■概要
人数:5人以上
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス
■キャスト
吉川 優真(よしかわ ゆうま)
智子(ともこ)
奈々子(ななこ)
本宮 隆文(もとみや たかふみ)
会長
アナウンサー
■台本
試合会場のリングの上。
アナウンサー「吉川選手、おめでとうございます。新、日本チャンプとして、一言お願いします」
優真「まずは応援してくださったファンのみなさん、本当にありがとうございました。あとは、今、ここにきているかはわかりませんが、お礼を言いたい人がいます」
アナウンサー「誰ですか?」
優真「それは……」
場面転換。
優真が5歳の頃。
公園内で優真が泣いている。
優真「うわーん……」
そこに通りかかる智子。
智子「……どうしたの?」
優真「みんなが……僕に意地悪するんだ」
智子「そっか……。悪い子たちだね」
優真「うん……」
智子「でもね。泣いてるだけじゃ、状況は何も変わらないんだよ」
優真「え?」
智子「頑張って、強くなろう」
場面転換。
ボクシングジム。
練習生が練習している。
会長「おお、智子ちゃん。お久しぶり」
智子「会長、お久しぶりです」
会長「もしかして、この子、智子ちゃんの?」
智子「あはは……。うちはまだ……。近所の子です。ね?」
優真「え? あ、はい……」
会長「この年から始めるなら、きっと強くなれるさ。坊主、頑張ろうな」
智子「頑張ってね、優真くん」
優真「はい!」
場面転換。
道を走る優真(16)。
立ち止まってインターフォンを押す。
少しして、ドアが開く。
優真「智子さん! 俺、プロテスト……」
智子「うう……優真くん。きーくんが……きーくんが……うわーん」
優真「……」
場面転換。
葬式会場。
智子「……」
そこに優真がやってくる。
優真「……智子さん」
智子「優真くん。ごめんね。取り乱しちゃって」
優真「気にしないで」
智子「……きーくんが死んじゃって。私……これから、どうしたらいいのかな?」
優真「……」
智子「もう、生きてくの、辛いよ」
優真「智子さん。俺、智子さんのおかげで強くなれました。プロテスト受かったんです」
智子「……そっか。おめでとう。……私も、強くならなくっちゃね」
優真「智子さんはそのままでいいです」
智子「え?」
優真「俺が……強くなるから。智子さんの分まで強くなる。だから、智子さんは泣いててもいいよ」
智子「……ありがとう」
場面転換。
ロードワークをしている優真(18)。
そこに自転車で奈々子がやってくる。
奈々子「優真―」
優真「……」
奈々子「おーい、無視かー」
優真「はあ、はあ、今、走ってんだから、しゃべらせるなよ」
奈々子「来週の土曜日さー、高岡たちと遊びに行くんだけど、優真も行かない?」
優真「行かない」
奈々子「えー、なんでー?」
優真が立ち止まる。
優真「A級の決勝が近いんだよ」
奈々子「あー、そっか。試合かぁ」
優真「じゃあな」
再び走り出す優真。
奈々子「ねえ、優真。なんで、そんなに頑張るの?」
優真「なにがだ?」
奈々子「だって、高校生って言えばさ、みんな遊びたい盛りでしょ? 優真はなんでそんなに頑張れるのかなって」
優真「約束したんだ」
奈々子「約束?」
優真「強くなるって」
奈々子「ふーん」
場面転換。
道を歩く優真と奈々子。
優真「……なんで、ついて来るんだよ?」
奈々子「いいじゃん」
優真「別にチケット渡すだけだぞ」
奈々子「じゃあ、終わったら何か食べに行こうよ」
優真「行くわけないだろ」
奈々子「なんでー?」
優真「計量があるんだよ! 外食なんて怖くてできるわけねーだろ」
奈々子「そうなんだ」
優真「……あ、いたいた。智子さん」
智子「あ、優真くん。……もしかして、彼女さん?」
奈々子「えへへ」
優真「違います。あ、これ、チケットです」
智子「毎回、いいのに。ちゃんと買うよ」
優真「……いえ、これくらいはさせてくださいよ」
智子「ありがと。決勝頑張ってね」
優真「はい! それじゃ」
智子「うん。バイバイ」
優真と奈々子が歩き始める。
奈々子「ふーん」
優真「なんだよ?」
奈々子「あの人か」
優真「……」
奈々子「でも、結構年上じゃない?」
優真「別にいいだろ」
場面転換。
道を走る優真。
だが、フラフラしている。
優真「……いてっ! さすがに昨日の今日じゃきついか……」
そこに奈々子がやってくる。
奈々子「昨日はおめでとー」
優真「ああ」
奈々子「よくわからないけど、優真くんって強いんだね」
優真「……まだまださ」
奈々子「これでチャンピオン?」
優真「いや、A級で優勝しただけだからな」
奈々子「ふーん。ま、優真くんならなれるよ、チャンピオン。知らんけど」
優真「……わからんなら、適当なこと言うな」
そこに智子と隆文がやってくる。
智子「あ、いたいた。優真くん」
優真「智子さん」
智子「会長さんに聞いたら、ここだって言うから。昨日は試合だったんだから、休めばいいのに」
優真「ははは……。休むのには慣れてなくて」
隆文「いやあ、昨日は凄かったね」
優真「……ありがとうございます」
智子「紹介してなかったよね? 本宮くん。今、お付き合いさせてもらってるんだ」
優真「……」
隆文「智子から、優真くんのことは聞いてるよ。ずっと智子を気にかけてくれてたみたいだね」
優真「……」
智子「次の試合も見に行くから! 次はタイトル戦だね」
優真「……」
智子と隆文が行ってしまう。
奈々子「優真くん?」
優真「……」
場面転換。
シャドーしながらロードワークをする優真。
優真「シッ、シィ、シィ!」
そこに奈々子がやってくる。
奈々子「またやってる」
優真「……なんだよ?」
奈々子「ねえ、もういいじゃん」
優真「……」
奈々子「もう、優真くんが強くなる必要はなくなったじゃん。頑張らなくてもいいんだよ?」
優真「……約束だから」
奈々子「その約束が意味ないじゃんって話だよ」
優真「……俺は智子さんのために強くなるって約束したんだ」
奈々子「だから、それが……」
優真「智子さんのために強くなりたい。その想いは……その想いだけは変わらない。たとえ、智子さんを幸せにできる人が俺じゃなくても」
奈々子「……そんなの、報われないじゃん」
優真「この気持ちだけには嘘を付きたくないんだ」
優真がシャドーをしながらロードワークを続ける。
奈々子「……」
場面展開。
試合会場。
アナウンサー「さあ、A級トーナメントを制した吉川。タイトル奪取への挑戦が始まります」
カンとゴングが鳴り、歓声が沸きあがる。
終わり。