■概要
人数:3人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス
■キャスト
直人(なおと)
遥香(はるか)
後輩
■台本
目覚まし時計のアラームが鳴り響く。
直人「ん……」
バンと、ボタンを押し、アラームを消す。
直人「……」
フラッシュバックの音。
遥香「直人。ほら起きて。朝だよ」
直人「……あと10分」
遥香「ダーメ。会社遅刻しちゃうよ」
フラッシュバックの音。
布団をどかし、起き上がる直人。
直人「ふあー(欠伸)起きるか……」
場面転換。
ガシガシと頭を掻きながら歩いてくる直人。
立ち止まって冷蔵庫を開ける。
直人「えっと……。なんもないな。ヨーグルトだけでいいかな」
フラッシュバックの音。
遥香「ダーメ。朝はちゃんと食べないと」
直人「起きたばっかりだと食欲ないんだよ」
遥香「大丈夫、大丈夫。食べ始めたら、食欲なんて出てくるんだから」
直人「けど……朝からこんなに料理作って、気合入りすぎじゃないか?」
遥香「朝はしっかり食べる! それが健康の秘訣なんだから」
フラッシュバックの音。
直人「……せめて、パンでも焼いて食うか」
場面転換。
会社の昼休み。
袋からおにぎりを出す直人。
後輩「あれ? 先輩、お昼はおにぎりだけっすか?」
直人「いや、サンドイッチも買ってあるよ」
後輩「おにぎりとサンドイッチって、炭水化物オンリーじゃないっすか」
直人「いいんだよ。どっちも食いたかったんだから」
フラッシュバックの音。
直人「お前、カップ麺におにぎりって、栄養偏り過ぎだろ」
後輩「いいんすよ。これが俺の鉄板なんすから。美味いっすよ、カップ麺におにぎり」
直人「うっ……。確かに……。いいなぁ」
後輩「……嫌味っすか? 先輩は彼女さんの手作り弁当なんっすよね?」
直人「ああ。けど、見てくれ」
後輩「……野菜ばっかりの、色鮮やかな弁当っすね」
直人「……そうなんだよ。まるで精進料理だ。……肉食いてぇ。もっと炭水化物を頬張りたい……」
後輩「確かに、物足りなさそうっすよね」
直人「けど、まあ、美味いんだけどな」
後輩「結局、ノロケっすか!」
フラッシュバックの音。
直人が立ち上がる。
後輩「ど、どうしたんすか? 急に?」
直人「……売店にサラダって売ってたよな?」
後輩「ええ、まあ……」
直人「……買ってくるか」
直人が歩き出す。
場面転換。
お風呂に入っている直人。
ザバッと湯船から出て、浴室のドアを開ける。
直人「えっと、バスタオルは……と」
戸棚を開ける直人。
直人「あれ? ない……」
フラッシュバックの音。
遥香「上の棚の予備のバスタオル使って」
直人「上? ああ、こっちか」
棚を開ける直人。
直人「あったあった」
遥香「うーん。そろそろ晴れてくれないと洗濯できないんだよね……」
直人「部屋干しすりゃいいじゃん」
遥香「やだ! 直人にはちゃんと太陽に当てたフワッとしたもの使ってもらいたいから」
直人「そこまでこだわらなくてもいいのに」
遥香「いいの! 私がしたいんだから」
直人「はいはい……」
フラッシュバックの音。
直人「……上の棚か」
直人が棚を開ける。
直人「まあ、あるわけないよな。入れた記憶がないし。……買ってきたやつ使うか。にしても、そろそろ選択しないと、ドンドン下着とタオルが増えていくな……」
場面転換。
プシュッとビールの缶を開け、グビグビと飲む直人。
直人「……」
フラッシュバックの音。
遥香「うわー。よく、そんな苦いもの、飲めるね」
直人「遥香は子供だな。ビールは大人の味だぞ」
遥香「いいもん、別に子供でも。苦いのより甘い方が好きだもんねー」
直人「カクテルか……。甘すぎないか?」
遥香「それがいい……ごほっ」
直人「遥香?」
遥香「ごほっ! ごほっ!」
直人「遥香! 大丈夫か!?」
遥香「う、うん……大丈夫。でも、今日はもう休むね。ごめん。せっかくのお酒なのに」
直人「いいよ。明日、一緒に飲もう」
遥香「うん……」
フラッシュバックの音。
直人「……」
グビグビとビールを飲む直人。
直人「はあ……。苦いな……」
場面転換。
歯を磨いている直人。
遠くから、救急車のサイレンが聞こえてくる。
直人「……救急車か」
段々とサイレンの音が大きくなる。
フラッシュバックの音。
救急車の中。
直人「遥香! 遥香、しっかりしろ!」
遥香「ごめんね……直人」
直人「嫌だ! 遥香……。頼む……」
遥香「直人……。私のこと……忘れていいからね……」
直人「何言ってるんだ!」
遥香「……私のこと……忘れて……幸せに……なって……ね……」
直人「遥香! 遥香―――!」
フラッシュバックの音。
直人「……」
コップに水を注ぎ、口をゆすぐ直人。
場面転換。
ベッドの上に寝転がる直人。
直人(N)「俺は遥香と一緒にいるときが幸せだった。だから、最後の遥香の頼みである幸せになって、という願いを叶えるために俺は遥香を絶対に忘れない。遥香と一緒に過ごしたこの家で、君の思い出と一緒に生きていく。それが俺の幸せなんだ。だから、遥香。君のことは絶対に忘れない」
布団をかぶる直人。
直人「おやすみ、遥香……」
終わり。