■概要
主要人数:3人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス
■キャスト
小宮 美弥(17)
平下 拓海(26)
上田 加耶(17)
美弥の母親
その他
■台本
学校のチャイムの音。
その中で、パソコンのキーを叩く音がする。
加耶「美弥、もうチャイム鳴ってるよ」
美弥「うん……。もうちょっと」
クラスメイト「放っておきなよ。オタクのことなんかさ」
ガラガラとドアが開く音。
男教諭「ほら、みんな席に着け。小宮も、パソコン閉じろ」
美弥「はい……」
パタンとノートパソコンを閉じる美弥。
男教諭「今日は新しい先生を紹介するぞ。入ってきてくれ」
ガラガラとドアを開く音がする。
教壇の上に立つ平下拓海(26)。
拓海「えっと、今日からみんなの副担任としてお世話になる、平下拓海です。よろしくお願いします」
女生徒の歓声がする。
加耶「拓海先生は何歳ですか?」
拓海「え? 歳? 26だけど……」
クラスメイト「彼女とかいるんですか?」
男教諭「そんなこと聞いて、どうするんだ?」
拓海「いいですよ、別に。彼女はいません」
女生徒の歓声が上がる。
拓海「でも、奥さんがいる。新婚なんだ」
一気に、教室内がシラケる。
加耶「なーんだ」
クラスメイト「つまんないの」
男教諭「さ、話は終わりだ。授業するぞ」
美弥「……」
美弥(N)「最初の印象は、軽そうな先生だった。特に興味もなかったし、話すこともないと、そのときは思っていた」
時間経過。
放課後。
遠くで部活動の声などが聞こえる。
教室には美弥一人で、パソコンのキーを叩いている。
そこに、ドアを開けて教室に入ってくる拓海。
拓海「あれ? 小宮じゃないか。何してるんだ?」
美弥「……小説、書いてるの」
拓海「へー。小説か。どれ、先生に見せてくれないか?」
美弥「別にいい」
拓海「なんだ、恥ずかしいのか?」
美弥「どうせ、読んでも面白くないよ」
拓海「読んでみないとわからないだろ」
美弥「……賞に出しても、一次通らないし、作文でも褒められたことないし……」
拓海「だったら、なおさら他人に読んでもらうべきなんじゃないのか? 感想を聞くだけでも勉強になるだろ」
美弥「どうせ、面白くないって感想だけだもん。馬鹿にされるだけだし……」
拓海「まあ、見せる相手は選ばないとな。とにかく読ませてくれ。これでも国語の先生だ。的外れなことは言わないさ」
美弥「……はい、これ」
美弥がパソコンを渡す。
拓海「……どれどれ」
美弥「……」
時間経過。
部活の声が聞こえなくなっていて、静かになっている。
拓海「うん。なるほどな」
美弥「……どうだった?」
拓海「普通に面白かったぞ」
美弥「うそ」
拓海「まあ、話は最後まで聞け。確かにこのままだと難しすぎる。同級生に見せたところで、面白くないって言われるのは何となくわかる」
美弥「どういうこと?」
拓海「まず、抽象的な表現が多い。あとは誌的な表現もだな。ある程度、文章を読み込んでる人で、文章を読み取って推測できないと訳がわからないだろうな」
美弥「……やっぱり、面白くないってことでしょ」
拓海「どうしてそうなるんだ。文章を読み取って憶測できる人なら十分、面白いよ」
美弥「小説の賞に出しても、一次、通らないんだけど」
拓海「んー。今の小説は分かりやすいのが求められてるからな。この文体だと、難しいだろうな」
美弥「表現を変えろってこと?」
拓海「想いは相手に伝わらないと意味がない。だから、ときには直接的に伝えるのも必要なんだ」
美弥「……」
拓海「そんな顔するな。逆に分かりやすい表現にすれば、面白いんだからさ」
美弥「本当?」
拓海「やってみるか?」
美弥(N)「それから、放課後は拓海先生と2人で小説を書くのが日課になった。そして、それが私にとって、かけがえのない時間になっていった……」
ドアを開いて、職員室に入る美弥。
美弥「拓海先生! 通った! 一次、通ったよ!」
拓海「だから言っただろ? 小宮の小説は面白いって。……って、ちょっと教室行こうか。職員室はマズイ」
美弥「あ、そうだね」
昼の教室。
チャイムが鳴り響く。
加耶「ねえ、美弥。この前読ませてもらったら、小説、続きってあるの?」
美弥「え?」
加耶「なんか気になるところで終わってるからさ。続き読みたいなーって思って」
美弥「え、えっとね、今、書いてる途中なんだ」
加耶「ふーん。書けたら見せてね」
美弥「うん。もちろん」
加耶「そういえばさ、美弥って拓海先生と不倫してるの?」
美弥「はあっ? な、なんで、そんなことになるの!?」
加耶「だって毎日、放課後は拓海先生と教室で一緒にいるじゃん」
美弥「あ、あれは小説を見て貰ってて……」
加耶「ふーん。まあ、気を付けなよ。色々さ」
美弥「う、うん……」
美弥(N)「そのときまでは、考えもしなかった。拓海先生とは純粋に小説を書いてみて貰うだけの関係だと思っていたから」
放課後の教室。
拓海「なあ、小宮。最終選考の結果はいつ出るんだ?」
美弥「……」
拓海「……小宮? どうかしたか?」
美弥「え? いや、ううん。なんでもない。えっと、最終選考だよね? えっと、来月だと思う」
拓海「楽しみだなぁ。先生の予想だと……」
美弥「ねえ、拓海先生。私たちの関係ってなんなのかな?」
拓海「ん? どうしたんだ、急に?」
美弥「やっぱり、生徒と先生ってだけの関係なのかな?」
拓海「いや、それは違うな」
美弥「え?」
拓海「作家とファンの関係だ」
美弥「ファン……?」
拓海「ああ。そうだ。俺は小宮の一番のファンだ」
美弥「……拓海先生」
美弥(N)「嬉しかった。私の小説を初めて認めてくれた拓海先生。でも……でもね、ちょっとだけガッカリした私がいた。私、本当は拓海先生になんて言って欲しかったんだろう?」
美弥の家。
美弥「え? ……今、なんて言ったの?」
母親「お父さんの転勤が決まってね。年明けすぐに引っ越ししないといけなくなったのよ」
美弥「そんな! 勝手だよ!」
母親「中途半端な時期に転校するのは悪いと思うけど……。今までもそうだったじゃない」
美弥「そうだけど、今回は嫌! 私、ここに残りたい!」
母親「もう。馬鹿なこと言って、困らせないでよ」
学校のチャイム。
教室には美弥が一人だけ座っている。
そこに拓海が入ってくる。
拓海「よーし、小宮。今日も始めるか……って、どうしたんだ?」
美弥が拓海に抱き着いてくる。
拓海「お、おい! 小宮?」
美弥「拓海先生、好き」
拓海「な、何言ってるんだよ。冗談は……」
美弥「冗談じゃない! 私、拓海先生のこと、愛してるの! お願い、私と一緒にどこか遠くに連れてって!」
拓海「そんなこと……できるわけないだろ?」
美弥「連れてってくれないなら、私、先生の奥さんとか、学校に話すよ。先生と不倫してましたって!」
パンと頬を叩く拓海。
拓海「……少し頭を冷やせ」
美弥「うう……先生の馬鹿!」
美弥が教室を出て行く。
美弥(N)「私、何やってるんだろ。でも、嫌なの。先生と別れるなんて、絶対に嫌だよ!」
部屋で、泣いている美弥。
そこに携帯電話が鳴り、取る。
美弥「もしもし? 加耶? 私、今日も休む……」
加耶の声「美弥、あんた、拓海先生と不倫してたってホント? 学校どころか、ニュースでやってるよ!」
美弥「……え?」
テレビをつける美弥。
キャスター「平下拓海、26歳が学校の女生徒と不倫関係があったことがSNSの書き込みで明らかになりました」
チャンネルを変える。
キャスター「今回は決定的ですね。現場が動画で撮られてますからね。関係をバラすと言った、女生徒に手を挙げるなんて、最低ですよ」
美弥「そんな……」
美弥(N)「それから、警察の取り調べがあった。私は誤解だと何度も話したが、先生に脅されていると思っている警察は私の話を信じてはくれなかった……」
キャスター「続報です。生徒と不倫をしていた平下拓海容疑者が本日の未明、部屋で首を吊っているのを家族が見つけ……」
美弥「いやあああああ!」
美弥(N)「もう何も考えられなかった。学校にも行かなくなった私は、部屋で泣き続ける日々を送っていた。先生がいない世界に絶望した。もう、死にたいってさえ思った。いくら泣いたところで、死ぬことはできなかった」
携帯が鳴り、受信ボタンを押す美弥。
美弥「(憔悴しきった声で)もしもし……」
編集者「小宮美弥さんですね。あなたの小説が佳作に入ったので連絡させていただきました。つきましては……」
美弥「……辞退させてください」
ピッと、電話を切る美弥。
同時に、ドアがノックされる。
母親「美弥、あんたに小包が届いてるわよ。宛先書いてないけど……捨てる?」
美弥「もらう」
母親「そう……」
母親が部屋から出て行く。
びりびりと包みを開ける美弥。
美弥「あ……手紙。拓海先生からだ……」
拓海の声「小宮元気か? ……って、元気なわけないよな。俺の方は限界だ。ただ、これが最後になるから、小宮には本当のことを知って貰いたくて、手紙にしてみた。正直に言うとな、お前から告白されたとき、凄くうれしかった。小宮との放課後の時間は俺にとってはかけがえのない時間だった。きっと俺は小宮に惹かれてたんだと思う。だから、あのとき、お前が駆け落ちって言ってくれたとき、それもいいかなって思った。だけどな、俺の中で一番大きくて強い気持ちは、それを拒否したんだ。それは……俺は小宮のファンってことだ。お前を好きな気持ちよりも、お前が書く小説の方が好きだった。俺からの最後のお願いだ。お前の小説を俺だけじゃなく、もっと多くの人に読んでもらいたい。だから、小説家の夢は諦めないでほしい。お前が愛してくれた男からの最初で最後のお願いだ」
美弥「うう……先生。拓海先生―!」
時間経過。
男性「はい。受賞者の皆さん、もう少し中央に寄ってください。小宮先生、もう少し右で。はい、撮りますよ」
パシャリという写真のシャッター音。
美弥(N)「ごめんね、拓海先生。私は取り返しのつかないことをしたけど、やっぱり最後まで先生に甘えてしまったね。先生のお願いを聞くって自分に言い訳して、私は生き続けて小説を書き続けた。これからはもっともっと書いて、一人でも多くの人に読んでもらえるように頑張る。だから、もう少し待っててね。もう少し頑張ったら、ちゃんと罪を償うからね」
終わり