○ 化粧品開発会社『white snow』外観
デザイン性の高い看板に『white snow』と書かれている。
○ 同・応接室
高そうなソファーに、そわそわしながら座る隼人と、辺りを見渡す柊。
部屋には高級品が並んでいる。
机、絵画、テーブル等。
祥が入ってくると同時に隼人と柊が立つ。
祥「どうも。菱川祥です」
祥が柊と隼人と握手し、座るように促す。
祥と向かい合わせで座る柊と隼人。
祥「で? 私に何か聞きたいことがあるそうですね」
隼人「大学のことで二、三ほど」
祥「東大の法学部ですが、何か?」
柊「……清和女子という大学のことは知ってますか?」
祥「ええ」
隼人「よく出入りしてたと聞きましたが、一体、なんの用で……」
祥「(大きくため息をついて)煩わしいなあ。もういいでしょう。私は時間を大切にするたちなんです。単刀直入にいきましょうよ。ね? 八神柊さん」
柊「なぜ、僕のことを?」
祥「愛する実乃里さんの彼氏ですからね。知らないわけがありません。大体、あなたたちじゃなければ、私が不審人物なんかに会うわけないでしょう」
隼人「……不審人物、だと?」
祥「おやおや。自覚がない? いきなり会社に押しかけてきて、社長である私に、アポもなく会いたいだなんて……。かなりの大物か、不審者くらいでしょう」
隼人「くっ!」
柊「なぜ、実乃里ちゃんに近づいた?」
祥「なぜ!? ふふ。随分とおかしなことを聞きますね。私は先ほど言ったはずですよ。愛する実乃里さん、とね。愛する者を口説く。これは男性に与えられた平等な権利というものです」
隼人「……お前の方がよっぽど不審者だ」
祥がソファーの背もたれに寄り掛かる。
祥「興ざめだな。もう少し、面白い質問をしてくると思ったんですけど」
柊「僕は実乃里ちゃんが自殺じゃなくって、誰かに殺されたんだと思っています」
隼人「お、おい! 柊!」
祥が背もたれから身を起こし、前かがみになる。
祥「へえー。それはそれは。どうして、そう思うんですか?」
柊「実乃里ちゃんに自殺する理由がない」
祥「要するに、ただの勘、という奴ですか。ですが、変に理屈をこねられるよりは、よっぽどしっくりくる」
柊「実乃里ちゃんが自殺する前……つまり、四年前のあの日。その前後、怪しい奴を見ませんでしたか?」
祥が怪しく、上唇をぺろりと舐める。
祥「柊さん。私はね。もし、実乃里さんが自殺ではなく他殺だというのであれば……その犯人の気持ち、わかりますよ。いや、こう言った方が正確ですかね。私はその犯人が羨ましい」
隼人がバンと机を叩き、立ち上がる。
隼人「(祥の胸倉をつかんで)なんだと?」
柊がジロリと祥を睨む。
柊「どういうことですか?」
祥「柊さん。あなたにはわからないでしょうね。勝者と敗者は理解し合えない」
隼人「てめえ、ふざけたことばかり言ってると、ぶん殴るぞ!」
祥「手に入らないなら、いっそ自分の手で」
隼人「!?」
祥「月並みな発想ですがね、そうすれば、実乃里さんはずっと、私の物だ。……犯人も、そう思っているのかもしれませんね」
柊「……もし、本当にそんな理由で実乃里ちゃんを殺した奴がいたら……僕はどんな手を使ってでも、そいつを殺す」
柊が祥をにらみつける。
祥「(笑みを浮かべ)同感です。私から実乃里さんを奪おうとする人間は、誰であろうと絶対に許しません」
隼人「けっ! お前のじゃねえよ!」
祥「さてと、次の予定が入っていましてね。申し訳ありませんが、そろそろお引き取りをお願いします」
柊「……」
祥「久しぶりに有意義な時間を過ごせました。とても楽しかったですよ」
隼人の手を払いのけ、柊に握手の手を差し伸べる。
祥「実乃里さんが他殺というアプローチ。気に入りました。私も出来る限りのことはしましょう。秘書にはあなたたちを通すように言っておきますので、いつでも来てください」
柊「(睨んだまま)ご協力、感謝します」
力を込めて、祥の手を握る。
○ 通り
『white snow』から出て、並んで歩く柊と隼人。
隼人「どう思う?」
柊「きっと、何か知ってる……」
隼人「だな。そのへん、もう少し美鈴に探って貰うように頼んどくわ。……にしても、お前、凄いな」
柊「何の話?」
隼人「菱川と話してた時だよ。お前があそこまで強気なのは初めて見たぞ」
柊「……実乃里ちゃんの手掛かりがつかめるって思ったら、つい……。ごめん」
隼人「謝ることじゃねーよ。逆に、実乃里のこと、そこまで思っていてくれて、俺は嬉しい。ありがとな。あいつの彼氏がお前で、本当に良かったよ」
柊「でも、僕は結局、実乃里ちゃんに何もしてあげられなかった……」
隼人「いや、あいつは死ぬ、その瞬間まで幸せだったはずだ」
柊「……ありがとう、隼人」
隼人「絶対、犯人、捕まえような」
柊「うん」
○ 柊の部屋
実乃里が死んでいた時と同じ部屋。
ベッドで、外着を着たまま寝ている柊。
机の上の写真立てには、実乃里と一緒に写した写真が入っている。
壁には新聞の記事の切り取りや、地図、数人の関係者らしき人間の写真が貼られている。
柊の携帯が鳴り始めると、眠そうに目を開ける。携帯を手に取る柊。
柊「……隼人? ……うん。……うん。(目をバッと開いて)すぐ行く」
起き上がって、部屋を出て行く。
○ 喫茶店
隼人と相良が向かい合って座っている。
そこに、柊が店に入って来て、真っ先に隼人たちのテーブルへと来る。
隼人の隣に座る柊。
柊「新しい情報って、なに?」
隼人「死ぬ前に実乃里、菱川に会ってるかもしれねえ」
柊「(困惑して)え?」
相良「実乃里が死んだ、四年前の三月十七日。バイト先を出て、柊さんの部屋で発見されるまで二時間あったんだよね?」
柊「それは何度も確認を取ったから、間違いないと思う。正確には、バイト先から家までは約二十分だから、空白の時間は一時間四十分ってところだね」
相良「柊さんがあの日、家に帰って来たのが八時半くらい」
隼人「実乃里がバイト先を出たのが七時半前」
相良「菱川も、その時間のアリバイがないのよ。しかも、柊さんの家の近くにいたみたい」
柊「……」
隼人「美鈴が合コンの時に、菱川の同級生に話を聞いたらよ……」