■概要
人数:5人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、異世界、コメディ
■キャスト
宇佐美 冥土
アリア(店長)
ルナ
クレイ
客
■台本
冥土(N)「店は軌道に乗ってきたのだが、正直、人手が足りていない。募集はしているようだが、全く応募がないようだ……」
店内が賑わっている。
ドアが開き、お客が入ってくる。
冥土「お帰りなさいませ、ご主人様。こちらのテーブルでお休みください」
男性客1「すみませーん。アリアさんのチェキ、お願いしますー」
冥土「はい。喜んで。店長、7番のご主人様からチェキのご注文です」
アリア「はい、喜んで―。……あ、宇佐美くん。スパゲティ出来たから、1番のご主人様にお願い」
冥土「はい、かしこまりました」
男性客2「すみません、注文いいですか?」
冥土「はい。少々お待ちください」
その時、ドアが勢いよく開く。
ルナ「冥土お兄様―! ルナ、会いに参りましたわよー」
冥土「お帰りなさいませ、ご主人様、えっと……」
ルナ「ああ、いいですわ。適当に空いてる席に座ってますから、お兄様はそのままお仕事……ご奉仕を続けてくださいませ」
冥土「……すまないな」
ルナ「いえいえ。ルナはお兄様の働いている姿を見ているだけで、十分幸せですわ」
アリア「……宇佐美くん、随分と、ルナさん、いいご主人様になったわね。何かしたの?」
冥土「……前に、不覚にも過労で倒れたときから、ああいうふうになったんだ。まあ、忙しい時間に奉仕できない分、暇になったら話し相手になってやってるのだがな」
アリア「ふーん……。随分と、仲良くなったんだね」
冥土「ん? 一人のご主人様に入れ込み過ぎか?」
アリア「いや……そういうことじゃないけど……」
そのとき、店のドアが開く。
冥土「お帰りなさいませ、ご主人様」
クレイ「……私に関わらなくて、結構です。客として来たわけではありませんので」
冥土「……客じゃない?」
ツカツカとクレイが歩き、ルナの前に立つ。
クレイ「ルナお嬢様。ようやく、見つけましたよ」
ルナ「ク、クレイ……。何しに来たんですの?」
クレイ「愚問です、お嬢様。今は勉強のお時間ですが、こんなところで何をしていらっしゃるんですか?」
ルナ「きゅ、休憩よ」
クレイ「勉強時間より長い休憩など、認められません。さあ、帰りますよ」
ルナ「い、嫌ですわ! 勉強なら夜、やりますわよ」
クレイ「夜は夜で、身に着けていただきたい習い事がございます」
ルナ「いいじゃありませんか! 勉強と習い事を毎日毎日やってられませんわ! 少しくらい休みの日があってもいいんじゃありませんの?」
クレイ「……お嬢様の場合は、ほぼ毎日、サボっているようですが?」
ルナ「……うっ!」
冥土「おい、いい加減にしろ」
クレイ「なんですか? あなたには関係ない話だと言ったはずですが?」
冥土「店の中で、俺たちに関係ない話をしてるんじゃねえ。他のご主人様に迷惑だ」
クレイ「なるほど。一理ありますね。では、お嬢様、帰りますよ」
ルナ「嫌ですわ!」
クレイ「わかっていると思いますが、私は党首様からお嬢様の教育を任せられてます」
ルナ「わ、わかってますわ。それがなんですの?」
クレイ「多少の躾を許可されていますので」
クレイが手を上げ、ルナに向かって振り下ろそうとする。
ルナ「ひっ!」
だが、クレイの手を掴む冥土。
クレイ「なんのつもりですか?」
冥土「店の中で、ご主人様に手をあげるなんていい度胸だ。覚悟はできてるんだろうな?」
ルナ「お兄様……。ありがとうございます」
冥土「気にするな、メイドとして当然だ」
ルナ「愛してますわ、結婚いたします」
冥土「……話がこじれるから、黙ってろ」
クレイ「いいんですか? 私に逆らうということは……」
冥土「あいにく俺はご主人様にはもちろん、客でもない奴の肩書を考慮する気はない」
ルナ「……お兄様、格好いい」
クレイ「なるほど。お嬢様が惚れ込むのも納得です。人に仕える者としての矜持も十分。ふふ、面白いですね」
冥土「……」
クレイ「私と奉仕勝負しませんか?」
冥土「奉仕勝負?」
クレイ「私とあなたで、お客……ああ、この店ではご主人様、ですかね。とにかく、どちらが多くのご主人様を満足させられるか、つまり、指名をどれだけ取れるか、勝負です」
冥土「くだらない。そんな勝負をする必要性を感じない」
クレイ「そうでしょうか? あなたは自分をメイドと言ってますが、見たところ、ただの給仕にしか見えません」
冥土「くっ……」
クレイ「大口を叩いたからには、それなりの力を示していただけませんか? 口先だけの人間に、お嬢様を奉仕させるわけにはいきません」
冥土「わかった。受けてやる」
クレイ「ふふ。ただ、普通に勝負をするのも面白くないですね。私が勝ったら、あなたにはこの店を辞めていただきます」
アリア「そ、そんな!」
冥土「俺が勝ったら?」
クレイ「ふふ、万が一にもないと思いますが、その場合は、この店に人を派遣しましょう。見たところ、このお店には人手が足りてないみたいですし」
冥土「……わかった」
ルナ「お兄様!」
アリア「宇佐美くん!」
クレイ「では、明日から1週間で勝負しましょう」
場面転換。
アリア「……宇佐美くん、どうするの?」
冥土「大丈夫だ。うちの店の客は男ばかりだ。つまり、店長目当ての客ばかり。そして、俺にはルナというご主人様がついている。一人の差だが、俺の勝ちだ」
アリア「で、でも……」
冥土「まあ、明日になればわかるさ」
前編終わり