■概要
人数:5~7人
時間:10分程度
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス
■キャスト
山城 翔(やましろ かける)
三島 綾乃(みしま あやの)
先生
男子生徒
アナウンサー
その他
■台本
リポーター「連続殺人の容疑で、今、山城耕平容疑者が警察官に連行されています。山城容疑者は3名の殺害に関与しているということで……」
翔(N)「中学2年の時、親父が殺人を犯して逮捕された。犠牲者の中には1歳の子供がいたこともあり、当時はかなりニュースでも取り上げられた。3年たった今でも、親父の名前を出せば覚えている奴も多いだろう。親父が逮捕された当時は、当然だけど普通に生活を続けることはできなかった。転々と引っ越しを繰り返し、息を殺すようにしてひっそりと暮らしてきた。それでも、何かあると殺人者の息子である、俺のせいにされることも多い」
教室。
先生「えー、昨日ですが、体育館裏にタバコの吸い殻が落ちていました。しかも、この一週間で数回もです。学校側でも見つけ次第、厳罰にします。もし、吸っているという人を知っているなら、後で先生のところに報告してください」
ざわざわと教室内が騒がしくなる。
男子生徒1「……どうせ、山城だろ」
女子生徒「山城くんが転校してきてから、学校の風紀、悪くなったよね……」
男子生徒2「人殺しの息子だからな。タバコくらいなんとも思わないだろ」
バンと机を蹴る翔。
翔「……」
先生「や、山城くん、落ち着いて。ほ、ほらみんなも、そういうことは言わないようにしてください」
男子生徒1「今の態度で、自分だって言ってるようなもんじゃん」
女子生徒「……なんで、学校に来るんだろ。嫌われてるって知ってるのに」
翔(N)「確かに、その通りだ。学校に来たところで楽しいことなんて一つもない。というより、苦痛しかない。別に勉強をするだけならわざわざ学校に行かなくても家でもできる……でも、これは俺の一種の意地のようなものだ。親父のせいでこれ以上、俺の人生を狂わされるのが癪だった。……いや、もうこれ以上ないってほど、狂わされている。もう、取り返しのつかないほどに。だから、俺の素行が悪いのは親父への反抗なんだと思う。ある意味、犯罪者である親父のせいにすることで……」
チャイムの音。
放課後。遠くから運動部の声がかすかに聞こえる程度。
そんな中、教室のドアが開き、翔が入ってくる。
歩いて、三島綾乃の机のところまでいく。
翔「三島。これ、ノート」
綾乃「え?」
翔「お前、今日、日直だろ。宿題のノートは三島が集めるんだよな?」
綾乃「あ、ああ。うん。ありがとう。……ノート提出してくれたの、翔君、だけだよ」
翔「……そうなのか?」
綾乃「……みんな、直接先生に提出するから」
翔「もしかして、お前、イジメられてのか?」
綾乃「え?」
翔「ああ、すまん。俺になんか言われたくないよな」
綾乃「ううん。違うの。私ってさ、影が薄くって……。クラスのみんなに認識されてないっていうか……」
翔「ふーん……」
綾乃「だから、翔君が私の名前を知ってることに、ちょっとビックリした」
翔「……たまたまさ。じゃ、確かにノート渡したぜ」
綾乃「うん。さよなら」
教室から出ていく翔。
場面転換。
先生「それでは、これでホームルームを終わります。部活のない人は寄り道しないように帰宅してください」
翔「……」
翔が立ち上がって、教室を出て廊下を歩く。
後ろから先生が走り寄ってくる。
先生「あの、山城くん」
翔「……なに?」
先生「あー、えっと、そのですね。山城くん、まだなにも部活に入っていませんよね? うちの学校、校則でどこかに所属してもらわないといけなくて……」
翔「……入れるところなんて、あるのかよ?」
先生「ち、違います。えっとですね。どこかに所属さえすればいいので……飼育委員に入ってもらえませんでしょうか?」
翔「飼育係?」
先生「知らないかもしれないが、クラスでうさぎを飼育しているんですよ。あの生徒が飼育係なんですけど……えーっと、なんて言ったかな。とにかく、お願いできますか?」
翔「……俺に許可とらなくても、勝手に入れといていいから」
スタスタと歩いていく翔。
場面転換。
うさぎ小屋。
綾乃「あ、翔くん」
翔「なんだ。飼育委員って三島だったのか」
場面転換。
綾乃「ふーん。押し付けられちゃったんだね」
翔「まあ、他の部活なんか、入れるわけないから、俺としてもこれでよかったと思う」
綾乃「翔くん、無理しなくていいからね。毎日ちゃんと来てるって報告しておくから」
翔「いや、いいさ。暇だし、動物は好きだから」
綾乃「え? そうなの? 意外……」
翔「意外ってなんだよ。……動物は、俺を犯罪者の息子って目で見ないからな」
綾乃「……」
翔「なんで、お前が悲しそうな顔をするんだよ」
綾乃「翔くんが罪を犯したわけじゃないのにね」
翔「仕方ないさ。もう慣れてる」
翔(N)「それから俺は、放課後はうさぎの飼育部屋に行くことが日課になった。……というのより、三島のところに、と言った方が正確だろう。なにより、三島と話すが楽しかった」
翔「それにしても三島、ホント、影薄いのな」
綾乃「どうしたの、急に?」
翔「いや、一週間ずっと教室でお前見てたけど、誰からも一回も話しかけられてないよな」
綾乃「それは、翔くんも一緒でしょ」
翔「まあ、それはそうなんだけど……」
綾乃「別にいいの。もう慣れたし」
翔「それにしても面白いよな」
綾乃「なにが?」
翔「俺は有名過ぎて、三島は影が薄くて。理由は真逆なのに状況は一緒だなって思って」
綾乃「確かにそうだね。真逆だけど、似た者同士なのかも」
翔「なんか、変だよな」
綾乃「でもね、私、翔くんには悪いけど、よかったって思ってる」
翔「ん? なにがだ?」
綾乃「……こうして、翔くんと話せるきっかけになったから」
翔「……」
綾乃「私ね、嬉しかったの。クラスのみんなはもちろん、先生だって、私の名前覚えてないくらいなのに、翔くんはちゃんと私の名前を呼んでくれた」
翔「たまたまだよ」
綾乃「えー、酷い!」
二人が楽しそうに笑う。
場面転換。
チャイムの音。
翔「……びくびくするなら、補習なんて受けさせるなよ。……かなり遅くなっちまったな。三島、まだいるかな」
場面転換。
綾乃「や、やめて……」
男子生徒1「てめえだろ、タバコの件、チクったの。推薦、おしゃかになっちまったんだからな!」
綾乃「……」
男子生徒1「いいか、暴れたりしたら、刺すからな。大人しくしてろよ」
綾乃「……い、いや」
男子生徒1「うるせえ!」
男子生徒が綾乃を突き飛ばし、覆いかぶさる。
綾乃「いやーー!」
男子生徒1「黙れよ!」
翔「三島―!」
男子生徒1「うわっ! やめっ! ううっ!」
翔がナイフで男子生徒1を刺す。
男子生徒1「がふっ! ……うう」
綾乃「あ、ああ……」
翔「三島、大丈夫か?」
綾乃「翔くん、逃げて……」
翔「え?」
綾乃「私が、刺したってことにするから。だから逃げて」
翔「な、何言ってるんだよ」
綾乃「ダメだよ! 翔くん、お父さんのことあるから……また、そういう目で見られちゃう。これ以上、翔くんがお父さんのことで不幸になって欲しくない」
翔「それは違うよ、三島」
綾乃「え?」
翔「親父は関係ない。これは、俺の……山城翔としての罪だ」
綾乃「どうして……」
翔「お前のことが好きだからだ」
綾乃「え?」
翔「お前を傷つけようとする奴は許せなかった」
綾乃「翔くん……」
翔「三島。お前だけだ。俺を名前で呼んでくれるのは。お前だけが、俺を犯罪者の息子じゃなく、俺として見てくれた」
綾乃「私も、翔くんのことが好き。私を見つけてくれて、私を見てくれる翔のことが……」
翔「三島。俺はちゃんと罪を償って戻ってくる。……待っていてくれるか?」
綾乃「うん。待ってる。ずっと、待ってるから」
翔「三島。……綾乃、愛してる」
アナウンサー「……高校で起こった、殺傷事件の犯人が自首してきたとのことです。犯人は同じ高校に通う17歳の少年で、学校側の話では普段から素行が悪い生徒だったようです。また、少年の父親は殺人の容疑で既に死刑が確定していて、周りからは今回のようなことはいつか起こるのではないかと懸念されて……」
終わり。