他人が決めることじゃないでしょ!」
隼人「迷惑なんだよ! お前のせいで、うちの道場は笑われ者になってるんだからな」
一樹「……ごめん」
冴「気にすることないって」
隼人「冴。お前、師範の娘だからって調子に乗るなよ」
冴「別にそれは関係ないでしょ」
隼人「一樹、かかってこい」
一樹「え?」
隼人「俺に一撃でも当てれれば、認めてやるよ」
一樹「でも、僕は……」
隼人「自信ないってか? そんなんだから、お前は弱いんだよ」
一樹「……やるよ」
冴「ちょっと!」
隼人「お前は黙ってろ」
一樹と隼人が向かい合う。
隼人「こい」
一樹「はっ!」
隼人「おっと」
一樹「やっ!」
一樹の攻撃が全部躱される。
隼人「おらっ!」
一樹「うわっ!」
隼人の一撃を食らって、倒れる一樹。
隼人「弱っ! ……まだ、道場の小学生の方が強ぇーって」
スタスタと歩き去っていく隼人。
一樹「うっ……うう……」
冴「一樹……。しょうがないよ。あいつ、全国チャンプだし」
一樹「……(涙を我慢して)」
場面転換。
夜の河原(人の声がしない。カエルの鳴き声など)
一樹が走り込みをしている。
一樹「はっ、はっ、はっ」
場面転換。
木に正拳突きをしている一樹。
一樹「ふっ! ふっ! ふっ! ……」
ピタリと動きを止める、一樹。
一樹「……やっぱり、辞めた方がいいのかな」
そこに老人がやってくる。
老人「なんだ、止めるのか」
一樹「ひゃあ!」
老人「おお、すまんな。脅かしてしまったか」
一樹「……えっと、なんでしょうか?」
老人「いつもはあと100本の正拳突きをしていたではないか」
一樹「え? なんでそれを?」
老人「この辺に住んでいてな。それで、いつも坊主の練習を見ていたわけだ。毎日、練習をサボらないのは本当に凄いと思うぞ」
一樹「……」
老人「どうかしたのか?」
一樹「……いくら練習しても、僕には才能がないんです」
老人「才能が?」
一樹「空手の大会で、一回も一回戦を勝ったことないんです。それどころか、道場での練習試合でも……」
老人「なんと」
一樹「僕には才能がないんです。だから、こんな努力なんて意味がないんだ……」
老人「ふむ……。坊主が勝てなのは、才能がないからじゃないと思うぞ」
一樹「え? どういうことですか?」
老人「儂が思うに、坊主には格闘家として、無くてはならないものが足りないな」
一樹「それは才能じゃ?」
老人「いやいや。才能自体は坊主は恵まれている方だよ。だが、その足りないものは、きっかけが必要だな」
一樹「きっかけ……ですか?」
老人「明日、坊主が一発でのされた、あの男を連れて来い」
一樹「え?」
老人「辞めるかどうかは、それからでも遅くはないだろ?」
一樹「……」
場面転換。
河原。
一樹と隼人、冴、老人がいる。
隼人「なんだ、一樹。こんなところに呼び出して」
老人「これから、この坊主と試合をしてもらう」
隼人「はあ? 昨日、やられたのに足りないのか?」
一樹「ちょ、ちょっと……」
老人「まあ、心配するな」
冴「……一樹、なんなの、このお爺さん」
一樹「僕も、よくわからないんだけど……」
老人「さてと、始める前に、坊主。これを飲め」
老人が一樹に瓶を渡す。
一樹「……これは?」
老人「まあ、飲んでみろ」
一樹「……わかりました」
一樹がごくごくと瓶の中を飲む。
一樹「うっ! ……おじいさん、これ、まさか」
老人「ああ。お酒だ」
冴「ちょっと! 何飲ませてるのよ!」
老人「まあまあ。さあ、試合だ」
一樹「……うう。僕、お酒に弱いんですよ。お正月のお神酒でも……」
老人「これはただの酒じゃない。酔拳の達人が飲んでいたという特別な酒だ」
一樹「酔拳?」
老人「飲んだ者の真の力を引き出すんだ」
一樹「うう……。なんか、ふらふらする気がする」
老人「よし、じゃあ、始めるぞ。二人とも前へ」
一樹と隼人が向かい合う。
老人「はじめ!」
隼人「今日はお前が泣いても止めねえからな」
一樹「……」
隼人「おい、聞いてんのか?」
一樹「うるせえな。とっとと来いよ」
隼人「なんだと! おら!」
一樹「おっと!」
隼人が攻撃を繰り出すが、すべてを躱す一樹。
隼人「な、なんだと?」
一樹「なんだよ、もう終わりか? なら、今度はこっちから行くぜ」
隼人「ちっ!」
一樹「おら、おら、おら!」
隼人「ぐああ!」
連続攻撃を食らい、倒れる隼人。
隼人「ばかな……」
一樹「ははははは。お前、雑魚いな。小学生より弱いんじゃないか?」
隼人「く、くそ……」
冴「すごい……。酔拳の達人のお酒って本当に効果あったんだ」
老人「はっはっは。そんなもんあるわけないだろ」
冴「え?」
老人「さっき坊主に飲ませたのはノンアルコールの特別な飲み物だ」
冴「じゃあ、一樹は……」
老人「酔っていると思い込んでるだけだ。坊主に足りないのは、自信だ。気弱な性格のせいで、力をだせてなかっただけ。あれが本来の坊主さ」
一樹「あははははははは! 俺って最強!」
冴「……うーん。いつもの一樹の方が私は好きだな」
老人「どうやら、自信を持たせすぎたかもしれんな」
一樹「わはははははは!」
終わり。