【声劇台本】一瞬の煌めき

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■概要
人数:4人
時間:10分程度

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス

■キャスト
瑛斗(えいと)
七海(ななみ)
医師
看護師

■台本

医師「アルプトラオム病。世界でも希少な病気で、世界に数人しか発症していない。そのせいか、研究はほとんど進んでいない。この病気は発症から半年で、突如、全身が石化していき、死亡率はほぼ100パーセント。この報告書はある患者のレポートより抜粋したものである」

場面転換。

瑛斗「……そうっすか。つまり、俺の余命はあと半年ってことっすよね?」

医師「そうです。これは提案なんですが、この病院……というより私がアルプトラオム病について研究しています。それで……瑛斗くんに手伝っていただけないかと思いまして」

瑛斗「手伝いって、具体的には何をするんすか?」

医師「自分の体調や心境などのレポートを書いてもらいたいのと……新薬の治験をお願いしたいんです」

瑛斗「うーん……。薬ってどれくらい効くんすか?」

医師「……嘘を言っても意味がないので、はっきり言います。正直言って、効果はそこまで見込めません。それどころか、副作用で苦しむ可能性もあります」

瑛斗「それ……俺になんの得があるんすか?」

医師「瑛斗くんに得はほとんどありません。これは、これからのアルプトラオム病患者のためになります」

瑛斗「悪いっすけど、パスで。俺は他人には興味ないんで」

医師「そうですか。わかりました」

場面転換。

病院内を歩く瑛斗(スリッパの音)。

瑛斗「余命、半年か……。なんか、実感湧かねーな」

七海「もう、ほっといてよ!」

七海が思い切り車椅子で飛び出してくる。

瑛斗「おわっ!」

七海「きゃっ!」

ドンとお互い、ぶつかる。

瑛斗「いってぇ!」

七海「ちょっと、どこ見て歩ているのよ! 邪魔なのよ! ふんっ!」

車椅子を操作して行ってしまう七海。

瑛斗「ちょっと待てい!」

七海「……なによ?」

場面転換。

ガコンと音を立てて自販機からジュースが出てくる。プシュッと音を立てて開ける瑛斗。

瑛斗「(ジュースを飲んで)ぷはー! 美味い」

七海「あのさぁ。普通、女の子に奢らせる?」

瑛斗「何言ってる? 俺とお前の関係は、男と女ではなく、被害者と加害者だ」

七海「……私、車椅子なのよ? あんたより、重症なの。少しは労わろうと思わないの?」

瑛斗「関係ねえな。俺はお前にぶつかられて、痛かった。それ以外のことに興味はない」

七海「ぷっ! あはははははは!」

瑛斗「?」

七海「あー、笑った。なんか、気を使われないのって久しぶり。ねえ、それ、一口ちょうだい」

瑛斗「なんでだよ?」

七海「ぶつかったとき、あんたも歩ていた。つまり、あんたにも過失はあるってわけ。自動車の事故で考えたら、8対2ってところじゃない? なら、一口くらい私がもらう権利がある」

瑛斗「なるほどな。まあ、一理ある。ほら」

七海「ありがと(ジュースを飲む)」

瑛斗「さてと、病室に戻るか。残りはやるよ」

七海「……ねえ、私のこと聞かないの?」

瑛斗「聞いて、俺に得があるのか?」

七海「あんた、ホント、ドライね。ねえ、あんた、まだ入院してるんでしょ? 暇だったら、話し相手になってよ。こんな可愛い子とお話できるんだもん、断らないわよね?」

瑛斗「……自分のことを可愛いという女は信用できないタチなんでな」

七海「あー、うそ、うそ。今のなし。病院ってホントつまらないのよ。お互い、暇でしょ?」

瑛斗「うーん。まあ、確かに暇だよな」

七海「私、七海。じゃあ、また明日ね!」

場面転換。

七海「あはははは! 瑛斗って、バカね」

瑛斗「うるさい。お前が言うな」

看護師「ねえ、七海ちゃん。そろそろ、リハビリの時間なんだけど……」

七海「パース。行かない」

看護師「七海ちゃん。今なら、リハビリすれば歩けるようになるかもしれないのよ?」

七海「放っておいてよ! やるかやらないかは、私の勝手でしょ!」

看護師「そ、そうね……。でも、気が変わったらすぐに言ってね」

看護師が行ってしまう。

七海「私ね、事故で神経が傷ついたみたいで、足が動かないのよ」

瑛斗「なぜ、突然、自分語りを始める?」

七海「あんた、聞いてこなさそうだから。今だって、行けよ、みたいなこと言わないだろうし。だから、自分から話すしかないでしょ?」

瑛斗「……俺はさ。頑張れって言うのは無責任だと思ってる。だって、努力するのも、苦労するのも、本人なんだぞ。頑張れって言う方はなにも苦労しないのに」

七海「ほんそれ! 結局、正論とか自分の考えを押し付けるだけなのよね」

瑛斗「七海の人生なんだから、七海がどうすればいいかを決めりゃいい」

七海「うーん。やっぱり、あんたとは話が合うわね。で? あんたは、なんで入院してんの?」

瑛斗「別になんでもいいだろ」

七海「ダメ! 人の事情を聞いたんだから、あんたも話さないのは卑怯よ」

瑛斗「……お前が勝手に話したんだろ。まあ、あんまり面白い話じゃないぞ」

場面転換。

七海「面白くないどころか、重すぎるんだけど」

瑛斗「俺に文句言うなよ」

七海「でもさ、あんたの立場なら、私に説教しそうなんだけど。お前は俺と違って生きる希望があるんだから、頑張れって」

瑛斗「別にお前がどうしようが、俺には関係ないし、お前が苦労することを俺が押し付けるのは変だろ」

七海「じゃあさ、私が瑛斗に、新しい薬を飲んだ方がいいとか言うのも、余計なお世話?」

瑛斗「だな」

七海「そっか……。でも、私は瑛斗に死んでほしくないな。だから、少しでも可能性があるなら、薬飲んで欲しい。あくまで私の希望だけど」

瑛斗「……」

場面転換。

看護師「瑛斗くん。まだ起きてるの? 消灯時間よ」

瑛斗「なんか、眠れないんすよね」

看護師「そっか。なら、無理に寝なくてもいいわ。ほら、今夜は星が綺麗だし。星空を眺めるのもいいかも」

瑛斗「……俺、星、嫌いなんすよ。昔から妙に流れ星を見ること多いんで」

看護師「あら? いいことじゃないの?」

瑛斗「いや、流れ星って星が燃え尽きる瞬間じゃないっすか。つまり、星が死ぬときっすよ」

看護師「そういうふうに見る人って初めて」

瑛斗「今まで輝いていた星が、一瞬で燃え尽きる。そしてその後は何も残らない。何もかもが無駄に思っちゃうんすよね」

看護師「でも、最後に煌めくわ。綺麗な光の筋は見た人の心に残るものよ」

瑛斗「……心に残る」

看護師「そう。無駄なんかじゃないわ。それに流れ星は願い事を叶えるっていうでしょ?」

瑛斗「そんなの迷信ですよ」

看護師「でも、信じて、それで救われる人だっているんだから」

瑛斗「……俺も、残りますかね?」

看護師「え?」

瑛斗「最後の光りの記憶」

場面転換。

カリカリとノートに文字を書き込む瑛斗。

瑛斗「えーっと、体温、血圧、脈拍、異常なし」

七海「やっほー!」

瑛斗「お前がこっちに来るなんて珍しいな」

七海「あんたが、来るのが遅いからよ」

瑛斗「悪いな。やることができたからさ」

七海「何か、始めたの?」

瑛斗「新薬の治験」

七海「え? やることにしたの? なんで?」

瑛斗「ただ消えるのが癪でな」

七海「ふーん。いいんじゃない。あんたが決めたらな。でも、だからって私もリハビリはやらないからね」

瑛斗「ああ。治験は俺が決めたことだから、七海には関係ねえよ」

七海「その言い方は引っかかるわね」

瑛斗「別に、お前に……うっ! うっぐう!」

七海「え? ちょっと! 瑛斗? 誰か、来て」

場面転換。

七海「あのさ、瑛斗。……薬飲むの止めたら?」

瑛斗「……なんでだよ?」

七海「飲んでから、悪化してる気がする」

瑛斗「副作用だな。まあ、そういうデータも必要らしいから」

七海「……でもさ、言ってたじゃん。薬って瑛斗に効く可能性が低いって」

瑛斗「ああ」

七海「なら、止めなよ! あんたに得なんてないんだから! 瑛斗が苦しむの見たくない!」

瑛斗「確かに、俺に得はなさそうだ。けど、俺が役に立ったというデータは残る」

七海「それがなんだっていうのよ!」

瑛斗「言っただろ? ただ消えるのが癪だって。……残したいって思ったんだよ。俺っていう存在を……さ」

七海「私はあんたをずっと覚えてる。……それじゃ、ダメなの?」

瑛斗「うーん。お前だけじゃなぁ」

七海「瑛斗の馬鹿!」

瑛斗「……」

場面転換。

医師「もう、薬の投与は止めましょう」

瑛斗「……なぜです?」

医師「君の体に負荷をかけ過ぎた。病気の進行は止められているかもしれないが、副作用のせいで逆に君の体はボロボロになってます」

瑛斗「……それも、データとして……役に立つんですよね?」

医師「そ、それはそうですが……」

瑛斗「最後まで……やらせてください」

医師「……」

場面転換。

七海「……ってわけ。それでさー」

瑛斗「……七海。無理して来なくていいんだぞ」

七海「私は来たくて来てるの。瑛斗には関係ないでしょ?」

瑛斗「俺の部屋に来て、その理論はどうなんだ」

七海「私ね。リハビリ始めたんだ」

瑛斗「そっか……」

七海「別にあんたは関係ないからね」

瑛斗「ああ……。お前が決めて……お前がやることだ……。誰にも……文句は言えないさ」

七海「うん……。だから、私も、あんたがやることに文句は言わないよ」

瑛斗「まあ……文句を言われたところで……無視……するけど……な」

七海「バカ……」

瑛斗「なあ……七海……。前にさ……。俺のこと……忘れないって……言ってくれたよな?」

七海「うん」

瑛斗「嬉しかった……。ありがとう……」

七海「うん、うん……。絶対に忘れないから」

医師(N)「それから数日後、その患者は亡くなりました。ですが、その患者が残したレポートとデータは、大いに研究に役立つことができました。このデータは後世まで残り続けるでしょう。――追記。七海さんはあれからリハビリによって、立てるようになりました。今は、医師を目指して勉強しているようです」

終わり。

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