■概要
人数:5人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス
■キャスト
京介(きょうすけ)
春人(はると)
正樹(まさき)
柊(しゅう)
母親
■台本
車の中。
ラジオのアナウンサー「今日は3月3日。お雛様です。リスナーの皆さんはお雛様……」
ピッとラジオを消す、京介。
京介「あれからもう、5年か。早いよな」
春人「慣れるもんだよな。今じゃすっかりこのメンバーで旅行するのもあんまり違和感しないもん」
正樹「そうか? 俺は寂しいけどな」
柊「腹減った。なあ、京介。このサンドウィッチ食っていい?」
正樹「柊、お前、さっき食ったばっかだろ」
京介「しゃーねなー。いいよ。その代わりジュース取って」
柊「おう。コーヒーだよな?」
京介「無糖の方な」
春人「俺、微糖の方」
柊「はいはい。そらよ」
春人「サンキュー」
プシュッと缶を開けて飲む春人。
京介「春人、すまん。開けて」
春人「はいはい。ほら、ここに置いておくぞ」
京介「ありがとう」
グビグビと飲む。
柊「全く、お前らよくそんな苦いもん飲めるな」
春人「俺からしたら、お前の方がよく、そんな甘いもん飲めるよな、って思うぞ」
正樹「そんなんじゃ糖尿になるぞ」
柊「甘いのは最高だよ。甘さは正義だな」
正樹「そりゃ、ドンドン太るわけだ」
春人「おい、京介、そこ右だぞ」
京介「え? あ、やべっ!」
急ブレーキをかけて、ぎゅんと曲がる。
正樹「おわっ!」
柊「うわああ! おい、京介、乱暴な運転するなよ。ジュースこぼしちゃったじゃん」
正樹「思い切りかかったんだけど……」
京介「すまんすまん。後ろにティッシュあるから使って」
正樹「ったく……」
春人「ホント、京介はいつまでたっても運転が下手だな」
京介「うるさいな。今のはしょうがねーだろ。急だったんだから」
春人「事故るのも時間の問題だな」
京介「止めてくれよ、まだ買ってから半年しかたってないんだから」
柊「誕生日のプレゼントだっけ?」
京介「ああ。親父が就職祝いも兼ねて買ってくれたんだよ」
正樹「いいなー。誕生日に車かー」
柊「俺も免許取ろうかな」
春人「止めとけって。車なんて金かかるだけだぞ。なんかあったら京介に送ってもらえばいいんだから、持つことないって」
京介「俺はお前らの運転手じゃねえ!」
柊「けどさ、やっぱ、あいつとも旅行したかったな」
京介「……」
正樹「そんなこと言っても、しゃーねーだろ」
春人「……あいつ、旅行好きだったもんな」
京介「あいつのおかげで俺たちもすっかり旅行好きになったもんな」
柊「楽しかったよな。旅行するために、みんなでバイトしたりしてさ」
春人「あった、あった。夏休みにバイトしてて、柊が転んで骨折ったんだよな」
正樹「しかも、お前の誕生日だったんだよな」
柊「トラウマを思い出させるなよ……」
京介「学生だったから仕方ないけど、近場しか行けなかったもんな」
正樹「せいぜい、一泊くらいしかできなかったからな。それに、学生だけで泊まれるところも少なかったし」
春人「あいつが生きてたら、世界一周したとか言い出しそうだよな」
正樹「ははは。さすがに世界一周はヤバいだろ。面白そうだけどさ」
京介「……あのさ。今は無理だけど、俺たちが60歳とかになって、そこそこ金持ってて、休みが取れるようになったら、行かね?」
春人「世界一周?」
京介「ああ」
正樹「賛成」
柊「いいね、いいね」
京介「だからさ、それまで……お前らは死ぬなよ」
春人「ははは。お前が一番死にそうだよ」
柊「事故ってね」
京介「止めて、ホントに。フラグ立てんの」
春人「……40年後か。どうなってるんだろうな、俺たち」
正樹「……想像、できないよな」
柊「俺、結婚できてるかな?」
京介「無理じゃね?」
柊「おまっ! 言ったな! 絶対、美人の嫁さん貰ってやるからな!」
京介「結婚って言えば、春人はどうするんだ? いつくらいにすんの?」
春人「んー。11月くらいからな」
正樹「11月って……お前の誕生日くらいか?」
春人「誕生日の月ならさ、忘れないだろ。結婚記念日」
京介「そんな理由かよ!」
柊「ひっでえな!」
春人「うるさいな。兄貴が結婚記念日忘れてて、離婚騒ぎになったのを見てると、覚えやすい方がいいんだよ!」
正樹「そんなもんかねぇ……」
柊「ふん。リア充め。お前にはもう二度と誕生日プレゼントはやらんからな」
春人「いつも貰ってねーだろ」
京介「あー、そういえば誕生日プレゼントって言えばさ、正樹にみんなで金出しあってプレゼント買ったこと覚えてる?」
正樹「うっ!」
柊「覚えてる! 覚えてる!」
春人「ひな人形買ってやったんだよな」
京介「物凄く激怒してたし」
正樹「当たり前だろ! 男なのにひな人形貰って、誰が喜ぶんだよ!」
柊「けど、毎年飾ってたよな」
正樹「まあ……せっかくもらったもんだしさ」
春人「あれは盛大な嫌がらせだったよな」
京介「バレないようにこっそりバイトしてな」
正樹「おかしいと思ったんだよ。急に付き合いが悪くなって。一瞬、ハブられてるのかと思ったくらいだ」
春人「バイトって言えば……柊、お前、仕事決まったのか?」
柊「ん? あ、ああ。まあ……」
京介「なんの仕事?」
柊「け、警備の仕事」
春人「へー、どこの? 会社の、とか?」
柊「……じ、自宅」
正樹「お前、それ……ただのニートじゃねーか」
柊「引くのやめろよ! いいんだよ、俺はこれから本気出すんだから!」
春人「そう言ってるけど、お前が本気出してるのみたことねーけどな」
京介「死ぬまで出さない気なんじゃないのか?」
柊「うるさいな! 今は充電期間なんだよ、充電期間!」
春人「充電しながら漏電してるんじゃないのか?」
正樹「あははは。春人、上手いな」
京介「けど、柊。後悔するようなことはするなよ。……人はいつ死ぬかわからないんだからさ」
春人「……」
柊「……」
正樹「京介。……ほら、あんまり暗くなるようなこと、言うなよ」
京介「ごめん。ちょっと空気読めてなかったな」
柊「俺さ、帰ったら頑張るよ」
春人「そういうのは死亡フラグって言うんだぞ」
柊「茶化すなよ……」
京介「おっと、ついたぞ」
みんなが車から降りる。
母親「いらっしゃい」
京介「おばさん、お久しぶりです。また、線香あげさせてもらっていいですか?」
母親「もちろんよ。きっと、あの子も喜んでるわ。……毎年、あの子の誕生日に来てくれて、ありがとうね」
京介「本当は命日がいいんでしょうけど……あいつの誕生日、覚えやすいから」
母親「いいんだよ。来てくれるだけで、本当に嬉しいよ。って、外で長話してごめんなさいね。さ、『三人』とも、中に入って。きっとあの子も待ってるわ」
終わり。