■概要
人数:3人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス
■キャスト
尊(たける)
隼(はやと)
その他
■台本
ガチャっと車のドアを開けて、尊が入って来る。
尊「すいません。お待たせしました。おにぎりはサケと梅で良かったんですよね?」
隼「おせーぞ。買い物に何分かかってんだよ」
尊「レジが混んでまして……」
隼「まあいいや。ほら、よこせ。腹減って倒れそうだ」
尊「はい、どうぞ」
尊が隼にレジ袋を渡す。
隼「お、これこれ。おにぎりはやっぱ、これだよな……って、お前、自分の分はどうしたんだ?」
尊「いや、俺はお腹減ってないんで」
そのとき、グーっと尊の腹が鳴る。
隼「……」
尊「いや、その……今月は厳しくて」
隼「ったく、なにやってんだ。ほら」
隼が尊のおにぎりを投げ、尊がキャッチする。
尊「あの……」
隼「いいよ、一個やるよ。これ、経費で落ちるんだろ? よかったな。丸々儲けだ」
尊「警察が不正をするのは……」
隼「いいから、食え」
尊「あ、ありがとうございます……」
隼「(食べながら)で? お前、何年目なんだ?」
尊「刑事課に配属されて、2年目です」
隼「思いっきり、新人じゃねーか。そんなんで、よく、伝説の爆弾魔、サイレントボマーを捕まえられたな」
尊「あ、あれは……その……偶然なんで」
隼「まあ、偶然でも、手柄は手柄だ。胸を張れよ」
尊「は、はい。ありがとうございます」
隼「じゃあ、食ったら行くか」
尊「はい」
車のエンジンをかける尊。
同時に、無線が入る。
警察官「この無線を聞いている警察官全員に管理官から命令です。元町5丁目に急行してください。犯人が逃走中。格好は……」
尊「あ、すぐ、近くだ。向かいます!」
隼「待て!」
尊「え?」
隼「考える前に動くな」
尊「で、ですが……」
隼「落ち着けって。今の無線はこの辺、全員の警察官に対してだ。ということは、かなりの大人数がそこに向かったはずだ。今更お前一人加わったところで、たいして助けにならんさ」
尊「だからと言って、行かないわけにはいきません」
隼「動く前に考えろって言ってるんだ」
尊「……考える、ですか?」
隼「今の無線の犯人、突発的犯行か? それとも計画的犯行か?」
尊「誘拐犯ですから、計画的です」
隼「突発的な犯行なら、すぐに動くべきだが、計画的な場合は、一旦落ち着いて考えろ」
尊「考える……? 何をですか?」
隼「計画的ということは、犯人はありとあらゆる想定をしているはずだ。もちろん、警察に囲まれているという状況の上かもしれない。とにかく、まずは状況を整理しろ」
尊「……状況。今回の事件は誘拐事件で、
犯人は身代金を要求してきました。要求額は500万です。それで、今は身代金を受け取るために犯人が現れ、逃走しているという状況ですね」
隼「ここの肝は、身代金にしては少ない金額と本当に取りに現れたということだ」
尊「……どういうことですか?」
隼「誘拐なんてリスクの高い犯罪をしているのに、500万は少ないと思わないか?」
尊「……確かに。相手は大企業の社長です。当初は億単位を要求されるだろうと、本部も踏んでいたんです」
隼「ということは、あえて犯人は少額にした。なんでだと思う?」
尊「少額の理由……。あ、持ち運びしやすいとかですか?」
隼「それもあるだろうな。1億円の重さは約10キロ。持てない重さじゃないが、持って逃げるとなれば重すぎる」
尊「確かに……」
隼「だが、本当の理由はそっちじゃない」
尊「……本当の理由、ですか?」
隼「社長からしてみれば、億を要求されると思っていたところが、500万だ。おそらく、安いと思うはずだ」
尊「安い……?」
隼「それで、人質が無事に戻れば、犯人に対して、そこまで執着しないだろうな」
尊「警察の方も、捜査は続けると思いますが、そこまで力は入れない……」
隼「ということは、犯人は逃げ切る気満々ってことだ」
尊「なるほど……」
隼「で、ここで問題なのは、もう一つの肝である、本当に取りに来たってところだ」
尊「……?」
隼「逃げ切る気満々なのに、警察が大勢集まっている場所にわざわざ現れるか?」
尊「……確かに」
隼「すぐに確認しろ」
尊「何をですか?」
隼「金を持って逃げているかどうか、だ」
尊「……わ、わかりました」
無線を繋ぐ尊。
尊「すいません。一つ確認させて欲しいのですが、今、逃げている犯人は身代金を持って逃走しているんでしょうか?」
警察官「いえ。犯人は、身代金の袋を手に取る前に逃げ出しました」
尊「あ、ありがとうございました」
無線が切れる。
尊「……あ」
隼「気づいたか?」
尊「今、逃げているのは囮」
隼「そうだ。今は、逃走している犯人に、全警察官が集中している。つまり、身代金はほぼノーマークだ」
尊「じゃあ、今、まさに犯人は身代金を回収しようとしている……ということですか?」
隼「とはいえ、そのまま取りにいけば、さすがに捕まる」
尊「なにか、工夫をするはずですね……」
隼「そうだ」
尊「……犯人は金額と一緒に、袋も指定してきました。かばんじゃなく、袋だったです」
隼「カバンだと、都合が悪かった。なぜだ?」
尊「……犯人が指定した、身代金の置く場所を考えると……」
隼「……」
尊「マンホール……」
隼「マンホール?」
尊「あまりにも、変なところだと思ったんですよ。道路脇なんて。あそこには小さい、マンホールがあるんです。そして、あの辺は死角となるところが多いんですよ」
隼「その死角を利用して金を取るってわけだな」
尊「はい。ジュラルミンケースはよこ38cm、たて32cm、高さ約10cm……。あそこにあるマンホールは小さいタイプなので、30㎝くらいです」
隼「なるほど。ここにも、億を要求しなかった理由に繋がるな」
尊「はい」
隼「じゃあ、後は、やることはわかるな?」
尊「はい!」
無線を繋ぐ尊。
尊「捜査本部、聞こえますか? 今、逃走している犯人は囮です。すぐにマンホール内を調べてください! お願いします!」
場面転換。
車を走らせている尊。
隼「お手柄だったな」
尊「あなたのおかげですよ」
隼「俺はヒントを与えただけだ。正解を導き出したのはお前だ」
尊「……ありがとうございます」
車を止める尊。
隼「お、着いたか」
尊「あ、あの……本当にいいんですか?」
隼「何がだ?」
尊「今なら……」
隼「それ以上は言うな。刑事が言っていい言葉じゃない」
尊「す、すいません」
隼「さてと、じゃあ、行こぜ」
尊「は、はい」
尊と隼が車から降りて、並んで歩く。
隼「……俺さ、お前でよかったと思うよ」
尊「……」
隼「ちゃんと有名になれよ。ショボいまま終わったら承知しねーからな」
尊「わ、わかってます」
隼「よし、それじゃ、刑務所の中でお前の活躍を期待してるからな」
尊「はい、頑張ります」
終わり。