【声劇台本】不思議な館の亜梨珠 ある一族のルール

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■概要
人数:1人
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代ファンタジー、シリアス

■キャスト
亜梨珠(ありす)

■台本

亜梨珠「亜梨珠の不思議な館へようこそ。今日はどんな……って、ああ、また、あなたなの? もしかして、今日も話を聞きにきたのかしら?」

亜梨珠「あなたも変わった人ね。でもまあ、依頼人の要望に応えるのが私の仕事だし。いいわ。お話してあげる。た、だ、し、満足できるかどうかは保証しないわよ」

亜梨珠「今日は、お客さんから聞いた、ある一族……というより、ある家系のお話よ」

亜梨珠「その家ではね、あるルールが存在したの。それは、代表の人が毎日欠かさず手紙を書くってルール。毎日、365日、休むことなく手紙を書くの」

亜梨珠「あら、なんかよくわからないって顔してるわね。大丈夫、ちゃんと説明するから」

亜梨珠「えっとね、千年前に、あるブームが起こったの。それは、まだ見ぬ宇宙の果てにいる人類とコンタクトを取ろうっていうものなの。だから、ここでいう手紙、というのは今でいうメールって言う方が近いかもね」

亜梨珠「ん? 千年前にメールなんて技術は存在しなかったって? ふふふふ。私、この星での話なんて、一度も言ってないわよ?」

亜梨珠「あはははは。一気に、胡散臭いって顔になったわね。だから言ったでしょ。満足するかどうかは保証しないって」

亜梨珠「どうする? 続き、聞く?」

亜梨珠「……そう。じゃあ、続きを話すわね」

亜梨珠「千年前、他の星にコンタクトを取るために、宇宙に向かってメールを飛ばしまくったの。イメージ的にはメッセージボトルに似てるかしら。誰かが拾ってくれることを期待して、海にメッセージを入れたボトルを流すのと同じね」

亜梨珠「だから、色々な方向に向かってメッセージを流し続けたの。宇宙は海よりも広く深いからね。本当に大勢の人がブームに乗ってメッセージを飛ばしまくったのよ。もちろん、そのときは返事が来ることはなかったみたいね。時々、返事が来たって騒ぐ人がいたみたいだけど、全部、嘘だってバレたみたいよ」

亜梨珠「結局、本当に返事が来るっていうことはなかった。そうなったら、ブームなんて一気に冷めて、大衆の興味は他のものへ移っていく。まあ、流行なんてそんなもんよね」

亜梨珠「でもね、ある人……っていうか、ある家系の人はずーっとメッセージを送り続けたの。ほら、いるじゃない。昔のブームをずっと続けてる人。例えば、切手収集とかコイン収集とか。どこにだっているのよね、そういう人って」

亜梨珠「でね、その趣味をずっと子供たちが受け継いでいったみたい。……趣味っていうより習慣になっちゃったんだと思う。ずっと続けてると、やらない方がなんか気持ち悪いっていうの、あるでしょ?」

亜梨珠「最初のブームから200年が経った頃、突然、返事が届いたの」

亜梨珠「もちろん、嘘じゃなかったわ。本当に他の星からの送信だったの。でもね、その家の人たちはそのことを世間には公開しなかったわ。嘘だって言われるのが嫌だったし、大事にはしたくなかったの。……いえ、違うわね。取られるのが嫌だったのよ」

亜梨珠「つまり、他の星からのメッセージだってわかったら、政府とかが放っておかないでしょ? そしたら、メッセージを送る行為自体を取られるんじゃないかって考えたの。だから、ずっとひっそりとメッセージのやり取りをしていこうって決めたみたい」

亜梨珠「え? 内容? そうね。他愛のないことだったみたいよ。でも、返事がきたことには変わりないからね。その人たちは喜んだわ。そして、その日から遥か遠くの星に住む人とのやり取りが始まったの。やり取りをするうちに、あっちの星の文化はやや遅れているけど、環境なんかは同じくらいだってわかったわ」

亜梨珠「でもね、一つだけおかしな点があったの。それはこっちの質問にはまったく答えてくれないことよ。どんな質問をしてもスルーされちゃうの」

亜梨珠「どういうことだろうって考えた結果、きっと、いくら離れた星だったとしても情報を流すのが怖いのではないかって推測したのよ。確かに、こっちだってこっちの情報を送るのは気が引けたからね。ほら、政府に黙ってやり取りしてるっていうのもあるでしょ? その罪悪感もあって、お互い詮索は止めようってことになったの」

亜梨珠「だからね、お互い、本当に他愛のないメッセージを送ったのよ。どちらかというとメッセージよりは日記に近かったんだと思う。それでもね、やり取りは楽しかったらしいわ。遥か遠くの星の人とやり取りするのよ。ロマンがあるじゃない」

亜梨珠「……なによ、そのつまらなさそうな顔は? もちろん、この話には続きがあるわ」

亜梨珠「メッセージの交換を、代々受け継いでいって、延々と、淡々とメッセージを送り続けていったある日。突然、あっちから、ありがとうってお礼のメッセージが届いたの」

亜梨珠「受け取ったときは、それはビックリしたみたい。そりゃそうよね。あなただって、今まで普通にメールのやり取りをしていた相手から、お礼を言われたら驚くでしょ? そして、それは嬉しいというよりは、逆に不安になるわ。一体、なんに対してのお礼なんだろうって」

亜梨珠「知ってる? マフィアは狙った相手の娘が小学生に上がるときにランドセルを送るって言うわ。突然、贈り物なんてされたら嬉しさよりも、不気味さがあるでしょ?」

亜梨珠「って、話が逸れたわね。それで、そのメッセージを受け取った、その人はどういうつもりだってメッセージを送ったの。ずっとタブーとされてた、相手への質問をしたの」

亜梨珠「でも、その質問に対する返答はなかった。逆にこっちの星のことを質問してきたのよ」

亜梨珠「そのメッセージを見たときは、震えたらしいわ。もしかしたらこの星を侵略しに来るんじゃないかって。秘密で他の星の人とやり取りをしていたのがいけなかったんだって、後悔したらしいわね」

亜梨珠「でもその心配をよそに、質問は数日でピタリと止んだの。そして、いつも通りの他愛のない内容に戻ったわ」

亜梨珠「そのメッセージを読んだときは本当に安堵したみたい。きっと単なる気まぐれだったんじゃないかって」

亜梨珠「え? 全然、話が見えないって? もう、せっかちね。これから話の核に入るんだから、もう少し聞いてちょうだい」

亜梨珠「その人はね、例え、質問は気まぐれだったとしても、その前のお礼のメッセージがどうしても気になったみたいなの。メッセージの内容も、『初めてやりとりをした』ようなものだったから」

亜梨珠「そこで、色々と調べたらしいわ。それでね、あることがわかったの。それは、やり取りを始めてから200年が経ってるってこと」

亜梨珠「あははは。きょとんとした顔してるわね。よくわからない? じゃあ、続きを話すわね」

亜梨珠「その人はある仮説を立てた。そして、それを証明するために宇宙へと旅立った。その旅は長い年月がかかったわ。本人はコールドスリープで眠りについていたみたいだけど、『そこ』に着くまでに600年かかったの。……凄い執念よね。自分の仮説を確かめるために、ある意味、自分の人生を捧げたんだもの」

亜梨珠「でね、結論を言うとその仮説は当たってたの。その人は、仮説は外れていてほしいって願っていたんだけど、現実は残酷ってわけね」

亜梨珠「で、その仮説というのは……果たして自分たちは『他の星の人』とやり取りをしてたわけじゃないんじゃないかってこと」

亜梨珠「その人が600年かけて旅をしてきて、目の当たりにしたのは巨大な反射板だったの。電波をそのまま反射させるものよ。なんでそんなものがこんなところにあるのか、という疑問よりも絶望の方が大きかったみたいね」

亜梨珠「それはそうよ。今まで別の星の人たちとやり取りをしてたと思っていたのが、単に、自分たちの祖先とやり取りしてただけなんだもの」

亜梨珠「あれ? よくわからない?」

亜梨珠「つまり、最初にメッセージを送ってから200年かけて、その反射板に到着して、跳ね返ってメッセージが戻ってきただけだったのよ。もちろん、200年も経ってるから、最初に送ったメッセージと最初に届いたメッセージの内容が同じって気づくことは出来なかったわ。そして、突然届いたお礼のメッセージは、最初に戻ってきたメッセージに対しての、返事をくれたお礼のメッセージだったってわけ」

亜梨珠「そのときの絶望感は今でもはっきりと思い出せるみたい。そりゃそうよね。一族はずっと自分たちだけでメッセージをやり取りしてただけなんだもの」

亜梨珠「その人は旅に出て来たけど、メッセージを送ることは自分の子供に引き継いできてる。今でもずっと、一族は不毛なメッセージを送り続けているんだと思う」

亜梨珠「その人はせめて、これから届くメッセージは自分が返信しようと決めたみたい。まあ、そのメッセージが届くのは200年後になるんだけどね」

亜梨珠「はい。これでお話は終わり」

亜梨珠「え? 後味が悪いって? 知らないわよ、そんなの。……でも、まあ、一つだけ救いはあるわ。確かに今まではメッセージのやり取りは他の星の人とじゃなかったけど、これからは違うんだもの」

亜梨珠「……どういうことかって? それは自分で考えてよ」

亜梨珠「んー、じゃあ、ヒント。この話は誰から聞いたでしょう?」

亜梨珠「はい、それじゃ、これで本当に終わりよ。また来てね。さよなら」

終わり。

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