■概要
人数:2人
時間:10分程度
■ジャンル
ボイスドラマ、ファンタジー、シリアス
■キャスト
アリア
アレックス
■台本
アリア(N)「私には好きな人がいます。きっと、この想いは愛と呼べるものだと思います。でも……この気持ちは、きっと偽物なのでしょう」
アレックス「おはよう、アリア。具合はどうだい?」
アリア「ありがとうございます、アレックス。今日はとても気分がいいです」
アレックス「あははは。アリア、敬語はやめてくれって言ってるだろ。もう、夫婦なんだからさ」
アリア「そうだったわね。ごめんなさい。そうだ、朝食は何がいいかしら? あなたの好きなトーストとスクランブルエッグなら、すぐに作れるわよ」
アレックス「アリア、いけないよ。君はまだメイドだったときの癖が抜けていないようだね。もう僕の世話をする必要はないんだ。というより、君は病気なんだから、なにかあったら僕を頼ってほしい」
アリア「アレックス……。私はあなたと一緒にいるだけで幸せよ」
アレックス「アレア、僕もだよ。だから……絶対に無理はしないでくれ。君を失ったら、僕は生きてはいけない」
アリア「大丈夫よ、アレックス。私は、あなたの傍から離れないわ。絶対に……永遠に」
アレックス「ありがとう、アリア。愛してるよ」
アリア「私もよ、アレックス」
場面転換。
アレックス「……ダメだ。細胞の崩壊が止まらない。カリウムの濃度が足りないのか? いや、落ち着け。最初から見直そう。遠回りでも、確実に進める。それが最善のはずだ」
コンコンとノックの音。
アリア「あなた、コーヒーを淹れたわよ。少し休んだらどう?」
アレックス「ありがとう。いただくよ」
コーヒーを受け取り、すするアレックス。
アレックス「……あれ? 淹れ方を……いや、豆に何かを入れたのかい?」
アリア「ええ。最近、あなた、疲れているみたいだから、ハーブを少し混ぜてみたの」
アレックス「うん。とっても美味しいよ。ありがとう。……でも、いつもの淹れ方も忘れないでくれよ?」
アリア「あら、口に合わなかったかしら。淹れ直す?」
アレックス「いや、そうじゃないんだ。美味しいよ、これ。本当に。ただ、いつものコーヒーの味は忘れたくないんだ」
アリア「……明日の朝は、いつものコーヒーを淹れるわ」
アレックス「ありがとう。……でも、アリア。まだ君は僕に気を使ってるんじゃないかい? そういうときは、拗ねてもいいんだよ?」
アリア「ふふ。あなたこそ、まだ私を子ども扱いしてないかしら? そんなことで拗ねたりしないわよ」
アレックス「そうか……。そうだな。悪かった」
アリア「ねえ、あなた。今日はもう研究は終わりにしない? なんだか、今日はあなたとたくさんお話したいの」
アレックス「ああ。そうだね。僕も君と話したいと思っていたんだ。あ、そうだ。どうせなら、明日、湖畔に行かないか? 二人の思い出の場所。そこで君と語り合いたい」
アリア「ええ。楽しみにしてる」
場面転換。
アリア「綺麗ね……」
アレックス「ああ。ここは夕日がとても綺麗で……夕日に照らされた君は、もっときれいだった」
アリア「……」
アレックス「アリア、覚えているかい? ここで僕は君にプロポーズしたんだ」
アリア「ええ。もちろん、覚えているわ。ここであなたは永遠の愛を誓ってくれた」
アレックス「ああ。そうだ。そして君も……」
アリア「……」
アレックス「それなのに、君は……」
アリア「落ち着いて、アレックス。私はどこにもいかない。ずっと傍にいるわ」
アレックス「アリア……。アリア、アリア! 僕は……君が好きだった。愛していた」
アリア「アレックス。私もよ。この気持ちはあのときからずっと変わらないわ」
アレックス「……違う。違う、違う、違う違う違う違う、うわあああああああああ!」
場面転換。
コンコンとドアがノックされ、アレックスが部屋に入ってくる。
アレックス「アリア。すまなかった。取り乱してしまって……」
アリア「気にしないで」
アレックス「……もう、こんなことはやめた方がいいのかもしれないな」
アリア「……」
アレックス「僕の我儘に、これ以上、君をつき合わせるなんて……」
アリア「私は平気よ。いえ、私はそのために生まれたんですもの」
アレックス「……確かに、君を生み出したの僕だ。だけど……だからといって、僕の意思に従う必要はないんだ。君は、君の人生を生きていい」
アリア「私はアレックスが好き。愛してるわ」
アレックス「違う、違うんだ。その感覚も僕が刷り込んだものだ。君の本当の気持ちなんかじゃない」
アリア「……」
アレックス「君はアリアの肉体から作り出したホムンクルス。姿はアリアとそっくりでも、違う存在だ」
アリア「……確かにこの体はあなたが作ってくれたものです。でも、心は……気持ちは私の……私だけのものです」
アレックス「違う、違うんだ! まっさらだった君の心に、僕はアリアの記憶を植え付けた。姿だけじゃなく、感情や気持ちまで、アリアに近づくように誘導した。だから、君が僕を好きになったのは、アリアの感情をトレースしたからだ」
アリア「違います! 確かに、アリアの記憶や感情を理解するために、あなたを好きになるように教えられました。ですが……今の、この気持ちは……私の本当の気持ちです!」
アレックス「もう……やめてくれ。君はアリアじゃない。僕が愛したのは……愛されたいのはアリアだ」
アリア「アリアは死にました。今は、私がアリアです」
アレックス「違う! 違う! 違う! 君はホムンクルスで……アリアじゃない……偽物だ」
アリア「偽物と本物。その境界はどこにあるんでしょうか? たとえ、偽物でも、お互いが本物と信じていれば、本物になれるのではないでしょうか?」
アレックス「違う! 偽物は偽物だ! だから、僕も……。あ? あ? ああ? ぼ、ぼ、僕も」
アリア「アレックス! 落ち着いてください! あなたは本物です! アレックスです!」
アレックス「本物? 偽物? ほんものほんmのほんもおおおおおおおおおお! あああああああっ!」
アリア「アレックス!」
アレックス「あ……ぐっ!」
ドサリと倒れるアレックス。
アリア「……また、失敗ですか。安心してください。すぐに作り直しますから」
アリア(N)「私は偽物。なにをしても本物にはなれない。でも、この気持ちは……アレックスを愛しているという気持ちは、私だけのもの。だから私は繰り返す。この想いが本物になることを祈り続けて」
終わり。