鍵谷シナリオブログ

雪が見たくて

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■概要
人数:2人
時間:10分

■ジャンル
アニメ・ドラマ、現代、シリアス

■キャスト
孝太郎(こうたろう)
雫(しずく)

■台本

〇山・山頂

孝太郎が登山をしている。

登山の道には雪が残っている状態。

頂上に到着し、景色を見渡す。

孝太郎「うん。絶景だな」

〇町の外観

春。穏やかな陽気が町を照らしている。

温かくなり始め、道行く人の服装は軽装になりつつある。

〇孝太郎の部屋

布団の中で寝ている雫。

息が荒く、苦しそうな雫。

頭には氷が入った袋が置かれていて、頭を冷やしている。

その横では、孝太郎が雫を看病している。

孝太郎は厚着をした状態。

雫「はあ、はあ、はあ……」

孝太郎「大丈夫か、雫? もっと、下げてやるからな」

孝太郎がエアコンのリモコンを持つ。

設定温度は9度で、もっと、下げようとするが、下がらない。

孝太郎「くそ……」

リモコンを床にたたきつける孝太郎。

雫「……孝太郎、ごめんね。でも、いいの」

孝太郎「何言ってるんだよ。……そうだ! アイス! アイス買ってくるよ、キンキンに冷えたやつ」

雫が首を横に振る。

雫「ううん。今は孝太郎と一緒にいたい。一秒でも長く……」

孝太郎「雫……」

孝太郎の目に涙が浮かぶ。

※ここから回想。

〇公園(夜)

真冬。孝太郎がジャンバーを着て、小走りしている。

孝太郎「うー、さぶさぶ」

すると前から、薄い着物姿の雫がフラフラとした状態で歩いてくる。

孝太郎「……」

すれ違う寸前、倒れかかる雫。

慌てて抱きかかえる孝太郎。

孝太郎「大丈夫ですか!? ……って、冷たい?」

〇孝太郎の部屋

孝太郎の息が白い。

かなりの厚着をしている孝太郎。

そんな中、雫がアイスを食べている。

孝太郎「……雪女、ね……」

雫「にわかには信じられないと思いますが…手…」

孝太郎「いや、君の体温とこの部屋で平気な顔をしてアイスを食べていることを見れば、納得せざるを得ないかな」

雫が恥ずかしそうに俯く。

孝太郎「で、雪女さんが、公園で何してたの?」

雫「実は……一度、都会が見たくて田舎から出てきたんです」

孝太郎「へー。雪女さんも、人間とあまり変わらないんだね」

雫「冬なら、大丈夫かと思ったんですが、意外と、その……都会って暑いんですね」

孝太郎「ええ? これが暑い? ……うーん。まあ、確かに最近は温暖化の影響で、気温が高くなってるとか聞いたことあるな。……ん? てことは、まさか倒れそうになったのは……」

雫「……はい。のぼせただけです」

〇街中

雫と孝太郎がイルミネーションを見ている。

〇お店

孝太郎が震えながら、雫とアイスを食べている。

〇スケートリンク場

孝太郎と雫がスケートをしている。

雫がはしゃいでいる。

雫「わー。これが、氷なんですね!」

孝太郎「え? 雫は氷、見たことないの? 雪女なのに?」

雫「はい……。最近は田舎でも気温が上がっているみたいで、雪が降らないんです。だから、雪を見たことがなくって」

孝太郎「へー。そう聞くと、温暖化って怖いなぁ」

雫「うふふふ……」

雫がスイスイとスケートを滑っていく。

孝太郎「あ、ちょっとまって……うわ!」

孝太郎が転んでしまう。

※回想ここまで。

〇孝太郎の部屋

雫が苦しそうに寝ている。

孝太郎「あ、そうだ! スケートリンク場! あそこなら、涼しいはずだ」

だが雫が首を横に振る。

雫「いいんです。どちらにしても私の命はもう長くありません」

孝太郎「そんな……」

雫「ありがとうございます。孝太郎さんと一緒に居られて、私、本当に楽しかった」

孝太郎「いやだ! 雫! どうにかならないのか?」

雫「……」

孝太郎「なにか……俺にできることはないのか?」

雫「……最後に、雪が見たいな」

孝太郎「……」

〇山・麓

孝太郎が重装備をしている。

その後ろには雫を背負っている。

雫は以前、苦しそう。

孝太郎「よし……」

孝太郎が山を登り始める。

〇同・中腹

孝太郎が山を登る。

〇同

段々と道が険しくなるが、それでも登っていく孝太郎。

〇同・頂上付近

孝太郎「雫! もうすぐ頂上だ! ここなら雪が……え?」

だが、すでに雪は解けている状態。

孝太郎「そ、そんな……」

雫「いいの。ありがとう、孝太郎」

孝太郎「雫……」

雫「あのね……、私、本当に幸せだったよ、孝太郎に会えて」

孝太郎「……」

雫「短い時間だったけど、本当に楽しかった……」

孝太郎「……」

孝太郎の目から涙がこぼれる。

すると、その涙が凍り、雫の頬に落ちる。

雫「ふふふ。冷たくて気持ちいい」

孝太郎「雫……」

そのとき、雪が降り始める。

孝太郎「あ……」

雫「雪……。これが……」

愛おしそうに雪を見る雫。

雫「ありがとう、孝太郎。私に雪を見せてくれて……」

そう言って、ほほ笑んだ雫が消えてしまう。

孝太郎「雫―――!」

手に残ったのは一粒の氷。

孝太郎はその氷の粒を大事そうに抱え、積もり始めた雪の上にそっと置く。

終わり。

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