病室内の企み
- 2025.03.24
- ボイスドラマ(10分)

■概要
人数:6人
時間:10分
■ジャンル
ドラマ・舞台、現代、コメディ
■キャスト
里佳子(りかこ) 26歳
有仁(ゆうじ) 32歳
看護師
たか子
薬剤師
医師
■台本
病室内。
ベッドに寝ている有仁。
看護師の里佳子が横に立っている。
里佳子「完全に骨がくっ付くまでは約1ヵ月ですから、安静にしてくださいね」
有仁「……はい。ただ、その、足がこうだとトイレとかはどうすれば……」
里佳子「そういうときは、これです」
有仁「……尿瓶ですか」
里佳子「わかります。恥ずかしいですよね。でも、大丈夫ですよ」
有仁「使わない方法があるんですか?」
里佳子「すぐ慣れますから」
有仁「……そ、そうですか」
里佳子「ふふ。何かあれば、ナースコールしてくださいね」
有仁「……わかりました」
里佳子が病室から出ていく。
有仁「ふう。1ヶ月安静か。参ったな。……教室、大丈夫かなぁ」
場面転換。
病室内で話している有仁と里佳子。
里佳子「えー、そうなんですか?」
有仁「そうそう。だから、そういう時は一回、引いた方がいいんだよ」
里佳子「それでダメだったら、責任持ってくださいよ」
有仁「あははは。じゃあ、そのときは俺が付き合いますよ」
里佳子「……もう、そんなこと言って」
遠くから声がする。
看護師「里佳子―、ちょっと患者さんの様子見てきてくれる?」
里佳子「はーい。それじゃ、失礼します」
有仁「ああ、お仕事頑張って」
里佳子「はい」
場面転換。
ガラガラとドアが開く。
有仁「あれ? 里佳子さん、どうしたんですか?」
里佳子「……ちょっと、帰りに顔を見ておこうかなって。……迷惑でした?」
有仁「いやいや。そんなことないですよ。今はホント暇ですからね。話し相手には飢えてるんですよ」
里佳子「それじゃ、お言葉に甘えて……」
椅子に座る里佳子。
里佳子「そういえば、狩原さんって……」
場面転換。
病室で話している有仁とたか子。
たか子「早く、帰ってきてくれないと。会員さん、心配してるわよ」
有仁「……わかってるよ。けど、俺の力じゃどうしようもないし」
たか子「とにかく、医者の言う通り、絶対安静ね。変に動いて、入院長引かせたりしないでよ」
有仁「……わかってるって」
ガラガラとドアが開き、里佳子が入ってくる。
里佳子「狩原さん。……あ、面会の方ですか?」
たか子「あ、有仁がお世話になっております」
里佳子「……あ、いえいえ。仕事ですから」
たか子「じゃあね、有仁」
有仁「おう」
里佳子「……彼女さん、ですか?」
有仁「あはは。まさか」
里佳子「……ほっ」
有仁「それで、どうかしましたか?」
里佳子「えっと、そろそろギブスが取れそうかもって」
有仁「本当ですか? じゃあ、退院が近いってことですね」
里佳子「……は、はい。そうですね」
場面転換。
薬剤課。
薬剤師「はい。これ、言われていた薬です」
里佳子「ありがとうございます」
薬剤師「服用量は気を付けてくださいね。過剰に摂取すると、拒絶反応が出る可能性があるので」
里佳子「はい、わかりました……」
場面転換。
病室。
ご飯を食べている有仁。
有仁「……あれ?」
里佳子「どうしました?」
有仁「なんか、今日の味噌汁、変な味するなって……」
里佳子「え? 新しいのと取り替えます?」
有仁「いや、いいですよ。大丈夫です」
ごくっと飲む有仁。
里佳子「……」
場面転換。
病室。
有仁「うう……はあ、はあ、はあ」
ガラガラとドアが開く音。
里佳子「え? 狩原さん? 大丈夫ですか!?」
場面転換。
病室。
医師「んー。感染症ってわけじゃないんだけど、原因がわからないんだ。念のため、もうしばらく入院してもらってもいいかい?」
有仁「え? ……わ、わかりました」
里佳子「狩原さん、早く退院したい気持ちはわかりますが、なにか病気かもしれませんので」
有仁「……そうですね。焦らず、体を治すことに専念します」
里佳子「……それがいいと思います」
場面転換。
病室。
里佳子「あははは。もう、狩原さんたら」
有仁「ははははは。ね? 面白いでしょ? でも、本当なんですよ」
ガラガラとドアが開く。
看護師「あ、里佳子、ちょっといい?」
里佳子「え? あ、はい……」
場面転換。
廊下。
看護師「狩原さん、来週には退院してもらうから」
里佳子「でも、まだ、発熱の原因が……」
看護師「あれから何もないし、大丈夫だろうって、先生の判断よ」
里佳子「そ、そうですか……」
場面転換。
調理室。
里佳子「……」
サラサラっと薬を入れる音。
看護師「……やっぱり、里佳子がやってたのね」
里佳子「え? あっ!」
看護師「……」
里佳子「……あ、あの、その」
看護師「もうやらないって誓ってくれるなら、この件は黙っててあげる」
里佳子「……」
看護師「全然大したことないからいいけど、副作用でなにかったらどうするの?」
里佳子「……ごめんなさい」
場面転換。
病院の前。
看護師「退院、おめでとうございます」
有仁「ありがとうございます。……あの、里佳子さんは?」
看護師「あの子は、今日はお休みなのよ」
有仁「そ、そうですか……。あの、今までお世話になりました。ありがとうございましたって、伝えてもらえませんか?」
看護師「伝えておくわ」
有仁が歩いていく。
それを陰から見ている、里佳子。
里佳子「う、うう……狩原さん」
場面転換。
ナースステーション。
看護師「里佳子。休み溜まってるでしょ? 少し、気晴らししてきなさいよ。なにか、趣味を見つけてみたら?」
里佳子「……」
場面転換。
街を歩く里佳子。
里佳子「趣味って言われてもなぁ」
ピタリと立ち止まる。
里佳子「料理、か……」
たか子「よかったら、教室、覗いていきませんか?」
里佳子「いいんですか?」
たか子「ええ。どうぞどうぞ」
場面転換。
料理教室を行っている有仁。
有仁「ここで、ポイントなのが、一回、冷水につけることなんです」
そこに里佳子が入ってくる。
有仁「ここで荒熱を取って……」
里佳子「……え?」
有仁「……」
教室内がざわつく。
たか子「先生?」
有仁「あ、すみません。ここで、荒熱を取った後、レモンを……」
里佳子「わ、私、やっぱり」
有仁「そちらの方、よければご一緒にどうぞ」
里佳子「え?」
有仁「どうぞ」
里佳子「……」
場面転換。
教室内。有仁と里佳子しかいない。
有仁「まさか、こんなところで会えるなんて思いませんでした」
里佳子「わ、私も……です」
有仁「……退院のとき、会えなかったから、嫌われたかと思ってました」
里佳子「あの、私、実は……」
有仁「薬か何か使ったんですよね? お味噌汁に入れて」
里佳子「知ってたんですか?」
有仁「まあ。これでも料理人ですから。あれは食材の味じゃないってすぐにわかりました」
里佳子「じゃあ、どうして……?」
有仁「里佳子さんと同じです」
里佳子「え?」
有仁「俺も、もう少しだけ、入院したかったんです」
里佳子「……」
有仁「里佳子さんと話したくて」
里佳子「でも、でも、私。狩原さんに酷いこと……」
有仁「そうですね。おかげで、退院が伸びて、教室再開が遅くなりました」
里佳子「……す、すみませんでした」
有仁「なので、罪滅ぼしとして、教室に通ってくれませんか?」
里佳子「……は、はい!」
終わり。
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