■概要
人数:1人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス
■キャスト
繁(しげる)
■台本
繁(N)「悪戯は最高だ。困っている相手の顔はどんな娯楽よりも、面白い。今日も、さっそく、凄い悪戯を思いついた。さっそく、準備を始めよう」
繁「よいしょっと!」
繁がドンと金庫を置く。
繁「これで、準備はOKだ。……ふふふ。最高のアイディアだよな。これは楽しみになってきた……」
繁(N)「繁くんは、悪戯ばかりです。クラスメイトだけじゃなく、教師にまで悪戯をします。……毎回、通知表に書かれていた言葉だ。そう、俺は悪戯が好きだった。だから、だれかれ構わずに悪戯を仕掛けていた。だけど、勘違いしないで欲しい。俺は悪戯に2つのルールを決めていた。一つは絶対に人を傷つけないこと。怪我はもちろん、人の名誉を傷つけるような悪戯はしない。もう一つは、準備は入念にやる、ということだ。簡単で手抜きの悪戯はしない。ちゃんと考え抜いて、しっかりと悪戯にハメる。悪戯というのは、奥が深い。なので、俺はいつも悪戯するときは入念な準備をおこなう。それが、俺のルールだった」
場面転換。
繁「んー! ふう。……あれ? もう朝か。結局徹夜しちまったな。けど、これで、新しいシステムに組み込めそうだ」
繁(N)「俺は大学卒業後、小さいが会社を作った。最初の数年は苦戦したが、今では売り上げも安定し、そこそこの金額を稼いでいる。俺が、ここまでやれたのも、ひとえに学生の頃の悪戯の経験のおかげだ。人を傷つけない配慮、入念な準備。これらの経験は仕事にも活かすことができた。相手を観察し、入念に準備をして、仕留める。ビジネスでは大いに役立ったのだ」
繁「……眠くなってきたな。そろそろ寝るか……」
そのとき、ブーブーとスマホに着信が来る。
手に取り、通話ボタンを押す繁。
繁「……もしもし、母さん、どうかしたの?」
繁「え? 俺の部屋だった押し入れから、金庫?」
繁「うん……うん……うん。わかった。明日にでも取りに行くよ」
繁(N)「俺の部屋だった押し入れから金庫が出て来たから、処分していいかという電話だった。最初は処分してもらおうかと思ったが、その金庫を隠したときのことを思い出した。何を入れたかは思い出せないが、確か、特別なものを入れたような気がする。だから、中身を確認してからでも、処分は遅くないはずだ」
場面転換。
元、繁の部屋。
どかっと座り込む。
繁「……これが金庫か。確かにお小遣いを貯めて買った記憶がある。……けど、何入れたっけな? 全然、思い出せない。……あれ? なんか紙が貼り付けてあるな」
繁が張り紙を取る。
繁「えーっと、なになに? この金庫の中には今、あなたが必要だと思っているものが入っています? うーん。これ、完全に悪戯が仕込んであるはずだよな」
繁(N)「あー、くそ、気になる。中学生だった俺が、一体、どんなことを書いたんだっけな? すごく興味がある。どうせ、きっとくだらないものだろう。だけど……それでも中身が見たくなったぞ」
繁「あれ? なんだこれ?」
繁(N)「その紙の裏側には、なにか記号ののようなものが書いてあった。それを見て、少しだけ思い出せた。紙の裏側の記号のようなものは暗号で、これを解けば、金庫の解除の番号が出てくるはずだ」
繁「ふん。どうせ、中学生が作ったもんだろ? こんなの、秒殺で解いてやるよ」
繁(N)「結果から言うと、秒殺で解くことはできなかった。というより、10年経った今でも、解けていない。一瞬、ネットにアップして、他の人に助けを求めようかとも考えたが、昔の自分に負けた気がして、やめた。意地でも自分で解いて見せる」
場面転換。
繁「くそっ!」
ドンと、机を叩く音。
繁「全然、わからん……。んー。こんなに凝った暗号を中学生の俺が、作れたのか? ……いや、作ってたな。悪戯は入念な準備をする。それが俺の中のルールだ。確か、この暗号を作るのに半年くらいかけていたんだよな」
繁(N)「そして、さらに5年が経った。俺の趣味は完全に、この暗号を解くことになってしまっている。ここまでくると、なんとしてでも、金庫の中身を見たくなった。……例え、それがどんなにくだらないものでも」
場面転換。
繁「……全く解ける気がしない。諦めるか? いや、ここまで来て、それはできない。この15年を棒にふるなんて、そっちの方が無理だ」
繁(N)「とはいえ、一人では限界を迎えていた。このままでは、俺が生きている間には解けないんじゃないかという考えが頭に浮かんだ」
繁「……やっぱり、ネットに流し……ん? あっ!」
繁(N)「それはまさに偶然だった。一瞬、解読を諦め、何気なく暗号を見た瞬間、全てのピースが合わさる感覚を覚えた」
繁「解けた! やった! 解けたぞ!」
金庫に番号を入力する音。
そして、金庫が開く。
繁「よし! 開いたぞ! さてと、何が入っているのかな?」
繁(N)「金庫の中には2枚の紙と小さな鏡が入っていた」
繁「……紙? なんか書いてある……あっ!」
繁(N)「金庫の中にあった紙に書かれていたもの……。それは、金庫を開けるための番号、つまり、先ほど俺が解いた暗号の答えが書かれていた」
繁「……どういうことだ?」
繁(N)「慌てて、もう一枚の方の紙を見ると、解説という言葉と文章が載っていた。それは、最初の暗号が書かれていた紙にはこう書かれてた。今、あなたが必要だと思っているものが入っていると。つまり、金庫を開けるための番号が、金庫の中に入っていた。確かに、金庫を開けたいなら、番号が必要。あの文章は本当だったというわけだ。……にしても」
繁「くだらねー!」
繁(N)「中学の頃の俺に、最大の悪戯を仕掛けられていた、というわけだ。……俺の15年を返してほしい。そして、鏡は困った俺自身の顔を見るためのものだろう。ホント、悪趣味だな。悪戯はほどほどにした方がいい。そう思った瞬間だった」
終わり。