■概要
人数:4人
時間:10分程度
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、ホラー、コメディ
■キャスト
典史
貴子
営業
男
■台本
ガチャガチャとドアの鍵を開く音。
バンとドアが開き、二人が部屋に入ってくる。
営業「この部屋はいかがでしょうか? 築、5年で新しいですよ」
貴子「あら、素敵!」
営業「収納スペースも多くて、とても便利な部屋です」
典史「うん、いいね」
営業「お気に召していただいて、嬉しいです。では、この部屋にいたしますか?」
貴子「ねえ、ここに決めましょうよ」
典史「うーん……。そうだなぁ」
営業「この部屋、かなり人気でして。実はお客様の他にも、もうお一方が迷っているという状態なんです」
典史「え? そうなの?」
貴子「聞いたでしょ。もう、決めちゃいましょうよ」
典史「ちなみに……家賃っていくらでしたっけ?」
営業「6万円、ピッタリです」
典史「うーん……。6万かぁ」
営業「正直に言うと、ここ、かなり良物件だと思います。新しめで、駅近で、スーパーも5分以内にありますし、なによりリフォームしたばかりですよ。私が住みたいくらいです。はは」
貴子「ねえ、早く、早く! 決めちゃいましょうよ!」
典史「でもなぁ、6万でしょ? もう少し安くならないですかね?」
営業「いや、そういわれましても……。6万円という時点で、破格だと思うんですが……」
そのとき、携帯の電話が鳴る。
営業「ちょっと失礼します。はい、もしもし」
ピッと電話を取り、話し始める営業。
貴子「私、とても気に入ったの。ここで一緒に住みたいわ」
典史「……」
ピッと、携帯を切る営業。
営業「お客様……。さっき言っていた、もう一人のお客様がここに決めたいと連絡がありましたが……どうしますか?」
貴子「ええ!? ねえ、聞いたでしょ! 家賃が少し高くても、決めちゃうべきよ」
典史「……」
営業「わかりました。もう一つ、お勧めの物件があるので、そこも案内しますね」
貴子「私、嫌よ!」
典史「わかりました。その物件、見せてください」
貴子「ちょっと! どういうつもり!?」
典史「(つぶやき)……そいつが出ていけばいいんだよな」
貴子「え? どういうこと?」
典史「ふふ……。いいこと思いついたぜ」
貴子「え? なになに?」
場面転換。
ガチャガチャとドアの鍵を開ける音。
勢いよく、ドアが開き、男が部屋に入ってくる。
男「うーん。やっぱり、いい部屋だ。割と広いし、一人で住むには贅沢だよな。ここに決めてよかった。あ、そうだ」
男が携帯を操作して、電話を始める。
男「あ、母さん? うん。決まった。まあ、ちょっと家賃は高めだけど、すごくいいところ。うん、うん。今度、見に来てよ。うん、うん。……うん? いや、一人だよ。ううん。まだテレビも届いていないから、外の音じゃないかな。うん、うん。それじゃ、またね」
ピッと電話を切る男。
男「そっか……。テレビないんだもんな。なんか、物寂しい感じがするのは、そのせいか。……ま、スマホあれば十分だけど……って、あ! やべ、充電器、荷物の中に入れちゃってたよ。どうしようかな。コンビニ買ってくるか? いや、明日届くのに、わざわざ買うのもなぁ。これから家賃のために節約しなきゃならんし。しょうがない。今日はもう早めに寝るか」
場面転換。
男のいびき。
チャイムが鳴り響く。
男「ん?」
もう一度、チャイムが鳴る。
男「ったく、誰だよ! こんな時間に!」
ガバっと起きて、ドアを開く男。
男「はい、どちらさん? ……あれ?」
バンっと勢いよくドアを閉める。
男「んっだよ! いたずらかよ! ふざけんなよ!」
貴子の声「ふふふふ……」
男「え? なに? 誰かいるの?」
カリカリカリと部屋をひっかくような音。
男「ちょ、ちょ、ちょ! え? なに?」
貴子の声「ふふふふ……」
男「おい、ふざけんなよ……。誰かいるんだろ? 変ないたずら止めろって。警察呼ぶぞ」
ジャーっと突然、蛇口から水が出る。
男「うわああああ!」
パチンとスイッチが切れる音。
男「え? え? え? 停電? マジで? ちょ、ちょっ、携帯、携帯……」
スマホを操作する男。
そして、バタンバタンとドアが開いたり開いたりする音。
男「ちょ、マジでやめねえと、ホント、警察呼ぶから……」
貴子の声「ふふふふ……」
男「嘘、マジで? もしかして、ここって……」
スマホを操作する男。
男「マジかよ……」
バンと壁を叩く音。
男「ぎゃあああああーー!」
男が慌てて、外へ飛び出していく。
典史「よし、上手くいった」
場面転換。
営業「いやあ、お客様、ラッキーでしたね。前にここを決めていたお客様、急用で実家に帰ることになって、急遽、解約という形になったんですよ」
典史「あの、家賃、5万5千円でいいんですよね?」
営業「ええ。お客様以外に、希望者がいらっしゃらなくて、大家さんが、それなら少し安くしても住んでもらいたいとのことです」
典史「はははは。ホント、ラッキーでしたよ」
営業「これがカギになりますので」
典史「ありがとうございます」
営業「では、失礼いたします」
バタンとドアが閉まる音。
典史「いえーい! 大、成、功!」
貴子「よかったわね」
典史「ふふふふ。これで、悠々自適な一人暮らしの始まりだー!」
貴子「ふふふふ。私も楽しみだわ。あなたとの二人きりの生活っ!」
終わり