病室内の企み

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■概要
人数:6人
時間:10分

■ジャンル
ドラマ・舞台、現代、コメディ

■キャスト
里佳子(りかこ) 26歳
有仁(ゆうじ) 32歳
看護師
たか子
薬剤師
医師

■台本

病室内。

ベッドに寝ている有仁。

看護師の里佳子が横に立っている。

里佳子「完全に骨がくっ付くまでは約1ヵ月ですから、安静にしてくださいね」

有仁「……はい。ただ、その、足がこうだとトイレとかはどうすれば……」

里佳子「そういうときは、これです」

有仁「……尿瓶ですか」

里佳子「わかります。恥ずかしいですよね。でも、大丈夫ですよ」

有仁「使わない方法があるんですか?」

里佳子「すぐ慣れますから」

有仁「……そ、そうですか」

里佳子「ふふ。何かあれば、ナースコールしてくださいね」

有仁「……わかりました」

里佳子が病室から出ていく。

有仁「ふう。1ヶ月安静か。参ったな。……教室、大丈夫かなぁ」

場面転換。

病室内で話している有仁と里佳子。

里佳子「えー、そうなんですか?」

有仁「そうそう。だから、そういう時は一回、引いた方がいいんだよ」

里佳子「それでダメだったら、責任持ってくださいよ」

有仁「あははは。じゃあ、そのときは俺が付き合いますよ」

里佳子「……もう、そんなこと言って」

遠くから声がする。

看護師「里佳子―、ちょっと患者さんの様子見てきてくれる?」

里佳子「はーい。それじゃ、失礼します」

有仁「ああ、お仕事頑張って」

里佳子「はい」

場面転換。

ガラガラとドアが開く。

有仁「あれ? 里佳子さん、どうしたんですか?」

里佳子「……ちょっと、帰りに顔を見ておこうかなって。……迷惑でした?」

有仁「いやいや。そんなことないですよ。今はホント暇ですからね。話し相手には飢えてるんですよ」

里佳子「それじゃ、お言葉に甘えて……」

椅子に座る里佳子。

里佳子「そういえば、狩原さんって……」

場面転換。

病室で話している有仁とたか子。

たか子「早く、帰ってきてくれないと。会員さん、心配してるわよ」

有仁「……わかってるよ。けど、俺の力じゃどうしようもないし」

たか子「とにかく、医者の言う通り、絶対安静ね。変に動いて、入院長引かせたりしないでよ」

有仁「……わかってるって」

ガラガラとドアが開き、里佳子が入ってくる。

里佳子「狩原さん。……あ、面会の方ですか?」

たか子「あ、有仁がお世話になっております」

里佳子「……あ、いえいえ。仕事ですから」

たか子「じゃあね、有仁」

有仁「おう」

里佳子「……彼女さん、ですか?」

有仁「あはは。まさか」

里佳子「……ほっ」

有仁「それで、どうかしましたか?」

里佳子「えっと、そろそろギブスが取れそうかもって」

有仁「本当ですか? じゃあ、退院が近いってことですね」

里佳子「……は、はい。そうですね」

場面転換。

薬剤課。

薬剤師「はい。これ、言われていた薬です」

里佳子「ありがとうございます」

薬剤師「服用量は気を付けてくださいね。過剰に摂取すると、拒絶反応が出る可能性があるので」

里佳子「はい、わかりました……」

場面転換。

病室。

ご飯を食べている有仁。

有仁「……あれ?」

里佳子「どうしました?」

有仁「なんか、今日の味噌汁、変な味するなって……」

里佳子「え? 新しいのと取り替えます?」

有仁「いや、いいですよ。大丈夫です」

ごくっと飲む有仁。

里佳子「……」

場面転換。

病室。

有仁「うう……はあ、はあ、はあ」

ガラガラとドアが開く音。

里佳子「え? 狩原さん? 大丈夫ですか!?」

場面転換。

病室。

医師「んー。感染症ってわけじゃないんだけど、原因がわからないんだ。念のため、もうしばらく入院してもらってもいいかい?」

有仁「え? ……わ、わかりました」

里佳子「狩原さん、早く退院したい気持ちはわかりますが、なにか病気かもしれませんので」

有仁「……そうですね。焦らず、体を治すことに専念します」

里佳子「……それがいいと思います」

場面転換。

病室。

里佳子「あははは。もう、狩原さんたら」

有仁「ははははは。ね? 面白いでしょ? でも、本当なんですよ」

ガラガラとドアが開く。

看護師「あ、里佳子、ちょっといい?」

里佳子「え? あ、はい……」

場面転換。

廊下。

看護師「狩原さん、来週には退院してもらうから」

里佳子「でも、まだ、発熱の原因が……」

看護師「あれから何もないし、大丈夫だろうって、先生の判断よ」

里佳子「そ、そうですか……」

場面転換。

調理室。

里佳子「……」

サラサラっと薬を入れる音。

看護師「……やっぱり、里佳子がやってたのね」

里佳子「え? あっ!」

看護師「……」

里佳子「……あ、あの、その」

看護師「もうやらないって誓ってくれるなら、この件は黙っててあげる」

里佳子「……」

看護師「全然大したことないからいいけど、副作用でなにかったらどうするの?」

里佳子「……ごめんなさい」

場面転換。

病院の前。

看護師「退院、おめでとうございます」

有仁「ありがとうございます。……あの、里佳子さんは?」

看護師「あの子は、今日はお休みなのよ」

有仁「そ、そうですか……。あの、今までお世話になりました。ありがとうございましたって、伝えてもらえませんか?」

看護師「伝えておくわ」

有仁が歩いていく。

それを陰から見ている、里佳子。

里佳子「う、うう……狩原さん」

場面転換。

ナースステーション。

看護師「里佳子。休み溜まってるでしょ? 少し、気晴らししてきなさいよ。なにか、趣味を見つけてみたら?」

里佳子「……」

場面転換。

街を歩く里佳子。

里佳子「趣味って言われてもなぁ」

ピタリと立ち止まる。

里佳子「料理、か……」

たか子「よかったら、教室、覗いていきませんか?」

里佳子「いいんですか?」

たか子「ええ。どうぞどうぞ」

場面転換。

料理教室を行っている有仁。

有仁「ここで、ポイントなのが、一回、冷水につけることなんです」

そこに里佳子が入ってくる。

有仁「ここで荒熱を取って……」

里佳子「……え?」

有仁「……」

教室内がざわつく。

たか子「先生?」

有仁「あ、すみません。ここで、荒熱を取った後、レモンを……」

里佳子「わ、私、やっぱり」

有仁「そちらの方、よければご一緒にどうぞ」

里佳子「え?」

有仁「どうぞ」

里佳子「……」

場面転換。

教室内。有仁と里佳子しかいない。

有仁「まさか、こんなところで会えるなんて思いませんでした」

里佳子「わ、私も……です」

有仁「……退院のとき、会えなかったから、嫌われたかと思ってました」

里佳子「あの、私、実は……」

有仁「薬か何か使ったんですよね? お味噌汁に入れて」

里佳子「知ってたんですか?」

有仁「まあ。これでも料理人ですから。あれは食材の味じゃないってすぐにわかりました」

里佳子「じゃあ、どうして……?」

有仁「里佳子さんと同じです」

里佳子「え?」

有仁「俺も、もう少しだけ、入院したかったんです」

里佳子「……」

有仁「里佳子さんと話したくて」

里佳子「でも、でも、私。狩原さんに酷いこと……」

有仁「そうですね。おかげで、退院が伸びて、教室再開が遅くなりました」

里佳子「……す、すみませんでした」

有仁「なので、罪滅ぼしとして、教室に通ってくれませんか?」

里佳子「……は、はい!」

終わり。