■概要
人数:2人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、ラブコメ
■キャスト
穣(みのる)
奈那(なな)
■台本
穣(N)「僕は嘘が嫌いだ。だから、僕は、嘘をつかないようにしている」
奈那「それは、穣が、嘘付くのが下手なだけでしょ? 嘘っていうのは人類の英知といってもいいくらいなのよ。嘘ってね、真実よりも素晴らしいものなんだから」
穣(N)「奈那はいつもそう言って、嘘ばかりついていた。僕は嘘が嫌いだけど、奈那がつく嘘は……好きだ。だから、この先も、ずっと奈那の隣で、嘘を聞いていたい」
場面転換。
奈那「あーあ。ついに私たちも3年生かぁ。そろそろ進路決めないとね。穣は大学行くんでしょ?」
穣「まだ全然決めてないよ」
奈那「あんたは大学行った方がいいよ」
穣「……どうして?」
奈那「法学部がある大学に行くの。穣は正義感が強いし、向いてると思うよ。弁護士」
穣「……本当に、そう思ってる?」
奈那「ううん。嘘。あんた、嘘が下手だから裁判は全部、負けちゃうよ」
穣「僕は、嘘が下手なんじゃなくて、嘘を付かないの。それより、奈那は決めたの? 進路?」
奈那「うーん。女子大にしようって思ってるんだ」
穣「え? な、なんで女子大?」
奈那「このご時世だから、親にも大学に行っとけって言われてるんだよね」
穣「大学に行くのはわかるけど、どうして女子大なの?」
奈那「だってー。男関係とかちょっと面倒くさくてさー。私、こう見えても、結構モテるんだ。一か月に一回くらいは告白されるんだから」
穣「また、適当な嘘を言って……」
奈那「ひどーい。嘘って決めつけるなんて」
穣「え? ごめん。……本当なの?」
奈那「あははは。相変わらず穣は真面目だなぁ」
穣「もう、また僕をからかう!」
奈那「ごめんごめん。それより、穣は私が女子大に行ったら、何か困ることあるの?」
穣「……いや、別に」
奈那「ふーん。穣も一緒に行く? 女子大。穣なら女装すればいけるって」
穣「ふん。どうせ、僕は男らしくないよ」
奈那「ごめんごめん、嘘嘘。だから、拗ねないでよ」
穣「奈那。嘘ばっかり付く癖、直した方がいいよ。誰からも信用されなくなるから」
奈那「あははは。大丈夫、大丈夫。それより穣こそ、少しは嘘が上手くならないと、痛い目みるよ」
穣「いいの。僕は嘘が嫌いなんだから」
場面転換。
学校のチャイム。
放課後の教室内を掃き掃除している穣。
穣「……はあ」
ガラガラとドアが開く。
奈那「あれ? 穣。一人で何やってんの?」
穣「見ればわかるでしょ。掃除だよ」
奈那「なんで、一人でやってるの? まさか、イジメ?」
穣「違うよ! 勝負で負けたから、その罰ゲーム」
奈那「ふーん。なんの勝負?」
穣「……トランプのダウト」
奈那「……」
穣「……」
奈那「イジメか……」
穣「だから、違うって」
奈那「ま、利用されてるのは間違いないでしょ」
穣「……それは否定できない」
奈那「あんたさ、もう少し器用に生きなさいよ。そのためには嘘を付くことだって必要だって」
穣「……僕、嘘は嫌いだから」
奈那「だから、穣は嘘が嫌いなんじゃなくて、単に嘘が下手なだけだから」
穣「……嘘なんてつけないよ」
奈那「そんなに難しく考えることないの。嘘なんて慣れだよ、慣れ」
穣「……嘘を付くことに慣れたくないよ」
奈那「今のは冗談としても、穣は嘘を気にしすぎなのよ。一回、嘘付いちゃえば、吹っ切れるんじゃない?」
穣「……無理だよ」
穣(N)「一度嘘を付けば吹っ切れる。奈那はそう言ったけど、吹っ切れて嘘を言うことに慣れるなんて嫌だ。……それに、僕は奈那に嘘なんて言いたくない。奈那には本当のことだけを言いたいから」
場面転換。
ドアを開けて、屋上にやってくる穣。
穣「ごめん、お待たせ」
奈那「あ、穣、来てくれたんだね」
穣「それで、相談ってなに?」
奈那「それが……その……」
穣「なに? そんなに深刻なことなの?」
奈那「私……告白された」
穣「……え?」
奈那「ほら、前にさ、私、モテるって話したじゃない? あれ……ホントのことだったんだ」
穣「……そ、そう……だったんだ」
奈那「今回、告白してきてくれた人はさ、結構、女子の中でも人気の人なんだ。私も結構、格好いいと思ってる」
穣「え?」
奈那「ねえ、穣、どうしたらいいかな?」
穣「な、なんで僕に聞くの? 奈那の気持ちが一番大事でしょ?」
奈那「……止めてくれないんだ」
穣「……」
奈那「もし、私がつき合ったら、穣は独りぼっちになるんだよ? 穣、友達いないし、私がいなくなったら、どうするの?」
穣「ぼ、僕は平気だよ。一人でも。だから、僕のことは放っておいて大丈夫だから」
奈那「放っておけないよ!」
穣「え?」
奈那「……だって、穣は……幼馴染だから」
穣「……」
奈那「私、やっぱり、断るね」
穣「……奈那。実はさ。ずっと言いたいことがあったんだ」
奈那「なに?」
穣「……僕、奈那のこと」
奈那「うん……」
穣「ずっと嫌いだったんだ」
奈那「え?」
穣「嘘ばっかり付くし。今だって、お姉さんぶって、僕を見下してるんでしょ?」
奈那「な、何っているのよ。違うよ」
穣「違わないよ。それに、僕、クラスに友達いるんだ。でも、いないフリをしてたんだ」
奈那「どうして?」
穣「だって、友達がいない僕の方が、奈那は優越感に浸れるでしょ? 惨めな幼馴染に構ってあげてるって」
奈那「……」
穣「よかった。僕、いい加減に奈那から解放されたかったんだ。もう、ダメな幼馴染を演じるのは疲れたよ」
奈那「それじゃ、告白OKしても良いってこと?」
穣「もちろん」
奈那「そっか……。わかった。告白は、OKするね。……さよなら」
穣「……」
奈那が歩き出し、穣とすれ違っていく。
穣(N)「これでいいんだ。僕のせいで、奈那が不幸になるなんて耐えられない。奈那には幸せになってほしい。……もう、奈那の嘘を聞けないのは寂しいけど」
奈那「やればできるじゃん!」
ガバッと奈那が後ろから抱き着いてくる。
穣「え? え? え?」
奈那「そうそう。そうやって嘘を付くの」
穣「あのさ、奈那。もしかして、さっきの告白のことは?」
奈那「OKするわけじゃいじゃん。嘘だよ、嘘」
穣「もう!」
奈那「ごめんごめん。もう、こういう嘘は付かないから」
穣「ホント?」
奈那「……たぶん」
穣「奈那……」
奈那「いや、ホント、今回のは反省してるから。許して。ね?」
穣「もう、嘘ばっかり付いてたら、そのうち痛い目見るよ」
奈那「ごめんごめん。でもね。私が嘘をつくときは穣が嘘付いた時だけだよ」
穣「嘘だ! 僕が、嘘が嫌いだって知ってるでしょ? 僕が嘘付くわけないから!」
奈那「気づいてないんだ? 穣、嘘付く時耳が動くんだよ?」
穣「え? ホント?」
奈那「嘘!」
穣「もう!」
奈那「あはははは」
穣(N)「奈那の嘘は好きだど、あんな嘘はもう付かないで欲しい。……でも、本当に嘘でよかった」
終わり。