もうバカなんだから

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■概要
人数:3人
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、ファンタジー、コメディ

■キャスト
トーマ
シーラ
男性

■台本

トーマ「俺は自分の命が大事だ。だから、他人が魔物に襲われていたとしても、見捨てるし、なんなら囮にする」

シーラ「……なに、最低な発言を堂々と言ってるのよ」

トーマ「これは大事なことだよ。つまり、俺に過度な期待をしないでくれってこと」

シーラ「……なに、最低な発言を堂々と言ってるのよ」

シーラ(N)「どうして、トーマと魔物狩りのパートナーを組んだのか。その理由はあまり覚えていない。気づいたら、トーマが隣にいて、気づいたら一緒に魔物狩りをしていて、そして、いつの間にかパートナーってことになっていた」

場面転換。

森の中を歩く、トーマとシーラ。

トーマ「……なあ、シーラ。遭難者は何人だっけ?」

シーラ「えーと、依頼者の話だと全員で13人ね」

トーマ「てことは、せいぜい、生きてる奴は7人ってところか」

シーラ「私たちは13人の捜索を依頼されたの。13人の安否を確認するまで、森は出ないからね」

トーマ「ゾンビ狩りがゾンビになるつもりか? この不浄の森は熟練の魔物狩りでも、近づきたくない場所だ」

シーラ「だからなんなのよ?」

トーマ「はあ……。なんで俺が成功報酬型にしたかを考えろよ」

シーラ「私たちは魔物狩りよ」

トーマ「だからなんなんだよ?」

シーラ「人を助けるのが仕事ってこと」

トーマ「違う。魔物を狩って『生きて』帰ってくるのが仕事だ」

シーラ「それはあんたの考え方でしょ? 私は一人でも多くの人を魔物から救いたいから魔物狩りになったのよ」

トーマ「それでお前が死んだら、意味ねーだろ」

シーラ「……それでも、少しでも多くの人を助けたいのよ」

トーマ「俺はごめんだからな。他人のために命を張るのは」

シーラ「今更何言ってるのよ。そんなのわかってるって」

トーマ「ならいいけど」

無言で歩くトーマとシーラ。

すると、ガサガサと草が激しく動く音。

トーマ「シーラ……」

シーラ「わかってる」

ガサガサと草が動く音が近づいてくる。

シーラ「……これは人間の歩く音だわ」

トーマ「だからって、気を抜くなよ。この森にいる人間だからって、遭難者とは限らないんだからな」

シーラ「あんたさ、何でもかんでもそうやってひねくれた考え方してて疲れない?」

トーマ「アホ。慎重だと言え」

男性1「た、助けてくれ!」

シーラ「私たちは商会から依頼された魔物狩りです。他の方々は?」

男性1「し、知らん! それより早く、この森から出してくれ!」

トーマ「……俺たち、何人助けたかの成功報酬なんだ。一人だけだと割に合わない。てことは、何人か見つかるまでは森を出るつもりはない。早く森を出たいなら、他のやつらがどうなったのか話した方がいいぞ」

男性1「……ここから5キロほど登ったところで、魔物に襲われた。散り散りになって逃げたから、他のやつらがどうなったかは本当に知らないんだ」

トーマ「そっか。なら、もっと先に進まないといけないな」

男性1「あ、あっちでケカトルに襲われている奴がいる」

トーマ「へー。あんた、そいつが襲われている間に逃げてきたってわけだ?」

男性1「……」

シーラ「ちょっと、止めなさいよ。その人を責めても意味ないでしょ」

トーマ「ちげーよ。合理的判断で、素晴らしいって話だ」

シーラ「……」

トーマ「さてと、じゃあ、行くか」

トーマが歩き出す。

シーラ「ちょ、ちょっと! 襲われてるのはあっちよ?」

トーマ「だから、こっちに行くんだ」

シーラ「助けないってこと?」

トーマ「ああ。どうせ、助からんだろ」

シーラ「……あんたはここで待ってて」

シーラが走り出す。

トーマ「おい! シーラ!」

走るシーラ。

シーラ(N)「おそらくトーマの判断は正しい。きっと、もう襲われた人は亡くなっているか、助からない。でも、それでも万が一、まだ生き残ってるかもしれない。そう考えると見捨てることなんてできない……」

場面転換。

ケカトルの咆哮。

男性2「ひ、ひいっ……」

シーラ「ふせて!」

男性2「え? うわっ!」

男性2が慌てて伏せる。

同時に、銃声が鳴り響く。

ケカトルの咆哮。

シーラ「……やっぱり、シヴァ銃くらいじゃ傷もつけれないか」

ケカトルが突撃してくる。

シーラ「くっ!」

剣を抜き、ケカトルのクチバシに振り下ろす。

だが、その剣がクチバシの硬さに弾かれる。

シーラ「弾かれたっ!」

そこにケカトルの体当たりが入り、シーラが吹き飛ぶ。

シーラ「きゃあっ!」

地面を転がるシーラ。

ケカトルの咆哮。

シーラ「う、うう……視界が歪む」

男性2「ひ、ひい……」

シーラ「い、今のうちに逃げて下さい!」

男性2「うわあああ!」

男性2が走って逃げていく。

シーラ「よし、これであの人は助かる……」

ケカトルの咆哮。

シーラ「だけど、こっちは……ダメかも」

ケカトルが突進してくる。

シーラ「はは……。トーマの言った通りね。人を庇って死んだら意味ない、か。……でも、見捨てられなかった。ううん。見捨てたら、自分を許せなかった……」

ケカトルが目前まで迫る。

トーマ「はああああ!」

トーマが剣をケカトルに突き刺す。

ケカトルの悲鳴のような声。

トーマ「大丈夫か、シーラ!」

シーラ「え? トーマ?」

トーマ「動けるか?」

シーラ「なにしてるの?」

トーマ「助けに来たに決まってんじゃねーか」

シーラ「だって……あんたいつも言ってるじゃない。人が襲われてても見捨てるって」

トーマ「それは他人がって話だ」

シーラ「……?」

トーマ「大切な人間が危ないなら助けるに決まってるだろ! ……たとえ、自分が死ぬとしても」

シーラ「……もう、バカなんだから」

トーマ「バカはお互い様だ」

シーラ「ふふ。そうだね」

トーマ「で? 動けるか?」

シーラ「うん、大丈夫。っていうより、今ならどんな魔物も狩れる気がする」

トーマ「逃げた方が楽だけど、今はお前の言うことに同意だな」

シーラ「さ、パパっと狩って、他の遭難者を探しに行きましょ」

トーマ「ああ」

シーラ(N)「どうして、トーマと魔物狩りのパートナーを組んだのか。今は思い出せないけど、最高のパートナーと組めたことに、感謝している」

終わり。

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