■概要
主要人数:3人
時間:10分~14分
■ジャンル
ボイスドラマ、ファンタジー、童話、シリアス
■キャスト
アリ
キリギリス
モノローグ
その他
■台本
モノローグ「昔々あるところに、働き者のアリと怠け者のキリギリスがおりました。アリは冬の訪れに備えて、せっせと働きます。ですが、キリギリスのほうは……」
アリ「よいしょ、よいしょ!」
キリギリス「よお! 相変わらず、一生懸命働いてるな」
アリ「キリギリスさんも少しは働いたらどうです? もうすぐ冬ですよ。たくわえ、あるんですか?」
キリギリス「はあ? 蓄え? あるわけねえじゃん」
アリ「……どうするんですか?」
キリギリス「あのなあ、よく考えてもみろよ。働いて働いて、働きつくして長い人生を過ごして何が楽しいんだ? そんなのはただ生きてるってだけろ。やっぱ、人生は楽しくいきなきゃな」
アリ「でも、働かないと生活できなくなりますよ」
キリギリス「いいんだよ。俺は太く短くがモットーだからな。冬までいっぱい遊んで、冬が来たら諦めるさ」
アリ「……キリギリスさん。今は確かにそう思うかもしれませんが、冬が間近に迫った時、後悔することになりますよ。それなら、今辛くても、少しくらい頑張ってみたらどうですか?」
キリギリス「お前とは相容れねえ。生物にはそれぞれ生き方ってもんがある。それを強要してんじゃねえよ」
アリ「そうですか。わかりました。失礼します」
アリが再び歩き出す。
キリギリス「はあ、やだやだ。あんな生き方、楽しいのかね。俺はちゃんと人生を謳歌して見せるぜ」
場面転換。
キリギリスの歌。
アリ「よいしょ、よいしょ!」
キリギリス「ん? アリじゃねえか。今日も頑張ってるな」
アリ「素敵な歌声ですね。キリギリスさん」
キリギリス「はは。サンキュー。どうだ? お前も一緒に歌わないか?」
アリ「僕には無理ですよ。やったことないですし」
キリギリス「俺だって、最初はやったことなかったさ。大丈夫、難しく考えないで、やってみればいいんだって」
アリ「……すみません。興味はあるんですが、僕には仕事があって」
キリギリス「……そっか。まあ、そういうならしゃーないな。こんなこと、無理やりさせるもんじゃないし」
アリ「誘っていただいて、ありがとうございました。嬉しかったです」
キリギリス「こっちこそ、俺の歌を聴いてくれてありがとな」
アリ「それでは、失礼します」
再びアリが歩き出す。
キリギリス「うーん。アリは本当に働き者だけど、全然、幸せそうじゃないな……」
場面転換。
キリギリスの歌。
キリギリス「アリは~働き者~。どんな大きなものでも~運んでしまう~」
アリ「あはは。なんか照れてしまいますね」
キリギリス「どうだ? お前の応援歌だ」
アリ「とっても嬉しいです。あの、また、聞かせてもらってもいいですか?」
キリギリス「もちろんだ! いつでもリクエストくれよな!」
場面転換。
大勢の虫が集まっている。
そんな中、キリギリスが歌っている。
キリギリス「俺は~キリギリス~。サイコーに~ロックな生き方を~めーざーすぅー!」
大勢の拍手。
キリギリス「ありがと、ありがと」
ダンゴムシ「すごいすごい! 綺麗な歌声!」
蝶「とっても素敵だわ」
アリ「うんしょ、うんしょ」
キリギリス「よお、アリじゃねえか」
アリ「あ、キリギリスさん」
蝶「あら、お知り合い?」
キリギリス「おう、アリだ。俺のマブダチ」
アリ「え?」
ダンゴムシ「ええー、いいなぁ。こんな素敵な友達がいて、羨ましいな、アリさんは」
キリギリス「あ、そうだ。今度、ライブやるからアリも来てくれよ。特等席、用意しておくから」
アリ「い、いいの?」
キリギリス「もちろんだ!」
蝶「いいなー!」
場面転換。
キリギリスの歌。
キリギリス「センキュー!」
ワッと拍手が盛大に起こる。
キリギリス「どうだった?」
アリ「最高だったよ! 呼んでくれてありがとう!」
場面転換。
キリギリスの歌。
パチパチと少数の拍手。
キリギリス「センキュー!」
アリ「本当にキリギリスさんの歌は素敵だね」
キリギリス「そう言ってくれるのはアリだけだぜ。最近は聞いてくれる奴が本当に少なくなってきてんだよな。飽きてきたのか?」
アリ「いや、もう秋だし、冬に備えてみんな食べ物とか集めてるんだと思う」
キリギリス「……なるほどな。歌なんて聞いてる場合じゃねえってか」
アリ「……キリギリスさんも」
キリギリス「ん?」
アリ「う、ううん。なんでもない。それじゃね」
アリが歩き出す。
キリギリス「俺の人生も、残りわずかってわけか。よし! 最後まで、俺は走り抜けるぜ!」
場面転換。
冷たい風。
キリギリス「うう……寒い。くそ、せめて家くらいは作っとくべきだったか? いや、俺は冬まで精いっぱい生きるって決めたんだ。後悔はない。受け止めよう」
そこにアリがやってくる。
アリ「キリギリスさん……」
キリギリス「よお、アリ。俺を看取ってくれに来たのか? それとも、そら見たことかって言いに来たのか?」
アリ「うちに……来てくれませんか?」
キリギリス「は? なに言ってるんだよ。俺は決めたんだ。最後までロックに生きるって」
アリ「ごめんなさい。これは僕のわがままです。僕、来年もキリギリスさんの歌を聴きたいんです」
キリギリス「アリ……」
場面転換。
キリギリスの歌。
アリが拍手する。
キリギリス「サンキュー!」
アリ「素敵な歌声です」
キリギリス「アリは俺の命の恩人だ。これから春までは、お前のために歌って歌って歌い尽くすぜ!」
アリ「ありがとうございます!」
場面転換。
腹が鳴る音。
アリ「ごめんなさい。キリギリスさん。今夜はこれだけしか出せなくて」
キリギリス「何言ってるんだ。分けてくれるだけで俺は助かってるんだから」
アリ「すみません。僕がもう少し食べ物を集めてれば……」
キリギリス「そんなことない! お前の頑張りは俺が一番見てきた。お前は誰よりも働いてたさ」
アリ「ありがとう、キリギリスさん」
場面転換。
お腹が鳴る音。
キリギリス「今まで世話になったな」
アリ「え? 何を言ってるんですか?」
キリギリス「俺は出ていく」
アリ「ダメです! 今、外なんか出たら……」
キリギリス「いいんだ! いや、最初から俺はここに来るべきじゃなかったんだ。俺はこうなっても仕方ない。だって、遊び惚けてたんだからな。だが、お前は違う! 一生懸命働いて働いて、冬への備えをしてきたんだ! お前まで犠牲になることなんてない!」
アリ「僕はキリギリスさんがいたから、働けたんだ!」
キリギリス「アリ……」
アリ「僕の働くだけのつまらない毎日を、楽しいものにしてくれたのは、キリギリスさんです。……だから、僕はキリギリスさんに恩返しをしたかったんです」
キリギリス「……逆さ」
アリ「え?」
キリギリス「お前は、俺に恩を感じることなんてないんだ。だって、救われてたのは俺の方だったんだから」
アリ「……」
キリギリス「俺の歌を聞いてくれて、素敵だって言ってくれて。……お前がいてくれたから、俺は冬まで本当に楽しく生きられたんだ」
アリ「キリギリスさん……」
キリギリス「だから頼む。お前はこれからも、生きてくれ」
ナイフを出すキリギリス。
アリ「え? 何をするつもりですか?」
キリギリス「もっと早くこうすればよかったな」
アリ「待って、キリギリスさん!」
キリギリスが自分の腹をナイフで刺す。
アリ「キリギリスさん!」
キリギリス「これで……食料の減りも少なくなる……いや、ちょっとは増える、かな」
アリ「嫌だ! キリギリスさん!」
キリギリス「本当は……もっと早く……俺はこうなるはずだった……」
アリ「キリギリスさん!」
キリギリス「ははは……。本当に……楽しかった……ありがとうな……」
アリ「キリギリスさん! キリギリスさん! うわーーー!」
ナレーション「それから春が訪れ、アリの家では二つの寄り添った亡骸が見つかったそうな。どちらも本当に幸せそうな顔をしていて、二つの亡骸は丁重に葬むられ、この村では強い絆の物語として、語り継がれたとさ。おしまい」
終わり