■概要
人数:2人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス
■キャスト
優(ゆう) ※小学5年生くらい
戸倉 健(とくら たける)
■台本
優(N)「僕は仲間外れにされる辛さを知っている。ここにいるのに、まるでいないかのように扱われる。その思い出はずっと僕の心の中にトゲのように刺さっている。きっとこのトゲは抜けることはないだろう。……だから僕は」
多くの子供たちが校庭で遊んでいる。
それを眺めている優。
優(N)「一人を選んだ」
健「おーい、みんな! 見て見て! ほら、宙釣りー!」
子供たちの歓声。
健「あっ!」
健が落ちる音。
きゃははと子供たちが笑っている。
健「あははは。失敗、失敗」
優(N)「最初から一人でいれば、仲間外れにされることはないのだから」
場面転換。
学校のチャイム。
健「なあ、みんな、帰りにグラウンドでサッカーしていこうぜ! あ、優もどうだ?」
優「……いや、僕はいいよ」
健「そうか? サッカーが苦手なら、ドッチボールにするけど」
優「ごめん。運動自体が嫌なんだ」
健「そっか。わかった。ま、気が向いたら来てくれよな」
健が大勢を引き連れて教室を出ていく。
優(N)「同じクラスの戸倉健くん。クラスの人気者で、健くんの周りにはいつも大勢の友達が集まっている。えばるわけでもないし、誰かをイジメるようなこともない。きっと、僕があの輪に入っても、仲間外れにされることはないだろう。でも、絶対にないとは言えない。だから僕は健くんの誘いには絶対に乗らないのだ」
場面転換。
優が歩いている。
ブランコのキイキイとゆっくり動く音。
優「あれ?」
優(N)「公園で一人、ブランコに座って俯いていたのは……健くんだった。その姿を見たときは、ただ、珍しいなって思っただけだったけど……」
優「健くん、どうしたの?」
優(N)「僕は気づいたら声をかけていた」
健「あ、ああ。優か」
優(N)「きっと、声をかけたのは、健くんがどこか落ち込んでいるように見えたからだ。……それは、なんていうか、僕が小さい頃、仲間外れにされたときのことと重なったから……」
健「今日は恭平の家で、みんなゲームするんだってさ」
優「健くんは行かないの?」
健「俺……ゲーム持ってねーから」
優「そっか……」
健「なあ、優。少し、話、しないか?」
優「うん? ……いいけど」
優が隣のブランコに座る。
健「……優ってさ、いつも一人だよな」
優「え?」
健「仲間外れとかにされてるわけじゃないよな。どっちかって言うと、わざと一人になるようにしてるだろ」
優「……はは。そんなことないよ。たまたまだよ。たまたま健くんがそう見えただけだと思う」
健「なあ、優。一人でいるのって辛くないか?」
優「……え?」
健「時々さ、こっちを羨ましそうに見るだろ? でも、絶対に入ってこようとしない」
優「……」
健「お前は……強いな」
優「ぼ、僕が強い?」
健「俺はさ、怖いんだ。一人になることが、すごく怖い」
優「……僕は弱いよ。健くんより、ずっと弱い。弱いから、一人でいるんだ」
健「どういうことだ?」
優「僕は……」
優(N)「気づいたら、僕は健くんに全部話していた。今まで誰にも話したことのない、一人でいる理由……」
健「……なるほどな。最初から一人なら、仲間外れにされない、か。面白いこと考えるな」
優「そ、そうかな?」
健「なあ、優。一つお願いがあるんだけど」
優「なに?」
健「俺と友達をやめてほしい」
優「……は?」
健「この先も、ずっと友達にならないでくれ」
優「ど、どういうこと?」
健「友達じゃないなら、こうやってまた話てもいいだろ?」
優「あ、そういうこと」
健「どうだ?」
優「うん、いいよ。でも……ふふっ。十分、健くんも面白い考え方するね」
健「そ、そうか?」
優「そうだよ。あははは」
健「ははははは」
優(N)「それからは、時々、健くんとは放課後に一緒にいるようになった」
健「よお」
優「ああ、健くん」
ドカッと隣に座る健。
優「今日はみんなのところに行かないの?」
健「ああ。なんか気が乗らなくてな。優はなに読んでるんだ?」
優「図書館で借りた漫画」
健「お、俺も読んでいいか?」
優「いいよ」
健「サンキュー」
健が漫画を手に取り、ぱらぱらとめくる。
健「……」
優「……」
優(N)「一緒にいるからと言って、話すわけでもない。僕は健くんに気を使わないし、健くんも僕に気を使うことはない。だって、僕らは友達じゃないんだから。ただ一緒にいる、それだけだ」
場面転換。
健「なあ、優。帰り、お菓子買ってかね? お互いのお菓子、食べ比べしようぜ」
優「いいよ。でも、予算は300円までで、ちゃんと半分で分け合う、でいい?」
健「もちろん。そういうところはきっちりしとかないとな。俺たちは友達じゃないんだから」
優「そうそう。奢るとか、どっちかが損するとかはなしだからね」
健「わかってるって」
場面転換。
優と健が漫画を読んでいる。
すっと、健が立ち上がる。
健「さてと、そろそろ帰るかな」
優「そういえば、健くんさ」
健「ん?」
優「最近、みんなと遊ばないね」
健「ああ。みんなといるとさ、なんか疲れるんだよ。嫌われないようにって思ってバカやるのも、結構、辛いんだぜ」
優「そうなんだ?」
健「優が前に言ってた、最初から一人なら仲間外れにされないって話、今ならなんとなくわかるな。ちょっと寂しい気がするけど、楽だな」
優「でしょ?」
健「その点、優とは友達じゃないから、気を使わなくて気楽だよ。だから、ついつい、いつもこっちに来ちゃうんだよな」
優「僕もだよ。友達じゃない健となら、仲間外れにされる怖さもないし、気を使わないし、楽だよね」
健「んじゃ、帰るわ。じゃな」
優「うん。また明日ね」
健「おう」
優(N)「健くんとはこの先も友達になることはないだろう。この関係が続く限り」
終わり。