■概要
人数:5人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、ファンタジー、シリアス
■キャスト
ギルバート
おばあさん
その他
■台本
ギルバート(N)「世界を相手に商売をする。それが親父の口癖だった。町の商人だった親父は俺が16になったときに旅立った。商人の花形と言われている行商人になった親父は満足だっただろう。……例え、道半ばで行き倒れたとしても」
バンと勢いよくドアが開く。
子供「ギルバート兄ちゃん。お客さんを連れて来たよ」
ギルバート「案内ご苦労様。ありがとうね」
商人1「なんだよ。町一番の商人って聞いてきたのに、こんな若造かよ」
ギルバート「不安なのはわかります。ですが、商人は商売が生業です。売買で話をしましょう」
商人1「ふん。まあ、いいさ。早速だがまずは荷を買い取ってもらいたい」
ドンとテーブルの上に大きな袋を置く商人。
ギルバート「わかりました。では、言い値を聞きましょう」
商人1「まずは、あんたが鑑定してくれ」
ギルバート「わかりました」
ギルバートが袋の中を漁って取り出す。
ギルバート「グリーンドラゴンの牙、15ミル。幻想石(げんそうせき)は……この大きさだと20ミルですかね」
商人1「くっ……」
ギルバート「ん? これは珍しい。月見狼(つきみおおかみ)の毛皮……。いや、灰狼(はいろう)の毛皮ですね。42ミルです」
商人1「ちょ、ちょっと待ってくれ! それは月見狼の毛皮だ! 100は出してもらわないと話にならない」
ギルバート「んー。そうですか。では、当店では買い取れません」
商人1「じゃ、じゃあいい。他の店で売る」
ギルバート「ここ以外じゃ売れないと思いますよ。というより商売自体が成立できないですね」
商人1「な、なんでだよ?」
ギルバート「以前、行商人がぼったくりをやりましてね。それ以来、行商人からはうちが買い取って、その品を町の人が買うという形になってるんです」
商人1「くっ……」
ギルバート「それで、どうします? 灰狼の毛皮」
商人1「……42でいい」
ギルバート「ありがとうございます」
商人1「にしても、若いのに凄い鑑定眼だな。行商人でもやっていけると思うぞ」
ギルバート「あいにく、興味がありません」
商人1「変わってるな。商人なのに行商人に興味がないなんて。旅はいいぞ。旅は」
ギルバート「へー。旅で一番思い出に残ってるのは、どんなことですか?」
商人1「そりゃ、グリーンドラゴンに遭遇したときだな。あいつらときたら……」
場面転換。
おばあさん「ごほっ! ごほっ!」
ギルバート「おばあちゃん、大丈夫? 薬持ってくるね」
おばあさん「いや、いいんだ。どうせ、もう長くはないからね」
ギルバート「そんな寂しいこと、言わないでよ」
おばあさん「ギルバート。本当は行商人になりたいんだろ? 私のことは気にしないで、行ってきていいんだよ」
ギルバート「ううん。本当に行商人には興味がないんだよ」
場面転換。
ドアが開き、青年が入ってくる。
青年「あの……。ここで色々と買い取ってくれると聞いたんですけど」
ギルバート「はい。何でも買い取りますよ」
青年「……この中で、何か高価なもの、とかありますかね」
カバンから色々な物を取り出してはテーブルの上に置いていく青年。
ギルバート「残念ですが、全部合わせても5ミルというところですね」
青年「そ、そうですか……。まいったな。この町で補給もしようと思ってたのに、宿代くらいか……」
ギルバート「……ん? あ、あの、そのノートなんですけど」
青年「え? ああ、これですか?」
スケッチブックをペラペラとめくる音。
青年「これはその……趣味で描いてる絵画なんです。旅をしてるのも、色々な風景を描くためなんですよ」
ギルバート「その絵を売ってもらうことはできませんか?」
青年「ええ? これを? 趣味で描いているものだから、値段が付くものじゃないですよ」
ギルバート「一枚、50ミルでどうですか?」
青年「ご、50! そ、そんな! 高すぎですよ!」
ギルバート「そうですか? では、おまけに旅での思い出を聞かせてくれませんか?」
青年「え、ええ。いいですけど……」
ギルバート「この湖、凄く綺麗ですね」
青年「ああ、そこは魔晄湖(まこうこ)といって、夜に輝く珍しい湖で……」
場面転換。
商人2「気に入った! あんたの鑑定眼も凄いが、なにより肝が据わっている! 旅に必要な知識も問題ない! どうだ? 行商人をやってみないか?」
ギルバート「嬉しいお誘いですが……」
商人2「なぜだ? 旅に必要な資金は私が出すし、この店だって、私の使用人が受け継ぐ。こんな好条件は、もう二度とないぞ」
ギルバート「申し訳ありません」
商人2「ううー。なぜだ? 行商人だぞ? 商人なら誰しもが夢を見るはずだ!」
ギルバート「……」
商人2「うむむ。私は諦めんぞ! また来る!」
商人2が店を出ていく。
場面転換。
おばあさん「ギルバート。聞いたよ。行商人に誘われたんだってね」
ギルバート「あはは。噂は回るのが早いな」
おばあさん「お願いだよ。私のことはいいんだ。行商人になっておくれ」
ギルバート「おばあちゃん。違うんだ。俺はもう、旅に出ているんだ」
おばあさん「……どういうことだい?」
ギルバート「俺はね、今まで万の人と出会ってるし、千の冒険譚を知ってる。百の風景もすぐに見ることができるんだよ。普通に旅をするよりも多くの経験が俺の中にあるんだ」
おばあさん「……」
ギルバート「この町で旅人と商売をする。それが俺にとっての旅なんだ」
おばあさん「ふふ。随分と変わった考え方をするもんだねえ」
ギルバート「そ、そうかな? 命の危険もない、安全な旅をできるこの町とこの店は俺にとって最高の宝物なんだよ」
おばあさん「……後悔はないんだね? 無理してないんだね?」
ギルバート「これっぽっちも」
おばあさん「ふふふ。そうかい。……よかったよ。あんたが幸せなら、それでいいんだ」
ギルバート「うん、すっごく充実した毎日だよ」
場面転換。
勢いよくドアが開く。
子供「ギルバート兄ちゃん。お客さん、連れて来たよ」
ギルバート「いらっしゃいませ。どんなものでも買い取りますよ」
ギルバート(N)「俺はこの先もずっと旅を続けていく。この大好きな店の中で」
終わり。