■概要
人数:3人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、ファンタジー、コメディ
■キャスト
レオン
アンヌ
その他
■台本
レオン(N)「ドラゴンの口の中には、魔物が住み着くようになる。魔歯(まば)と呼ばれる、いわゆる虫歯の魔物バージョンというところだ。数年に一度、そのドラゴンの口の中の魔歯を退治し、歯の治療をするのが、俺たち、歯科医の仕事だ」
ドラゴンの口の中。
魔歯「キシャ―!」
レオン「ブリーズ・スワール!」
竜巻が発生し、魔歯たちを切り裂いていく。
魔歯「ギギャ―――!」
レオン「ふう。大体の魔歯はこれで退治できたかな。あとは、傷んだ歯がないかの検査だ」
ドラゴンの口の中を歩くレオン。
レオン「えっと……1から5がC1」
紙に文字を書いていくレオン。
レオン「6がC2、7がC1、8が……うわ、結構、進行してるな。C3だ。これじゃ、いつ、暴れ出してもおかしくないぞ」
レオンがカバンをガサガサと漁る。
レオン「念のため、麻酔をかけて……。あとは魔歯が取り憑いて開けたところの、魔傷(ましょう)の部分を削る」
レオンが大きく息を吸い、魔法を発動する。
レオン「ウィンド・シェイブ!
高い金属音が鳴り響き、歯が削れる。
レオン「よし、あとは空いた穴を石魔法で塞ぐ……と」
息を吸い込み、魔法を発動させる。
レオン「ウォール・ストーン!」
キラリと歯が光り輝く音。
レオン「ふう。これで大丈夫だな。次の9が
C2で……」
場面転換。
レオン(N)「ドラゴンの歯科医はかなり危険な仕事だ。年に何人かは殉職してしまう。去年も、史上初のエルフ族の、アンヌという名の歯科医が行方不明になっている。人間と違い、ドラゴンは素直に口を開けてくれない。ドラゴンを眠らせた後に、口の中に入る。その際、ドラ
ゴンによって命を落とす歯科医も少なくない。それに、ドラゴンの口の中に入っても、魔歯との戦いはほぼ必須だ。中には、かなりの数の魔歯と強大な力を持った魔歯がいることもある。そんな場合、その魔歯によって亡くなることもある。なので、ドラゴンの歯科医は強さと、歯の専門的な知識も必要であることから、歯科医の国家試験はかなり難しい。毎年、数人が試験を突破して歯科医になる分、殉職者が出る。なので、人手は増えていかない。毎年、極度の人数不足だ」
調査員「あれが次の患者のレッド・ドラゴンです」
レオン「……かなり、大きいドラゴンですね。あんなの見たことがない」
調査員「伝説級と言ってもいいほどですね。この大陸の守り神と称されています」
レオン「……状態はどうなんですか?」
調査員「それが……かなり変わった状況でして」
レオン「変わった状況、ですか?」
調査員「去年からの1年間でかなり痩せています」
レオン「痩せている?」
調査員「はい。大きさ的に2周りは小さくなっています」
レオン「……となると、かなり進行してそうですね。C4レベルが数本というところですか。魔歯もかなり大量にいますね。いつ、ダーク・ドラゴンに墜ちても不思議じゃありません」
調査員「……ですが、全く暴れていないんです」
レオン「え? そんなはずはありません。C4となれば、かなりの激痛があるはず」
調査員「それが変わった状況と言ったところです。あの、レッド・ドラゴンは全くと言っていいほど、穏やかに過ごしています。まるで正常なドラゴンのように。……そのことがあって、放置されたというのもあります」
レオン「……それじゃ、痩せた理由は、魔歯が原因じゃないってことですか? そんなことありえるんですか?」
調査員「いえ。魔歯以外の原因でドラゴンが痩せる理由はありません。なぜなら、ドラゴンは息をすると同時に、口から魔力を吸い込みますから」
レオン「……その魔力に釣られて魔歯が集まる。口の中で魔歯が大量に繁殖し、魔力を根こそぎ奪うことで、ドラゴンが痩せていくんですよね?」
調査員「ええ。さらにその状態が続くと、今度は魔歯がドラゴンの体内に侵食し、理性を奪っていきます。そうなれば、死ぬまで暴れ続けます」
レオン「その状態がダーク・ドラゴン……」
調査員「そうなる前には絶対に前兆があるはずです。魔歯に侵食される痛みにより、凶暴化し、暴れるということが頻繁に起こります」
レオン「それが、今回は全くない……ということですか?」
調査員「はい……」
レオン「わかりました。とりあえず、調査だけでもすぐにやりましょう」
調査員「お願いします。ただ、口内はかなり危険な状態だと予想されます。くれぐれも無理はしないでくださいね」
レオン「ええ。そうなったら、すぐに逃げ帰ってきますよ」
場面転換。
ドラゴン「グルルル……」
レオン「確かに、普通の警戒状態だ。痛みによる凶暴化の予兆はまるで無い」
ドラゴン「ガアアアアア!」
レオン「威嚇の咆哮も、異常は無し。やっぱり、口の中に入って、直接診るしかないな」
ドラゴン「グガアアアアアア!」
レオン「それじゃ、麻酔でお寝んねしましょうね」
場面転換。
地響きのような音を立てて、ドラゴンが倒れる。
レオン「はあ、はあ、はあ、はあ……。ようやく麻酔が効いたか。最初の麻酔投入から1時間……。まあ、この大きさなら妥当だな。さてと、いつ目覚めるかわからないから、さっさと口の中を診るか」
場面転換。
ドラゴンの口の中を歩く、レオン。
レオン「……確かに、綺麗なもんだな。魔歯の一体もいない。まるで、治療やメンテナンス後みたいだ」
さらに奥まで進むレオン。
レオン「となると、やっぱり、原因は魔歯じゃなさそうだな。……新たなドラゴンの病気ってことか? だとしたら、俺の専門外だ」
奥へと進むレオン。
レオン「一旦、全部の歯の状況を見てから帰ろう」
レオンがさらに進もうとしたとき、ピタリと止まる。
アンヌ「うう……」
レオン「なっ! なんで、こんなところにエルフが倒れてるんだ!? おい、大丈夫か?」
レオンが駆け寄る。
アンヌ「うう……。もう食べれないよー」
レオン「……ん? 寝言?」
アンヌ「ふえ?」
レオン「起きたか」
アンヌ「ありゃ? だーれ?」
レオン「……それは俺が質問したい」
アンヌ「んん? アンヌはアンヌだよー?」
レオン「アンヌ? ……聞いたことがある名前だな」
アンヌ「ねえ、アンヌの家で何してるの?」
レオン「家? ドラゴンの口の中に住んでるのか?」
アンヌ「うん! そうだよ! いやー、意外とここは快適だよー! 黙ってても魔力が入ってくるから、それ取り込めばいいし。つまり働かなくても、ここにいれば、ダラダラ暮らせるってわけだよー」
レオン「そう言えば、エルフは魔力があれば生きてられるって聞いたな」
アンヌ「うふふふ。まさか、こんなところにエルフの楽園があるなんてねー。歯科医になってよかったよ」
レオン「あっ! 思い出した! アンヌって行方不明になったエルフの歯科医の名前だ」
アンヌ「もう違うよー。アンヌはここで一生ニートやるんだ」
レオン「え? ちょっと待てよ。アンヌがいなくなったのは1年前。で、ドラゴンが痩せ始めたのも1年前……」
アンヌ「ん? どったの?」
レオン「お前が原因かー!」
レオン(N)「……一人で、大量の魔歯以上の魔力を吸うって、どんだけ大喰らいなんだよ……。ある意味、魔歯より厄介だな」
終わり。