勝ち組の生活
- 2024.07.01
- ボイスドラマ(10分)
■概要
人数:2人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、コメディ
■キャスト
一平(いっぺい) 20歳
孝守(たかもり) 20歳
■台本
一平「きたきたきたきたーー!」
一平(N)「その日。俺は勝ち組になった」
場面転換。
大学内。
孝守「いやいやいや。そんなん全然、勝ち組じゃねーだろ」
一平「バカ言うなよ! 100万だぞ、100万! ……おっと、あぶねぇ。むやみに、大金の話するもんじゃないよな」
孝守「確かにすげーと思うよ。宝くじで100万なんて滅多に当たらないだろうしな」
一平「だろ? なんせ、バイト代の1年分だ」
孝守「けど、100万くらいじゃ、勝ち組とは言えないんじゃないのか? 精々、1年、バイトしないで済む程度のことだろ?」
一平「チッチッチ。甘いな。俺だって、なにもこの100万で勝ち組になったって言ってるわけじゃない」
孝守「……なんだ? 株でもやるのか? やめとけ。お前みたいな素人は、一瞬で消えて終わりだ」
一平「いくら俺でも、そんな無謀なことはしねーよ」
孝守「まさか、パチスロとか?」
一平「いや、これ以上は、パチ屋の貯金は増やしたくはねえ」
孝守「素直に負けてるって言えよ」
一平「とにかく、賭け事で増やすつもりもない」
孝守「へー。お前にしては堅実な考えだけど、どうするんだ? 貯金か?」
一平「俺はこの前、自己啓発の本を読んだんだ」
孝守「うわー。スゲー嫌な予感がする」
一平「その中に、勝ち組になるためには、自分は勝ち組になったかのような行動が必要なんだ」
孝守「……どういうことだ?」
一平「つまり、勝ち組になったつもりで、行動していれば、いつの間にか勝ち組になってるって、話だよ」
孝守「嘘くせぇ」
一平「ってことで、俺はこの100万を使って、勝ち組と同じ行動をする!」
孝守「はいはい。がんばれよー。もし、勝ち組になれたら、何か奢ってくれ」
一平「はっはっは。見てろよ。すぐに本当の勝ち組になってやる」
場面転換。
ガチャリとドアが開く音。
部屋に一平が入って来る。
一平「……うわー。なんか緊張するな」
歩いて、ベッドの上に腰掛ける。
一平「おお! このベッド、やべーくらいフカフカだ! さすが、ホテルのスイート! 一泊20万を払っただけあるぜ!」
立ち上がって、窓に向かい、シャーっとカーテンを開ける。
一平「くっくっく。ここは30階! 実に見晴らしが良い! 地上では愚民どもが、今もせっせと蟻のように働いているんだろう」
しばらくの沈黙。
一平「……なんか、怖くなってきた。俺、あんまり高い所、好きじゃないんだよね。カーテン閉めとこ」
シャーとカーテンを閉める一平。
一平「さて! お次はこれだーー!」
場面転換。
バスルーム。
お湯が湯船に入れられる音。
そして、じゃぶんと一平が入る。
一平「ぷはー! やっぱ、風呂はいいねぇ。泡が浮かんだ風呂なんて初めてだぜ」
しばしの沈黙。
一平「んー。なんだろ? 確かに匂いはいんだけどさ、なんかヌルヌルする感じがして気持ち悪いな。これなら、普通の入浴剤の方がよくないか?」
しばしの沈黙。
一平「いやいやいや。これが勝ち組の生活だ。これに慣れることが勝ち組になる秘訣! 我慢だ、我慢!」
場面転換。
脱衣所。
バスルームから出てくる一平。
一平「ふう。なんか、まだ体がぬるっとしてる気がするけど、まあ、いっか。次だ、次」
ガサガサと物を漁る音。
一平「お次はこれ! ばばーん! バスローブ! いやー、これは高かった。けど、これからずっと使うものだからな。いいものを買わないと」
バスローブを着る一平。
一平「おおー! さすが、高いバスローブ。フカフカして着心地いいじゃん!」
場面転換。
部屋に戻って来る一平。
一平「ふう。お風呂の後と言えば、もちろん、これだ!」
ガチャっと冷蔵庫を開ける一平。
一平「お高いワイン! ……こんなのが、10万とかなー。世の中、おかしいだろ。……って、いかんいかん。この思考がダメなんだ。俺は勝ち組。勝ち組なら、ワインの値段で文句は言わない!」
歩いて、ドカッと椅子に座る。
一平「そして、これも高かった、ワイングラス。これに、ワインを入れてっと……。あれ? でない? ん? ん?」
ワインを見る一平。
一平「ああ、コルクがハマってるのか。えーと、コルク抜きコルク抜きっと」
グイグイとコルクにコルク抜きを刺していく。
一平「あー、クソ、固い! 固すぎる。んーーーー! 抜けねえ!」
不意にポンと音を立ててコルクが抜ける。
そして、中のワインが飛び出し、一平にかかる。
一平「うわっぷ! ワインがかかった! ……げー! バスローブについた! うわー……凹むわ。これ、落ちるのか? ……まあ、いいや。とにかくワイン飲もう」
コポコポとワインを注ぐ一平。
一平「えーっと、こうやって回すんだっけ?」
グラスを回す一平。
一平「んー。良い色だし、良い香りだ。……よくわかんねーけど」
グイっと飲む一平。
一平「がはっ! うへぇ! な、なんだこりゃ? ワインって、こんなに不味いのか?」
顔をしかめる一平。
一平「くそー。なんだよ。初のお酒が高いワインなんてラッキーと思ったけど、全然、美味しくないじゃん。これなら、コーラの方がいいじゃん!」
ため息をつく一平。
一平「はー。なんかしらけるなぁ。普通なら、夜景を見ながらワインを飲むなんてエレガントな状況なのに、全然気分が乗らねえ。夜景も怖くて見れないし、ワインはあんまり美味しくないし」
しばしの沈黙。
一平「いや、ダメだな。ここは我慢だ我慢。ワインもせっかく買ったんだから、飲まないと!」
コポコポと注ぎ、一気に飲み干す。
一平「ぷはー! マズい! もう一杯……へーっくしゅ!」
鼻をすする。
一平「なんか寒いな。バスローブ一枚じゃダメか? 何か、下に着るもの……」
一平が立ち上がり、歩き出そうとすると、クラッとする。
一平「あれ? なんだ? 視界がぐにゃぐにゃだぞ? わわわ!」
倒れる一平。
一平「な、なんなんだ? まさか、俺を妬んだ奴がワインに毒を? くそー、し、死にたくねえ……」
場面転換。
大学内。
一平「うーうー。頭痛い!」
孝守「二日酔いってやつだな。……で? どうだった? 勝ち組の生活は?」
一平「俺……普通でいいや」
孝守「……あっそう」
終わり。
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