■概要
人数:2人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、ラブストーリー
■キャスト
蒼空(そら)
美嘉(みか)
■台本
蒼空(N)「世界は理不尽に溢(あふ)れている。かの有名な福沢諭吉先生が人の上に人を作らず、人の下に人は作らないと言っていたけど、そんなことはないというのは、中学になる頃には気づいていた。……まあ、福沢諭吉先生は理不尽なことを避けるために勉強しろって話なんだけど……。ただ、勉強で何とかなることもあれば、ならないこともある。……俺は今、何とかならないことで悩んでいる。そして、俺はこんな理不尽を許している世界が大嫌いだ」
美嘉「私ね、結婚するなら、私より背の高い人がいいな」
蒼空(N)「小学3年生のとき、幼馴染で、ずっと好きだった美嘉に言われた言葉だ。……あ、いや、だったじゃなくて、現在進行形なのだけど。とにかく、俺は美嘉の、この言葉を叶えるために日々、努力してきた。……そして、高校生になった現在。俺の身長は166センチ。美嘉の身長は……177センチ。その差は11センチだ」
場面転換。
体育館。
バスケットボールをドリブルする蒼空。
次々と相手を抜き去り、シュートする。
パスっとボールがリングに吸い込まれる。
おお、と歓声が上がる。
蒼空「ふう……」
場面転換。
水飲み場。
頭に水をかけている蒼空。
蒼空「あー、気持ちいい……。って、あ、タオル忘れた」
美嘉「もう、何やってるのよ。はい、タオル。使っていいわよ」
パサッとタオルがかぶせられる。
蒼空「さんきゅー」
美嘉「調子いいみたいね」
蒼空「ん? あー、まあ大会近いからな」
美嘉「チームで一番小さいのに、エースなんて、蒼空は凄いね」
蒼空「小さい言うな」
美嘉「あはは。ごめんごめん。で? 今年は行けそうなの? インターハイ」
蒼空「まあな」
美嘉「おお、さすが」
蒼空「美嘉だって、大学からスカウト来てるって話だろ」
美嘉「まーね」
蒼空「なら、お前だってすげーだろ」
美嘉「でも、やっぱり、もう少し身長欲しいかな。私もバレー部じゃ小さい方だし」
蒼空「……これ以上はデカくなるなよ」
美嘉「え? なに?」
蒼空「いや、なんでもない。それより、もう練習終わりなんだろ? 一緒に帰らねえ?」
美嘉「うん、いいよ」
場面転換。
街中。
蒼空と美嘉が並んで歩く。
美嘉「なんか、久しぶりだよね。こうやって二人で一緒に帰るなんて」
蒼空「そうだな。まあ、お互い、部活で忙しいんだから、しゃーないだろ」
美嘉「不思議だよね。昔は一緒にいるのが当たり前だったのにさ」
蒼空「……」
美嘉「そういえばさ、蒼空って、この前のテストの結果良かったんでしょ? 部活も勉強も両立してて凄いって、先生褒めてたよ」
蒼空「まあ、バスケだけって言われるの、ムカつくからさ」
美嘉「帰ってから勉強してるってことでしょ? 私は無理だなー。疲れて寝ちゃうもん」
蒼空「……なあ、美嘉」
美嘉「ん?」
蒼空「お前さ……。その、彼氏とか……作らないのか?」
美嘉「んー。今は部活一筋かな。興味がないわけじゃないけど、相手がいないからさ」
蒼空「そ、そっか……」
美嘉「私より背が高いってなると、なかなか、ね」
蒼空「……」
男性「すみません! アンケートお願いできませんか?」
蒼空と美嘉が足を止める。
男性「姉弟(きょうだい)に関してのアンケートなんですけど、弟さんに……」
蒼空「友達です!」
男性「え? あ、そうなの?」
美嘉「蒼空、行こ!」
蒼空「ああ……」
速足で歩く二人。
美嘉「……ごめんね」
蒼空「ん? 何がだ?」
美嘉「私なんかと一緒にいたから、さ」
蒼空「……別に気にしてない」
美嘉「あ、私、こっちだから。それじゃ、ね」
美嘉が走っていく。
蒼空「……はあ」
場面転換。
蒼空の部屋。
勉強をしている。
ノートに書く手を止める。
蒼空「はあ……」
蒼空(N)「バスケ部に入ったのは、少しでも身長を伸ばせればと思ってだ。背を伸ばすために、色々なことを試した。カルシュウムを取ったり、睡眠もたっぷりととってきた。……でも、思ったよりも身長は伸びない。……勉強を頑張っているのは、少しでも自分の価値が上がれば、と思ってのことだ。例え、美嘉より小さくても、運動や勉強ができれば、釣り合うんじゃないかって。……けど、美嘉はやっぱり、自分より背の高い男が好きなんだ。こんなことしたって……無駄なこと、なんだよな……」
場面転換。
学校の廊下を歩く蒼空。
美嘉「ね、ねえ、蒼空。その、ちょっといいかな?」
蒼空が立ち止まる。
蒼空「ん? 別にいいけど、なんだ?」
美嘉「……あ、いや、やっぱりいいや」
蒼空「逆に気になるって。なんだよ?」
美嘉「……ちょっと来て」
蒼空「お、おい、引っ張るなって!」
場面転換。
屋上。
蒼空「で? 話ってなんだ?」
美嘉「私ね……その……告白された」
蒼空「……は?」
美嘉「だから、その、付き合ってくれないかって」
蒼空「だ、誰に?」
美嘉「高津先輩。……バレー部の」
蒼空「……どうするんだ?」
美嘉「……高津先輩、私よりも背が高いし、こんな私でもいいって言ってくれたし。だから、どうしようかなって……」
蒼空「そっか……」
蒼空(N)「全てが崩れていく感覚だった。美嘉だけをずっと見て、努力してきたことが全部無駄だったってことだ。……8年間やってきたことを否定された。そう思ったとき、俺の中で何かが弾けてしまった。いや、どうでもいいという、投げやりな気持ちになった。だから、せめて、今までの想いに区切りをつけたいと思ったのだ」
蒼空「俺さ、ずっと、お前のこと、好きだったんだ」
美嘉「え?」
蒼空「お前が好きだから、ずっと身長伸ばそうって頑張ったけど、ダメだったんだ」
美嘉「……蒼空?」
蒼空「あ、いや、ごめん。こんなこと急に言われても迷惑だよな。忘れてくれ」
走り出す蒼空。
蒼空(N)「くそ、なにやってんだ、俺は……。なんで、あいつが困るようなことを……。でも、これでよかったんだ。こんな気持ちのまま、あいつの友達でいられるわけがない。これで、吹っ切れる。……これで……よかったんだ」
場面転換。
蒼空の家。インターフォンが鳴る。
蒼空「……」
蒼空がドアを開ける。
美嘉「……そ、蒼空。今日、学校、休んだんだね」
蒼空「失恋で学校を休むなんて、ガキだって笑いに来たのか?」
美嘉「違うよ!」
蒼空「……帰ってくれ。今はお前の顔を見るのは辛いんだ」
美嘉「断ったんだ」
蒼空「……え?」
美嘉「私、高津先輩の告白、断ったんだ」
蒼空「……なんでだよ?」
美嘉「私ね……。ずっと好きな人がいたの」
蒼空「……」
美嘉「小さい頃からずっと一緒にいて、優しくて、格好良くて、凄くて……」
蒼空「……」
美嘉「でも、私なんかじゃ釣り合わないって。私なんかが隣にいたら、嫌だって思うだろうなって……」
蒼空「美嘉……」
美嘉「だから、吹っ切りたかったの。蒼空の口から高津先輩と付き合えって言ってもらえたら、諦められるって思ったの……」
蒼空「……」
美嘉「卑怯だよね、こんなことするなんて」
蒼空「いや、俺も同じことをしたからな」
美嘉「……ねえ、私、蒼空の隣にいていいの? こんな私でいいの?」
蒼空「お前がいい。……いや、美嘉じゃないと嫌だ」
美嘉「うう……。蒼空……」
蒼空「美嘉……」
二人が抱き合う。
蒼空(N)「世界は理不尽なことに溢(あふ)れている。どんなに努力しても、その理不尽なことを乗り越えられないこともある。……でも、俺は、そんな世界でも、少しだけ好きになれた」
終わり。