■概要
人数:5人以上
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、コメディ
■キャスト
龍成(りゅうせい)
涼子(りょうこ)
その他
■台本
龍成(N)「美しい。それは、時として罪になる。人は美しいものに惹かれ、魅了され、手に入れたくなる。美しいものを隣に置き、堪能するために。それが人間の本能というものだ。抗えぬ本能。……美しいものを欲するという欲が罪というわけではない。その欲によって、争いが起こることが罪だ。つまり……美しく生まれついてしまったことが罪なのだ。……そう。私は生まれながらに業(ごう)を背負った男なのだ」
学校の廊下。
女生徒1「あ、あの! 龍成様! 私……」
龍成「おっと。いけない子だ。それ以上は口にしてはいけない。いいかい? 美しいものを欲する気持ちはわかる。だが、それを誰かが所有してしまうと、そこに争いが生じる。わかるね?」
女生徒1「は、はい……」
龍成「だから、美しいものは誰かのものになるわけにはいかない。美しいものは全員で共有する。そうすれば、争いは起こらないんだ」
女生徒1「で、ですが……その……せめて、この手紙だけでも……」
龍成「……わかった。せめて、その手紙だけは受け取っておこう」
女生徒1「ありがとうございます! 失礼します」
女生徒1が走り去っていく。
龍成「……」
手紙をポケットに入れる。
涼子「貰った手紙。読まないのか、龍成」
龍成「姉さん……。この手の手紙はもう何百通も貰っているんだ。その全てを読むわけにはいかない。だから、全て読まないようにしている。そうすれば、全員が平等になるからね」
涼子「なあ、龍成。毎回、断るくらいなら、誰か特定のやつと付き合えばいいんじゃないか? そうすれば、言い寄られることもねーんじゃねーか?」
龍成「そんな身勝手な理由で付き合うわけにはいかないな。僕のポリシーに反する」
涼子「まあ……好きでもないやつと付き合うわけにはいかないよな……」
龍成「それに、付き合った相手は、大勢の女性の嫉妬を買い、何をされるかわかったものじゃない。僕の身勝手で人が傷つくのは避けたい」
涼子「そうだな。悪かった。忘れてくれ」
龍成「いや、構わないさ。姉さんは僕のことを思って言ってくれたんだろうからね。……それより、僕になにか用事があって来たんじゃないのかい?」
涼子「ああ、そうだった。龍成。お前、早く帰れ」
龍成「なぜ?」
涼子「なにやら、屋上で不穏な話し合いがされてる。なにやら、お前の名前が出ていたしな」
龍成「姉さん。それを聞いたら、尚更、帰るわけにはいかないよ」
涼子「おい、まさか、止めに行く気か? そんなの危険すぎる!」
龍成「僕が傷つくのはいいんだ。なにより辛いのは、僕のことで、誰かが傷つくことだよ」
涼子「ったく! 変なところで頑固だな。わかった、あたしも一緒に行く」
龍成「姉さん。僕が言った、誰かが、というのは姉さんも含まれるんだ。僕のことで姉さんを巻き込むわけにはいかない」
涼子「けど……」
龍成「姉さん」
涼子「……ちっ! わかったよ。気を付けて行けよ」
龍成「わかってるよ。大丈夫さ」
場面転換。
屋上。
女生徒2「どうするおつもりですの?」
女生徒3「このまま、気持ちも伝えられずに、ただ時間だけが過ぎていくのは、もう嫌よ。断られてもいい。私は行くわ」
女生徒4「待って! ……争いが起きないようにと結ばれている、不可侵条約を破る気?」
女生徒3「だからって、このまま遠くで見て終われっていうの? 冗談じゃないわ!」
女生徒4「あんた、この学園の半数以上を敵に回すつもり? 例え、断られたとしても、行動した時点で、みんなの恨みを買うことになる」
女生徒3「……」
女生徒4「それに、誰かが行けば、雪崩が起きるように、今の状況が崩壊する。不可侵条約があるからこそ、この均衡を保ててると言っても過言じゃない」
女生徒2「お待ちになってください! その……わたしくに、考えがございますの」
女生徒4「……考え? なに?」
女生徒2「正攻法で行けば、必ず問題が起きますわ。それならば、問題が起きないように根回しすればいいと思いますの」
女生徒3「根回しって……なにをするの?」
女生徒2「いきなり、ご本人に行くからバレてしまいますし、不可侵条約を破ることになりますわ」
女生徒4「じゃあ、どうするんだ?」
女生徒2「……告白ではなく、最初は友達から始めますの」
女生徒4「友達?」
女生徒2「ええ。不可侵条約は、ご本人に思いを伝えてはいけないというものです。思いを伝えたことで、引かれて、学園に来られなくなった、なんてことが起こったら最悪ですわ」
女生徒3「だから、あくまで、思いを伝えるんじゃなくて、友達になるってこと?」
女生徒2「はい。その通りですわ。私達の目的は、より近くで、あの尊顔を見ていたい、というものです。確かに思いを伝えられれば、さらにいいのですが、その分、危険ですわ」
女生徒4「……で、どうやって近づく? 今までも友達から入ろうとして、玉砕した人間も多い」
女生徒2「直接、ご本人に行くから断られるのです」
女生徒4「本人に行かないで、どうやる?」
女生徒2「紹介ですわ。紹介という形を取れば、紹介された建前上、断りづらくなります」
女生徒3「なるほどね……」
女生徒4「だが、誰に紹介してもらう?」
女生徒2「御姉弟(ごきょうだい)です」
女生徒3「あ、確かに、姉弟の仲は凄く良いって聞いたことがあるわ」
女生徒2「その御姉弟の頼みであれば、断られることもないでしょう。何しろ、友人ですから、断る理由も作りづらいはずですわ」
女生徒4「いい案だと思う。あれなら、攻略も簡単だし」
女生徒3「どっちも、この学園で有名だけど、内容は全く正反対だもんね」
女生徒4「顔が良いのに、残念だ」
女生徒2「性格がまともであれば、モテたでしょうね」
女生徒3「そんなことより、早く、作戦を実行しようよ!」
女生徒4「だな。よし、行くぞ!」
ザっと龍成が現れる音。
龍成「いけない。実にいけないやり方だ」
女生徒3「あ、あなたは……」
龍成「よりによって、姉さんを利用しようなんてね。僕が一番嫌いな方法だよ」
女生徒3「ご、ごめんなさい! これにはわけが……」
龍成「もう遅いよ。君たちは僕の怒りを買った。悪いが、僕は帰らせてもらう」
女生徒4「待って! お願い! 友達でいいの!」
龍成「友達だとしても、御免だ」
女生徒2「お願いいたします。紹介だけ。せめて、ご紹介だけでも」
龍成「だから、紹介も……。え? 紹介?」
女生徒3「お願い! お姉さんに私たちのこと、紹介して欲しいの!」
龍成「え? え? え? ちょ、ちょっと待って。……僕のことを言っていたんじゃないのかい?」
女生徒4「は? なんの話だ? 私たちはずっと、君のお姉さん……涼子さんのことをお話していたんだ」
女生徒2「ああ……涼子お姉さま! 素敵ですわ!」
龍成「えっと……じゃあ、僕のことはどう思っているんだい?」
女生徒4「……勘違い野郎?」
龍成「うおおおおお!」
走り出す龍成。
走りながら、ポケットから手紙を出す。
龍成「も、もしかして、この手紙も……」
龍成(N)「……結論から言うと、今まで貰った全ての手紙は姉さんとの仲を取り持って欲しいという内容だった。まあ、誰にだって勘違いはあるものだ。……だがしかし、世の中には不変で絶対なものがある。それは僕が美しいことだ。……僕は生まれながらにして、美しいという業を背負っている。そう。僕は……罪な男だ」
終わり。