【声劇台本】正義への信念

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■概要
人数:5人以上
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス

■キャスト
宮浜 正義(みやはま まさよし)
柊(しゅう)
康平(こうへい)
みどり
その他

■台本

正義(N)「昔から、悪いことをしている人間が許せなかった。罪に対して、必ず罰を受けてるべきだ。そんな俺が、警察官になるのは当然だったのかもしれない」

電話が鳴り、正義がとる。

正義「はい。喜多川署、刑事課です。はい……はい……。わかりました。すぐに行きます」

ガチャンと電話を切る、正義。

正義「先輩! 駅で窃盗です」

康平「宮浜、お前一人で行け。それくらいの事件なら大丈夫だろ」

正義「それくらい……ですか? 事件は事件です」

康平「かー。出たよ。新人が言いそうな台詞だな。わかったわかった。行ってやるから、もう少しだけ待て」

康平がテレビを付ける。

アナウンサー「女子大生殺人事件で容疑がかかっていた、澤野下(さわのした)容疑者の不起訴がきまりました。検察側の……」

ブツっとテレビを切る。

康平「あー。やっぱり、不起訴か……」

正義「確か、この容疑者って……」

康平「ああ。代議士の息子だ。かなり証拠を揃えてたみたいだけどな。……もみ消されたんだろうな」

康平「ま、警察でもどうにもならないなら、ウリエルに期待するしかないな」

正義「ウリエル……ですか?」

康平「あれ? お前、知らないのか? 今回のような、法で裁かれない人間を神の炎で焼き尽くす、ウリエルってのが、最近巷で噂になってるんだ」

正義「え? それって……殺人ですよね? 捕まえないんですか?」

康平「表向きは事故だ」

正義「どうしてですか?」

康平「文字通り、自然発火だ。突然、人間が燃える。原因が全くわからない。つまりどうやっているのかが不明だ。こっちとしては、事故というしかないだろ。それが全員、裁かれなった悪人だったとしてもだ」

正義「ですが、悪人だからと言って、勝手に裁くのは間違っていると思います」

康平「……お前にもわかるときが来るさ。俺たちが拠り所としている法律なんて、しょせんは人間が作ったもの。穴だらけさ」

正義「……」

場面転換。

夜道を歩く、正義とみどり。

みどり「見て! 月が綺麗! 満月かな?」

正義「……いや、満月は明日だと思う。それより、みどり。ウリエルって知ってるか?」

みどり「明らかに犯人だってわかってるのに、不起訴になったり無罪になった人を裁くやつでしょ?」

正義「結構、有名なんだな」

みどり「あとは、そもそも、逮捕されない悪人とかも裁いてるみたいだね」

正義「裁くって……何様のつまりなんだよ。ただの殺人鬼だろ」

みどり「けど、世の中にはどうしようもない人間もいるでしょ。そんなのが野放しになってるほうが怖いと思うけど」

正義「その台詞を、警官の俺に言うか?」

みどり「あはは。ごめんごめん。それより、週末のデートのドタキャンはなしだからね」

正義「わかってるよ」

場面転換。

街中。

正義「……はあ。なにやってんだろ、俺。5時間も澤野下を監視してたなんて知れたら、部長に大目玉だな。帰るか……」

いきなり、炎が巻き起こる音と悲鳴が響く。

澤野下「ぎゃああああ!」

正義「どいて! 警察です!」

服ではたいて、炎を消そうとする正義。

澤野下「助けてくれー!」

正義「誰か! すぐに救急車呼んで!」

柊「止めた方がいいな。これ以上近づいたら、あなたにも燃え移る可能性もあるし、なにより、もう、手遅れだ」

澤野下「あああ……」

正義「だとしても、放っておけるか!」

バサバサと服ではたいて、炎を消そうとする正義。

場面転換。

ドアが開き、康平が入って来る。

康平「お、今日は随分と早いな」

正義「……昨日、ウリエルと遭遇しました」

康平「へー。あの現場にいたのか」

正義「聞いてください、先輩! ウリエル事件の法則を見つけました! 事件は満月の日に行われます」

康平「ふーん。で?」

正義「犯行日が分かるなら、対策は打てるんじゃないですか?」

康平「事故死でいいじゃないのか。俺たち、警察でもどうにもならない悪人を消してくれるんだ。それでいいだろ」

正義「そんなのは正義じゃないです!」

康平「……」

正義「俺たち、警察の正義が揺らいではいけないんです!」

そのとき、電話が鳴る。

康平「喜多川署、刑事課。ん? ああ、いるぞ。うん、うん……。わかった。すぐに行く」

電話を切る。

康平「事故だ。人が横断しているところに車が突っ込んだ。犯人は逃走中」

正義「どこですか? 向かいましょう」

康平「お前はすぐに病院に迎え」

正義「え?」

康平「被害者の中にお前の恋人がいる」

正義「え?」

場面転換。

正義が病室に駆け込んでくる。

正義「みどり!」

みどり「正義……」

正義「大丈夫か? 怪我は?」

みどり「私は大丈夫……。でも、私……目の前にいた子供を……助けられなかった」

正義「……みどり」

みどり「轢かれた後も、何もできなくって私……私……うわああああ!」

正義「大丈夫……。大丈夫だ……」

場面転換。

バンと机を叩く、正義。

正義「捜査打ち切りって、どういうことですか?」

康平「犯人が、ここの元署長。しかも、今の署長は頭があがらないそうだ」

正義「そんなのって、ないですよ!」

康平「警察の正義なんて、そんなもんさ」

正義「……」

場面転換。

男が車から降りる。

男「ふふふふーん!」

そこに柊が歩み寄って来る。

柊「やあ、元、警察署長殿。事故で破損した車は完璧に直ったようだね」

男「な、なんだ貴様!」

柊「裁きを行う天使ってやつかな。言い残すことはあるかい?」

男「ふん。春先はいかれた人間が多いな」

柊「被害者に地獄で詫びろ」

正義「動くな、警察だ!」

柊「悪いが、銃を下げて貰えないかい? 一般の人間に向けるもじゃないと思うけど」

正義「その人から3メートル以上離れるんだ。それと、目を閉じて」

柊「へえ。すごい。そこまで気付いたのか」

正義「事件が起こったときの防犯カメラや写真、動画を調べた。現場にはいつも君がいて、自然発火が起こった時には、かなり近くにいる。あのとき、俺を止めたときもそうだった」

柊「目をつぶれと言うのは?」

正義「集中して見ることで火を付ける。そうだろ?」

柊「すごいな。そこまで辿りついた人は初めてだ。だけど、黙っててもらえるかな? この悪党は法律で裁けないから、俺が裁く」

正義「ダメだ。正義に反する」

柊「正義……か。残念だけど、世の中に正義なんてものはない。あるのはルールだけだ」

正義「そんなことはない。少なくても、俺は正義のために働いているつもりだ」

柊「悪いが、警察は法律のために働いているのであって、正義のためなんかじゃない」

正義「この人は法に従って裁いてもらう。これが俺の正義。警察官としてではなく、俺自身の正義だ」

柊「……もし、ダメだったら?」

正義「諦めない。俺は必ず、自分の正義を最後まで貫いて見せる」

柊「わかりました。ここはあなたの正義を立てて、見逃しましょう」

正義「今はまだ無理だが、お前にも、法による裁きを受けてもらうぞ」

柊「ふふふ。楽しみにしてるよ」

正義(N)「これがウリエルとの長い付き合いの始まりであった」

終わり。

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