■概要
人数:3人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、ファンタジー、コメディ
■キャスト
ルーシャス
コーディアス
ゼノ
■台本
ルーシャス「はあ……」
ドアがノックされる。
ルーシャス「入れ」
コーディアス「失礼します」
ドアが開かれコーディアスが入ってくる。
コーディアス「魔王様。ラッド王国より使者が来ております」
ルーシャス「今度はラッド王国か。……三ヶ月後に会談の場を設けると伝えろ。場所はコーローの魔の森。護衛は10名まで。時間は深夜1時でいいだろう」
コーディアス「魔王様。恐れながら、人間は夜目が利きません。明かりを用意すると思いますので、返って目立ってしまうかと」
ルーシャス「ああ……。そうだな。じゃあ、昼にしよう」
コーディアス「承知しました。……次にアラー地方の魔獣軍団長ら、1000体がストライキを起こしました」
ルーシャス「……またか。今度はどんな要求をしてきたんだ?」
コーディアス「週休2日にすることと、報酬の果物をもう少し上げろと」
ルーシャス「……休みに関してはシフト制にして、ローテーションで、各自順番で取れるように調整しろと伝えろ。報酬に関しては、今年は異常気象で不作だからこれ以上は出せん。なんとか納得してもらえ」
コーディアス「魔王様……。アラー地方の部族に使者を送るのはどうでしょう?」
ルーシャス「人間たちに使者? 協定を結ぶのか? だが、あそこは反魔族主義が強いぞ。停戦に応じるとは思えん」
コーディアス「いえ。商売の交渉をするのです」
ルーシャス「商売?」
コーディアス「はい。果物などの作物に関しては人間たちの方が生産性は高いです」
ルーシャス「なるほど。報酬分を買って用意するということか。だが、そもそも魔族と取引するとは思えんぞ」
コーディアス「なので、シャドー族に人間に化けさせて交渉をするのです」
ルーシャス「……ふむ。面白い。アラー地方にはシャドー族の魔族はいない。魔族が人間に化けるなんてことは疑わない、と」
コーディアス「はい」
ルーシャス「よし! それでいこう。交渉役の人選と内容はお前に任せる」
コーディアス「はい。……では、失礼いたします」
コーディアスが歩き出す。
ルーシャス「コーディアス」
コーディアスが立ち止まる。
コーディアス「なんでしょうか?」
ルーシャス「……例の、勇者の件なんだが」
コーディアス「今は賢者の塔で修行中とのことです」
ルーシャス「そうか。うまくいったか……。で? どんな感じだ?」
コーディアス「密偵の話では、修行は最終段階に入ったとのことです」
ルーシャス「ということは、あと一週間というところか」
コーディアス「恐れながら魔王様。そろそろ、あの勇者の力は無視できなくなってきてます。今なら、塔に全勢力と投入すれば簡単に打ち取れるかと」
ルーシャス「ダメだ!」
コーディアス「え? ……なぜです?」
ルーシャス「あ、いや……。ふむ。コーディアス。これだけは覚えておいてほしい。人間という生き物はいくら希望を砕こうとしても、すぐに新しい希望を見出す。つまり、今、あの勇者を倒したところで、新たな勇者が現れるだけだ。それであれば、今の勇者をこちら側でコントロールする方がこちらにとっても、都合がいいのだ」
コーディアス「なるほど。出過ぎた進言、失礼いたしました」
ルーシャス「いや、お前には本当に助けられている。これからも頼むぞ」
コーディアス「恐悦至極です」
ルーシャス「……なあ、コーディアス。お前、魔王をやってみる気はないか?」
コーディアス「は? おっしゃっている意味が……」
ルーシャス「ああ、いや、冗談だ。すまん」
コーディアス「はあ……」
ルーシャス「それにしても魔王というのは大変だな。逃げ出したくなるのもわかる」
コーディアス「それは……前の魔王軍司令のことをおっしゃっているのですか?」
ルーシャス「ああ……。お前には本当に悪いことをしたな。急に前の軍司令の穴を無理やり埋めさせてしまった。苦労をかけてばかりだな」
コーディアス「いえ。前の軍司令はもっと苦労していたと聞いております。その……魔王様が職務をサボることが多かったと」
ルーシャス「……懐かしいな。あのとき、もう少し私が上手くやっていれば、こんなことにはならなかったのかもしれないな」
コーディアス「今の魔王様は、魔族の王に相応しい姿勢を我々に示してくれています。……ただ、魔王様には大変な重責を強いてしまい、心苦しく思っています」
ルーシャス「お前には感謝している。これからも頼む」
コーディアス「はっ!」
場面転換。
ルーシャス「……うーん。ここの運河を使って、ムサールへの物資の移動を……」
バンと勢いよく扉が開く。
コーディアス「魔王様! 勇者が城に攻めてきました!」
ルーシャス「来たか!」
コーディアス「今、城内の戦力を集結させています。囲んで一気に叩き潰します」
ルーシャス「待て! まずは戦力の三分の二は待機させろ」
コーディアス「え? あの……」
ルーシャス「第一拠点と第二拠点に、魔王近衛軍の団長と副団長を配置しろ。その際は護衛をつけず、単独で待つように指示しろ」
コーディアス「恐れながら魔王様。それでは突破されてしまいます」
ルーシャス「よい。勇者が拠点を抜けたら、あとは誰も手を出さないように、全兵士に伝えろ」
コーディアス「魔王様……。一体なにをお考えなのですか?」
ルーシャス「ようやく……ようやく、この時が来たのだ。勇者は魔王である私、自ら叩き潰す。どんなに私に危機が迫っても、絶対に手を出すなと重ねて伝えておけ」
コーディアス「……しかし」
ルーシャス「頼む。言う通りにしてくれ」
コーディアス「承知しました……」
場面転換。
バンと勢いよくドアが開く。
ゼノ「覚悟しろ、魔王! この勇者ゼノがお前を討つ!」
ルーシャス「ふふふふ。待ちわびたぞ、勇者よ。それでは、死ぬがよい!」
ゼノ「行くぞ! うおおおお!」
場面転換。
ルーシャス「ぐああああ!」
ルーシャスが倒れる。
ゼノ「勝った……。ついに、魔王を倒したぞー!」
ルーシャス「……お見事です」
ゼノ「いやー、面白かった!」
ルーシャス「これで気が済みましたか?」
ゼノ「よし! もう一回やろっと」
ルーシャス「は?」
ゼノ「次は仲間と一緒に旅をしようかな」
ルーシャス「ちょ、ちょっと待ってください!」
ゼノ「あとさ、この次は伝説の武器とかも用意しておいて。洞窟とかに置いとくとかさ。あと、究極魔法の封印も解いておいて」
ルーシャス「もう勇者ごっこはお止めください!」
ゼノ「まあまあ、あと一回だけ! じゃあ、引き続き、魔王役よろしく!」
ルーシャス「いい加減にしてください! 魔王様!」
終わり。