■概要
人数:4人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代ファンタジー、シリアス
■キャスト
亜梨珠(ありす)
■台本
亜梨珠「いらっしゃいませ。亜梨珠の不思議な館にようこそ。あなたもすっかり、常連さんになったわね」
亜梨珠「私も、今度、いつあなたが来るか、楽しみになってきてるのよ」
亜梨珠「あははは。残念。そういう意味じゃないわ。お客さんから良い話を聞けたら、これをあなたに話そうって思ってるのよ。普段はお話を聞く方がメインだから、話す方って新鮮なのよね」
亜梨珠「さてと、前置きはこのくらいでいいかしらね。今日も、話を聞きに来たってことでいいのよね?」
亜梨珠「……おっけー。それじゃ、最近聞いた話をするわね」
亜梨珠「あなたは不老不死に興味あるかしら?」
亜梨珠「ふふふ。急に言われてもわかんないって? まあ、そうよね。不老不死なんて壮大過ぎてイメージがしづらいのは当たり前だわ」
亜梨珠「だけど、人間にとって不老不死は永遠の夢なのよ。様々な権力者が私財を投げ売ってでも不老不死を目指すなんて人が後を絶たないわ」
亜梨珠「私からしたら、永遠なんて、時間を持て余しちゃって暇で仕方ないのにって、思うけどね」
亜梨珠「お察しの通り、今回は不老不死にまつわるお話よ」
亜梨珠「昔々、あるところにね、一人の男が住んでたの」
亜梨珠「え? なんか、昔話みたいって? 昔話なんだから、仕方ないじゃない。話の腰を折らないでくれるかしら」
亜梨珠「その男はね、生まれた時から体が弱くって、病気ばかりしていたみたいなの。周りからも長生きできないんじゃないかって心配されていたわ。……もちろん、本人も、自分は長く生きられないだろうって思っていたらしいの」
亜梨珠「だから、なるべく人と関わらないで生きていこうとしてたんだって。……え? なんでっかって?」
亜梨珠「関わった人が多いと、自分が死んでしまったとき、悲しむ人が多くなるでしょ? それは相手にとって失礼だって、変わった考えを持ってたらしいわ。自分が死んだ後の相手のことなんて、考えることないのにね」
亜梨珠「……でも、そんな彼にも運命的な出会いがあったの」
亜梨珠「ふふ。恋は止められるものじゃないからね。二人は出会って間もなく、結婚して子供に恵まれたらしいわ」
亜梨珠「彼にとって、幸せの絶頂ってわけね」
亜梨珠「彼は家族をとても大切だと思っていたし、その幸せを失いたくないって思うことはごく自然なことだわ」
亜梨珠「そして彼は、もし、自分が死んだ後に残された家族のことを心配するようになっていったの」
亜梨珠「体が弱かった彼は、いっそう健康に気を付けるようになったわ」
亜梨珠「少しでも体にいいと聞けば、食べてみたし、健康をなによりも優先した生活を送っていたみたい」
亜梨珠「そのおかげもあってか、孫の顔も見ることができたわ」
亜梨珠「でもね、彼にとっては、大切な人が増えていくってことなの」
亜梨珠「え? いいことじゃないかって? そうね。普通だったらそう思うんじゃないかしら。でも、彼にとっては大切な人が増えれば増えるほど、死が怖くなっていったの」
亜梨珠「この幸せを失いたくない。ずっとこの幸せなまま生きていきたいって」
亜梨珠「そんな思いが強くなっていく中、ついに彼は病気にかかってしまったの」
亜梨珠「どんなに気を付けていても、仕方ないことってあるわ」
亜梨珠「死を間近に感じた彼は、ある決意をするの。……それは伝説の霊薬を見つけ出すこと」
亜梨珠「その霊薬を飲めば、病気が治ることはもちろん、老いることもなくなるらしいの」
亜梨珠「つまり、不老不死になれるってわけね」
亜梨珠「彼は病気を治すために、家族の元を離れ、山奥へと向かったわ」
亜梨珠「何年も何年も、山の中を駆けずり回り、霊薬を探し求めた……」
亜梨珠「そして、10年が過ぎた頃、ようやく彼は霊薬を見つけることができたわ」
亜梨珠「さっそく、霊薬を飲んだ彼は体が癒されていく感覚を得たそうなの」
亜梨珠「彼は歓喜したわ。これで永遠に生きることができるって」
亜梨珠「でもね、ものごとはそんなに都合のいいことばかりではないわ。その霊薬の効果は短かったの。常に飲んでいないと、効果が切れてしまうってわけ」
亜梨珠「しかも、その霊薬は山の中でしか作れなかった。山から持ち出すと、蒸発するように消えちゃうんだって」
亜梨珠「だから、彼は山から出ることができなかった。山にこもって、ずっと霊薬を飲み続けたわ」
亜梨珠「彼にとって、慣れ親しんだ山の中は居心地が良かったみたい。まあ、10年も住んでいれば、愛着も沸くかもね。住めば都って言葉もあるくらいだし」
亜梨珠「そして、自分の命を伸ばしてくれる霊薬もある。彼にとって山から下りる理由はないと言ってもいいくらいになってたわ」
亜梨珠「彼は100年、200年と生き続けているわ。霊薬を飲み続けてね」
亜梨珠「彼は今、とても幸せらしいわ。まさに幸せの絶頂ってわけ。しかもそれが永遠に続く。彼にとってこれ以上の幸せはないってわけね」
亜梨珠「はい。これでこの話はおしまい。めでたしめでたし!」
亜梨珠「え? オチがないって? んー。人生なんてオチなんかない方が多いのよ。全てが意味のある人生ってわけじゃないわ」
亜梨珠「……はあ、仕方ないわね。まあ、強引にこの話にオチをつけるとしたら……」
亜梨珠「この男の幸せって、結局なんだろうって話になるかしら」
亜梨珠「最初、彼は家族を失いたくない、自分が死んだら残された家族が悲しむということが嫌だから霊薬を求めて山に入ったのよ」
亜梨珠「そして、彼は無事に霊薬を手に入れて、死なない体を手に入れたわ」
亜梨珠「でもね、もう彼は大切な家族は失っているのよ。彼の家族はもちろん、彼を知っている人すらいない状態……」
亜梨珠「大切な人を失わない為に、大切な人を失ってしまったってわけ」
亜梨珠「それでも彼は今でも幸せそうにしているわ。それが唯一の救いね」
亜梨珠「ねえ、あなたは不老不死になる霊薬、飲んでみたいと思う?」
亜梨珠「この話を聞くと、色々考えちゃうわよね」
亜梨珠「さてと、これで私の話は終わりよ。……よかったら、また来てね。さよなら」
終わり。