【声劇台本】sunny day umbrella

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■概要
人数:5人
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス

■キャスト
秋空(あきら)
美雪(みゆき)
母親
その他

■台本

秋空(N)「雪が降った。春というには少し暖かい日。季節外れであることを、全く気にすることなく、まるで幻のように降り注ぐ、柔らかく儚い雪の結晶。そんな夢のような日に、弟は……春人は死んだ。美雪さんをお願い、という言葉を残して……」

廊下を歩き、リビングのドアを開ける秋空。

秋空「……ただいま」

母親「……」

秋空「母さん?」

母親「え? あ、秋空。お帰りなさい」

秋空「……お昼、食べたの?」

母親「ああ……。そうね。そろそろ食べようかしら」

秋空「もう5時だよ」

母親「……ごめんなさい。私がこんなんだと、春人に怒られちゃうわね。いい加減に前向かないと……」

秋空「無理することないよ」

母親「……結局、あの子に何もしてあげられなかったわ」

秋空「そう思ってるのは、母さんだけじゃないよ」

母親「……最後くらいは家に連れてくればよかったわ」

秋空「ねえ、母さん。春人って、毎日1時間だけ病院を抜け出してたって知ってた?」

母親「そうなの? 初耳だわ」

秋空「母さんも知らなかったんだ。俺もさ、春人と同じ病室の人に聞くまで知らなかったんだよ。その人も、春人に口止めをお願いしてたみただし。……何してたんだろ?」

母親「息抜きじゃないかしら。ずっと病院暮らしだったんもの」

秋空「そっか……。そうだよね」

母親「そういえば秋空。傘、知らない?」

秋空「傘?」

母親「ほら、春人の誕生日に買った、大きな黒い傘。あの子、凄いお気に入りだったでしょ? 一緒に埋葬してあげたかったんだけど見当たらなくって……」

秋空「いや……知らない」

場面転換。

街中。人が行き交う音に混じり、セミの鳴き声が響く。

その中を歩いている秋空。

秋空(N)「考えてみれば、あんなに大切にしていた傘を、いつの間にか見なくなっていた。まるでお守りのように大事にしていた傘。失くしたとは思えない……。もしかして、外で失くして、それを探すために毎日病院を抜け出していたんだろか……?」

歩き続ける秋空。

秋空(N)「それに、美雪というのは誰なんだ? もしかして、その美雪という人に会うために病院を抜け出していたのか?」

男1「すげー美人だったな。声、かければよかった」

男2「いや、こんな晴れの日に、あんなデカい傘さしてピクリとも動かないんだぜ? ありゃ変人だって」

秋空が立ち止まる。

秋空(N)「何かが引っかかった。大きな傘なんて情報はほとんど役に立たないと言っていい。それでも、俺の中で何かが引っかかったのだ」

秋空が歩き出す。

場面転換。

秋空が立ち止まる。

秋空「……いた」

秋空(N)「街中にある小さな公園。そのベンチにポツンと女性が座っていた。春人が大切にしていた傘をさして」

秋人が歩き出し、ベンチのところへ行く。

秋人「……隣、いいかな?」

美雪「……」

秋人「失礼するね」

秋人が隣に座る。

美雪「……」

秋人「誰かと待ち合わせしてるの?」

美雪「……」

秋人「その傘……どうしたの?」

美雪「……」

秋空「春人って人、知ってる?」

美雪「……っ」

秋空(N)「初めて俺の言葉に反応した。無言のままだが、顔を俺の方へ向ける。……近くで見ると、彼女は透き通るような白い肌をしていて……そして、美しかった。もろく、儚い、触ったら溶けてしまいそうな弱弱しさを感じた」

美雪「……待ってた」

秋空「え?」

美雪「私は……ずっとここで、春人を待ってた」

秋空「……もしかして、君が美雪さん?」

美雪「……うん。そう」

秋空「やっぱり……」

秋空(N)「春人は毎日、病院を抜け出して、彼女に会っていたんだ……」

美雪「……春人は……どうして来なくなったの? 私のこと、嫌いになった?」

秋空(N)「無表情で、うつろな瞳。その表情からは感情が読み取れない」

秋空「春人は……死んだんだ」

美雪「……そう」

秋空「……春人とは、どういう関係だったの?」

美雪「……春人は命の恩人」

秋空「え?」

美雪「本当は、夏は外に出られない。雪女は冬が来るまでは屋根裏で、氷の結晶になって眠り続ける」

秋空「……」

美雪「でも、私は外に出てみたかった。夏の世界を知りたくなった。……だから、少しだけ、出てみた」

秋空「……それで?」

美雪「死にそうになった。強い日差しに、私は溶かされそうになった。……そのとき、傘を差し伸べてくれたのが、春人」

秋空「……」

美雪「春人は私に傘をくれた。これがあれば、私は夏の日でも、外に出れるからって」

秋空「そっか……」

美雪「それから春人と話すようになった。いや、話すというよりは春人だけがしゃべってた」

秋空「それじゃ、君は春人と話すために、ここに来てたの?」

美雪「……いや、そんなつもりはなかった。ここにいたら、春人が来て、勝手に隣に座って、勝手に話してただけ」

秋空「そうなんだ?」

美雪「ただ、毎日の繰り返しの中に、春人がいただけ……」

秋空「……」

美雪「……でも、そっか。春人は、もう来ないんだな」

秋空「……ああ」

美雪「……なんだろ? なんか、胸に穴が開いた感じがする」

秋空「春人の死を……悲しんでくれるの?」

美雪「そうか。これが……悲しいという感情か……」

立ち上がる美雪。

秋空「……どうしたの?」

美雪「行く」

秋空「これからどうするの?」

美雪「わからない。だけど、もうここには来ない。もう……春人は来ないのだから」

秋空(N)「彼女はそう言い残して、溶けるようにしていなくなってしまった。きっと彼女も、春人を失った心の穴を埋められずに過ごしていくんだろう。……俺のように」

場面転換。

街中を歩く秋空。

男1「あーあ。ダメだったか……」

男2「あそこまで無視するのも、凄いよな」

男1「美人なのになー。けど、なんで晴れの日に傘なんかさしてんだろ?」

秋空「え?」

立ち止まる秋空。そして、すぐに駆け出す。

場面転換。

立ち止まる秋空。

秋空「……いた」

秋空(N)「それはまるで一枚の美しい絵画のようだった。公園のベンチに座っている。大きな傘をさして……」

秋空「……隣、いいかな?」

美雪「……うん」

秋空「ねえ、春人はどんなことを話してたのか、教えてくれるかな?」

美雪「……わかった。でも、私からも条件がある」

秋空「条件?」

美雪「……私が知らない春人のこと、教えて」

秋空「うん。いいよ」

秋空(N)「心に大きな穴が開いたままの二人。それが埋まるまでは寄り添うのもいいだろう。春人が残してくれた、傘の下で」

終わり。

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