【シナリオ】ぼくのドッペルゲンガー

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■概要
主要人数:1人
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス

■キャスト
祐一 (12)
祐二 (12)

■台本

祐一(N)「世界には似ている人間が3人いるって言われている。でも、それ以外に、全く同じ人間が存在することがある。それがドッペルゲンガーだ。そして今、僕の目の前には、そのドッペルゲンガーがいる」

  ブランコを漕ぐ音。

祐二「どうしたんだよ、祐一? 早く、一緒にブランコ漕ごうぜ」

祐一「う、うん。今行く」

祐一(N)「この目の前でブランコを漕いでいるのが、僕のドッペルゲンガーだ。ドッペルゲンガーだから、僕の分身になる。同じ顔なのはもちろん、名前も同じだった。けど、それだと話しづらいから、祐二って呼ぶことにした。本人も、あっさりと受け入れてくれた」

  祐一と祐二がブランコを漕ぐ。

祐二「なあ、祐一。お前ってさ、いつも何して過ごしてるんだ?」

祐一「……何って、普通だよ。そういう祐二こそ、何してるの?」

祐二「俺? 俺も普通かな。朝起きて、学校行って、帰ってきたらお前と遊んで、晩御飯食べて寝る、かな」

祐一「ふーん」

祐一(N)「ドッペルゲンガーは自分の分身だから、記憶も共有してるんだろうか。僕の生活と全く同じだ」

祐二「なあ、知ってるか?」

祐一「何が?」

祐二「ドッペルゲンガーってさ、精神的なショックがあると現れるんだってさ」

祐一「……そうなんだ」

祐一(N)「まさか、ドッペルゲンガー本人に、ドッペルゲンガーの説明をされるとは思わなかった」

祐二「なあ、お前、何かあったのか? その……ドッペルゲンガーが出るようなことがさ」

祐一「……」

祐二「まあ、言いたくないなら言わなくていいけど」

祐一「……僕には、お兄ちゃんがいたんだ」

祐二「……いた?」

祐一「うん、死んじゃったんだ」

祐二「その……悪かったな。思い出させちゃってさ」

祐一「いいんだよ」

祐二「……」

  二人の乗るブランコが止まる。

祐一「僕にはさ、三つ年上のお兄ちゃんがいたんだ」

祐二「無理に話さなくてもいいんだぞ」

祐一「ううん。話しておきたい。特に祐二、君にはさ」

祐二「どうして?」

祐一「たぶん、お兄ちゃんのことが原因だと思う。ドッペルゲンガーが出たのは」

祐二「でも、辛い思い出なんだろ? 思い出さなくてもいいんじゃないのか?」

祐一「ううん。きっと思い出さないとダメなんだ。じゃないと、僕はずっとこのまま、逃げたままになる」

祐二「……わかった。聞かせてくれるか?」

祐一「うん」

祐一(N)「あのことは僕の中で忘れたい思い出だ。そのせいか、あまり鮮明に思い出せない。だけど、ちゃんと思い出さないといけないんだ」

祐一「僕のお兄ちゃんはね、ちょっと気弱で、オドオドしてて、いつも僕と一緒にいたんだ。それでね、よく僕の方がお兄ちゃんだって勘違いされてたんだ」

祐二「へえー」

祐一「でもね、とっても頭はよかったんだ。テストでもいつも百点を取ってたし」

祐二「すげーな。で、お前は?」

祐一「僕は大体50点くらい」

祐二「あはは。同じだなって、まあ、当たり前か」

祐一「あはは。そうだね。だって、祐二と僕は同じなんだから」

祐二「じゃあ、いつもお前はお兄ちゃんと2人で遊んでたのか?」

祐一「ううん。そんなことないよ。ちゃんと友達と遊んでた。もちろん、お兄ちゃんも連れてね」

祐二「……それはそれで面倒くさそうだな」

祐一「うん。いつも嫌だったんだ。友達からも、ちょっと嫌がられたし」

祐二「そりゃ、そうだよな……」

祐一「でもね、お兄ちゃんを置いて遊びに行ったら、お父さんとお母さんが怒るんだ」

祐二「なんで?」

祐一「お父さんとお母さんは、お兄ちゃんの方が大事なんだ。だって、僕よりも頭よかったし、先生にもいっぱい褒められてた」

祐二「そっか……」

祐一「正直に言うとね、僕は少し、お兄ちゃんが嫌いだったんだ」

祐二「……」

祐一「だから、いつも僕はお兄ちゃんに意地悪をしてたんだ」

祐二「……もういい」

祐一「え?」

祐二「そんな、話、聞きたくない」

祐一「ダメだよ!」

祐二「……」

祐一「ずっと逃げてたらダメなんだ」

祐二「……わかった。聞くよ。それで?」

祐一「ある日ね、友達みんなで山に遊びに行ったんだ。もちろん、お兄ちゃんも連れてね」

祐二「……」

祐一「でね、山の中でかくれんぼをしようってことになったんだ」

祐二「うっ……(苦しそうに)」

祐一「最初の何回かはね、普通に進んでったんだ。あんまり遠くには行かないルールにしたし、鬼は三回までなら、呼びかけたら呼ばれた人はその場で返事をしないとダメってルールだったし」

祐二「……」

祐一「だから、鬼になっても、結構簡単に皆を見つけることができたんだ」

祐二「……」

祐一「でもね、最後の一回になったときに、僕が鬼になったんだ」

祐二「止めて! もういい! 聞きたくない!」

祐一「僕はね。簡単にお兄ちゃん以外の皆は見つけることができたんだ」

祐二「止めろって言ってるだろ!」

祐一「でもね、僕、思ったんだ……」

祐二「止めろ!」

祐一「このまま、お兄ちゃんを見つけないでおいたらどうなるのかって」

祐二「止めてって言ってるだろ……」

祐一「本当に最初は、ちょっとした悪戯だったんだ。それに、なかなかお兄ちゃんを見つけられなかったっていうのもあったし」

祐二「嫌だ、嫌だ、嫌だ……」

祐一「ちゃんと聞いて!」

祐二「うう……」

祐一「それで、僕たち、お兄ちゃんが見つからないし、暗くなったから帰ったんだ」

祐二「……」

祐一「お父さんとお母さんはすぐに警察に連絡して、山を探したんだ」

祐二「……思い出した。それで、お兄ちゃんは見つからなかった……」

祐一「うん。見つかったんは川の近くに落ちてたお兄ちゃんの靴だけだった……」

祐二「うわあああああ!」

祐一「でもね、僕、黙ってたんだ」

祐二「だって、お父さんとお母さんに怒られるって思ったから」

祐一「わざと見つけなかったって言えなかった」

祐二「お父さんとお母さん、すごく泣いてた」

祐一「ねえ、祐二は悲しくなかったの? お兄ちゃんがいなくなって」

祐二「そのときは、ただ、怖かった。でも、今はすごく寂しい」

祐一「お兄ちゃんがいなくなって?」

祐二「うん……」

祐一「でも、嫌いだったんでしょ? お兄ちゃん」

祐二「……そう思ってた。でもね、やっぱり、お兄ちゃんに会えないのは寂しいよ」

祐一「うん。わかってる。だって、祐二は僕なんだから」

祐二「うう……。ごめん、ごめんなさい! 俺のせいで、お兄ちゃんが……」

祐一「会いたい? お兄ちゃんに」

祐二「……会いたいよ。会って、ごめんって言いたい」

祐一「本当は、好きだったんだよね? お兄ちゃんのこと」

祐二「……うん。大好きだった」

祐一「……そうだよね。だから、僕が生まれたんだ。祐二はずっと後悔してて、怖くて、お兄ちゃんのこと忘れたくって、全部、僕に渡したんだ。記憶を」

祐二「そうだね。……卑怯者だった」

祐一「でも大丈夫。ちゃんと思い出したから」

祐二「うん」

祐一「あ、そうだ。さっきね、僕も思い出したことが2つあったんだ」

祐二「なに?」

祐一「あのね、あのかくれんぼのとき、お兄ちゃんを見つけられなかったのはわざとじゃないんだ」

祐二「え?」

祐一「僕はね、必死に探したんだ。お兄ちゃんを。友達が帰ろうって言っても、嫌だって言って最後まで探してたんだ」

祐二「……」

祐一「だからね。自分を責める必要はないんだ。あれは本当に事故だったんだから」

祐二「うう……お兄ちゃん」

祐一「ちゃんと前を向いて。きっとお兄ちゃんだってそう思ってるはずだよ」

祐二「……」

祐一「もう平気だよね。お兄ちゃんの分までしっかりと、ちゃんと生きられるよね」

祐二「……そんなことないよ」

祐一「ううん。わかるよ。だって、僕は君なんだから」

祐二「……」

祐一「僕がいなくても、君はもう大丈夫だ」

祐一(N)「僕のドッペルゲンガーはもう必要ないよね。それじゃ、さよなら、僕」

終わり

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