【声劇台本】必ずそこにある悪

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■概要
人数:7人
時間:10分程度

■ジャンル
ボイスドラマ、ファンタジー、シリアス

■キャスト
アーサー
アリア
魔王
母親
アラン
エミリー
ミーア

■台本

  阿鼻叫喚が周りから聞こえてくる。

  魔物の唸り声と、人々の悲鳴。

母親「アーサー、逃げなさい! 早く……があっ!」

アーサー「母さん!」

  魔物の爪に引き裂かれる母親。

母親「アーサー……」

アーサー「母さん―! うわーーーー!」

アーサー(N)「俺が住む、キルリア王国は魔物たちの手によって一夜で滅んだ。俺はその日、目の前で母親を……いや、全てを失った。それからの人生は魔物を……魔物たちの王に復讐するためだけに捧げてきた」

  アーサーと仲間たちが魔物と戦っている。

エミリー「アーサー、ここは私たちが食い止めるから、先に行って!」

アーサー「しかし!」

アラン「いいから、行けって!」

アーサー「ダメだ! お前たちを置いては行けない!」

アラン「バカ野郎! なんのためにここまで来たんだよ! お前には魔王を倒すって使命があるんだろうが!」

エミリー「そうだよ! 私たちのことはいいから行って!」

アラン「ぐっ!」

  アランが魔物の槍に貫かれる。

アラン「ぐあああーー!」

アーサー「アラーン!」

エミリー「アラン! いやーー!」

アーサー「エミリー、今行く、そこを動くな!」

エミリー「ダメ! 来ないで!」

アーサー「……エミリー?」

エミリー「……アーサー。今まで楽しかったよ。さよなら……」

アーサー「まさか……」

エミリー「エア・フィー……」

  大爆発が起こる。

アーサー「エミリー!」

アーサー(N)「そして、俺は再び、全てを失った。友の屍を踏み越え、俺は先に進む」

  アーサーが魔王の玉座に辿り着く。

アーサー「……魔王。ようやくたどり着いた。俺は、今日、お前の存在を断ち切ってみせる」

魔王「……来い」

  アーサーと魔王が斬り結ぶ。

アーサー(N)「どのくらい戦っていたんだろう。数秒のような気もするし、数時間に及んだ気もする。……気が遠くなるほどの死闘の先、俺の剣はついに、奴の心臓へと届いた」

  アーサーの剣が魔王の胸を貫く。

魔王「……ぐっ! 見事だ」

  魔王が倒れる。

アーサー「はあ、はあ、はあ……。言い残すことはあるか?」

魔王「……特にない」

アーサー「……なんだよ。なんなんだよ! なんで、満足そうな顔してんだよ!」

魔王「……」

アーサー「もっと苦しそうな顔をしろよ! 悔しそうにしろよ! 俺を憎めよ!」

魔王「……」

アーサー「お前のせいでたくさんの人間が死んだ。俺の大切な人だって、お前が原因で死んでいった。だから、俺はお前に復讐するためだけに生きてきた。なのに……」

魔王「……詫びるつもりはない。到底、許されるようなことではないからな。……だが、一つだけ言わせてもらえるのなら……ありがとう」

アーサー「……うおおおお!」

  アーサーが魔王に剣を突き刺す。

魔王「ぐっ……。アリ……」

アーサー「はあ……はあ……はあ」

  アーサーが倒れる。

アーサー(N)「……血を流し過ぎた。俺も死ぬのか……? まあ、いいさ。目的を果たした今、このまま生きていても……」

  場面転換。

  ベッドから起き上がるアーサー。

アーサー「こ、ここは?」

アリア「よかったです。目を覚ましてくれて」

アーサー「俺は生きてるのか?」

アリア「ええ。かなり危険でしたが、私の治癒魔法でなんとか一命を取り留めることができました」

アーサー「君は……エルフか?」

アリア「名前はアリアと言います。勇者様、どうか傷が癒えるまでゆっくりしていってくださいね」

アーサー「勇者?」

アリア「ええ。あなた様は魔王を倒してくれた、勇者です」

アーサー(N)「アリアの献身的な介護のおかげで、俺の傷は完璧に治すことができた」

  ドアを開いてアーサーが家に入ってくる。

アーサー「ただいま」

ミーア「あー、だー」

アーサー「ミーア、いい子にしてたか?」

ミーア「きゃっきゃっ!」

アリア「あなた、お帰りなさい」

アーサー「ん? 今日は随分と豪勢な食事だね。何かあったのかい?」

アリア「もう! 今日はミーアの1歳の誕生日よ。忘れたの?」

アーサー「え? そうだっけ? はは、ごめん」

アリア「もう、困ったお父さんね、ミーア」

ミーア「きゃっきゃ!」

アリア「さ、荷物を置いて、着替えてきて。さっそく食べましょう」

アーサー「ああ」

  場面転換。

アーサー「ミーア、誕生日おめでとう」

アリア「おめでとう、ミーア」

ミーア「きゃっきゃっ!」

アリア「ねえ、あなた。私ね、あなたと過ごしたこの2年間、とっても幸せだったわ」

アーサー「急にどうしたんだ? 改まって」

アリア「今から約40年前……。魔王が現れる前。私の住んでいた村は人間たちの手によって侵略され、蹂躙されたわ」

アーサー「……アリア?」

アリア「ねえ、あなた。国を豊かにするためには何が必要だと思う?」

アーサー「え? えーと。経済を豊かに……」

アリア「他国を侵略することよ。侵略してそこに住む人たちを奴隷にする。そういう点でいうと、エルフは人間たちにとっては都合がよかったのかも。魔力さえ無効化してしまえば、人間よりも力が弱いし、寿命も長い。奴隷にはうってつけだったの」

アーサー「ちょ、ちょっと待ってくれ。何の話だ? 大体、奴隷なんて、法で禁止されてる」

アリア「それは今の法よ。魔王が現れる前……国がいくつも存在し、各国が争うように領土拡大を目指していたときは、ほとんど無秩序のようなものだったわ。いえ、人間たち都合のいい法でしかなかった……」

アーサー「……」

アリア「だけど、魔王が現れてからは、人間同士で争っている場合ではなくなった。魔王という共通の敵が現れたことで、人間たちは団結したわ。いえ、それでも人間たちだけでは魔王に勝てなかった。だから、他の種族にも協力を仰いだの。その結果、今の法が作られた」

アーサー「……」

アリア「私は長い間、人間の奴隷だった。そんな私を救ってくださったのは……魔王様だった」

アーサー「え?」

アリア「人間たちが争う状況を見て、あの方はずっと嘆いていたわ。このままで人間だけじゃなく、他の種族も食い尽くしてしまうと」

アーサー「……」

アリア「そこで、自分が世界の脅威となることを決意したわ。それからは、あの方は敢えて、残虐な行為を繰り返したの。世界の敵であるために。……本当はとても心優しい方だったのに」

アーサー「……ア、アリア。さっきから、なんの話を……」

アリア「そんな魔王様を……あなたは殺した」

アーサー「っ!」

アリア「あなたは人間たちにとって勇者よ。でも……私たちから見たら魔王よ」

アーサー「……」

  アリアがテーブルのナイフを掴む。

アーサー「アリア、何を!」

  アリアがナイフで自分の胸を刺す。

アリア「うっ!」

アーサー「アリア―!」

  アリアが倒れ、アーサーが駆け寄る。

アーサー「……どうして?」

アリア「……こ、これが私の……あなたへの復讐」

アーサー「俺の命なんて、君が望むなら迷うことなく、あげたのに」

アリア「……だからよ。……あなたは……私の大切な……方を……死に追いやった。あなたは……苦しまないと……ダメ」

アーサー「う、うう……」

アリア「……これが最後の……私の、復讐の魔法……。私……あなたのこと……愛してるわ。……あの子のこと……お願いね……」

アーサー「アリア―――――!」

ミーア「あー、あだー。ママ、ママ……」

アーサー(N)「アリアの最後の魔法は、俺を死なせないための魔法。絶望の中でも、苦しみながらも俺は生き続けなければならない。……最愛の人の……俺たちの子を育てるために」

終わり。

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