見えなかったもの

見えなかったもの

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■概要
人数:3人
時間:10分程度

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス

■キャスト
慶(けい)
美悠(みゆ)
保育士

■台本

慶(N)「僕は……ずっと貧乏が嫌だった。だから、裕福に憧れた。優雅な生活を夢見ていた。その思いは、家族が出来てからはさらに強くなった。特に子供には、僕のような貧しい生活は絶対にさせない。それだけが、僕の全てだった」

慶「セニョール。あなたのおかげで、良い取引ができた。これからも、良好な関係を築いていきたいものだね」

部屋から出る慶。

慶「ふう。すっかり、遅くなってしまったな。僕のプリンチペッサは、もう寝てしまったかな」

場面転換。

ガチャリとドアを開けて、慶が入ってくる。

同時に美悠が走ってくる。

美悠「パパ!」

慶「エッコミ! いい子にしてたかい、僕のプリンチペッサ」

美悠「うん! 美悠、いい子にしてたよ」

慶「ふむ。確かに大人しく待っていたのは、偉いが、子供がこんな時間まで起きてるのはいけないな」

美悠「あっ……。でも、美悠、パパに会いたくて」

慶「そうか。それなら仕方ないな。特別に許してしんぜよう。それじゃ、パパと一緒に寝ようか。久しぶりに絵本を読んであげるよ」

美悠「うん!」

慶(N)「どんなに疲れていても、愛娘である美悠の顔さえみれば、疲れは飛んでいく。まさに、僕のアンジェラだ。……瑞希、君の分まで美悠を幸せにしてみせる。あの世で見ててくれ」

パソコンのキーボードを打ち込む音。

そして、ドアが開く。

美悠「おはよう、パパ」

慶「ん? もう朝か。美悠、一人で起きれたんだね。偉いよ」

美悠「えへへ」

慶「さてと、朝ご飯にしようか。すぐ作るから待っていてくれ」

美悠「パパ……寝てないの?」

慶「いや、少し寝たよ」

美悠「……ごはん支度は美悠がやるから、パパは寝てて」

慶「ははは。嬉しいことを言うじゃないか。でも、美悠にはちょっと早いかな。火を扱うのは危ないよ」

美悠「じゃあ、見てて!」

場面転換。

たどたどしく卵を割り、かき混ぜる美悠。

そして、フライパンに入れ、ジューと焼ける音がする。

慶「驚いた……。いつの間に、そんなことができるようになったんだい?」

美悠「先生に教えてもらったの!」

慶「そうか。今度、お礼を言っておかないとな」

美悠「だから、パパは寝てて」

慶「……グラッツェ。そうさせてもらうよ」

慶(N)「瑞希……。僕たちのアンジェラはちゃんと立派なレディに育っているよ……」

場面転換。

保育所。

慶が歩いてくる。

慶「チャオ」

保育士「あ、慶さん、こんばんは」

慶「僕のアンジェラはいい子にしていたかい?」

保育士「あの……」

慶「ん? どうかしたのかい?」

保育士「もう少し、美悠ちゃんと一緒にいてあげられませんか?」

慶「……」

保育士「美悠ちゃんは、強い子です。ですが、その分、抱え込んでます。気丈に振舞ってますが、寂しがっていますよ」

慶「シニョリーナ。人の家庭の問題に口出しは止めていただけるかな?」

保育士「でも……」

慶「確かに、僕は忙しくて、美悠と一緒にいられる時間は限られている。だが、僕なりに時間を作っているつもりだ」

保育士「……」

慶(N)「母親を亡くしている美悠に、極力寂しい思いはさせたくない。睡眠時間を削ってでも美悠と一緒にいる時間を作っているつもりだ。……今は、仕事が順調で、仕事を犠牲にするわけにはいかない。少し寂しい思いをさせるかもしれないが、貧乏で辛い思いは絶対にさせたくない」

場面転換。

ドアを開けて、慶が家に入ってくる。

そこに美悠が走ってくる。

美悠「パパ! お帰りなさい!」

慶「ヴァッファンクーロ。いけない子だな。なぜ、まだ起きているんだい?」

美悠「あ……。ごめんなさい」

慶「パパはこの後、家でも仕事があるんだ。悪いが、今日は一人で寝なさい」

美悠「……ごめんなさい。美悠を嫌いにならないで」

慶「……あ、ごめんよ。パパ、少し疲れているのかもしれない。美悠のこと、嫌いになるわけないよ」

美悠「美悠……。パパのことも心配」

慶「パパのことも?」

美悠「すごく疲れてる……。いつも、フラフラしてる……」

慶「はは。大丈夫さ。パパは強いからね。さ、もう寝なさい」

美悠「はい……」

場面転換。

パソコンのキーボードを叩く音。

慶「くそ。意識がもうろうとしてきた。……コーヒーでも……うっ」

バタンと倒れる音。

少しの沈黙後、ゆっくりとドアが開く音。

美悠「パパ?」

息をのむ美悠。

美悠「パパ! パパ―!」

慶(N)「ただの過労による、心不全だったが、美悠が救急車を呼んでくれなかったら、危なかったそうだ。だが……今日は大きな取引がある。資料は用意できなかったが、ぶっつけ本番でいくしかない……」

美悠が泣きながらお祈りしている。

美悠「お願いです、神様。パパまで連れて行かないでください! 美悠、いい子にします! パパに迷惑かけません! だから、パパを連れていかないでください……」

慶(N)「美悠……」

美悠「パパに会いたいの我慢します! パパのお手伝いもたくさんします! だからお願いします! パパを連れて行かないでください!」

慶(N)「……貧乏な思いをさせたくない。こんなのは僕の自分勝手な思いだったんだな。美悠が望んでいたのは、裕福な暮らしなんかじゃなかった……。ごめん。瑞希。君も、きっとそうだったんだな……」

場面転換。

遊園地。人が賑わっている。

美悠「ねえ、パパ。お仕事、大丈夫なの?」

慶「ああ。しばらくはお休みさ。今まで頑張ってたから、そのご褒美さ」

美悠「……でも、パパ、疲れてない?」

慶「ふふふ。病院でたくさん休んだから、体調はばっちりさ。さあ、今日はたくさん遊ぶぞ」

美悠「うん!」

慶(N)「瑞希。もしかしたら少しだけ、貧乏で美悠を苦労させてしまうかもしれない。でも、必ず幸せにしてみせる。だから、あの世から見守っていてくれ」

終わり。

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