【声劇台本】伝説の影武者

〈前の10枚シナリオへ〉 〈次の10枚シナリオへ〉

〈声劇用の台本一覧へ〉

■概要
人数:5人
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、時代劇、シリアス

■キャスト
龍之介(りゅうのすけ)
龍平(りゅうへい)
辰之進(たつのしん)
その他

■台本

辰之進「父上! 父上が、あの龍平と知り合いというのは本当ですか?」

龍之介「……そうか。辰之進があいつの名前を知っているのか。随分と有名になったものだ」

辰之進「今では知らぬ者を探す方が難しいですよ」

龍之介「そうか……。そうだな」

辰之進「それで、父上と龍平はどのような知り合いだったのですか?」

龍之介「あいつは……私の影武者だったんだ」

場面転換。

龍之介、龍平、共に5歳頃。

龍平「龍之介様。今日から龍之介様の身の回りの世話をさせていただく、龍平と申します! よろしくお願いいたします」

龍之介「うわー。僕にソックリだ! まるで鏡を見ているみたいだよ」

龍平「……実は私は、龍之介様の影武者となるため、ここに来ました」

龍之介「僕の影武者?」

龍平「はい。龍之介様は将来、家督を継ぎ、当主になられるお方。万が一のことがないよう、私がつき従い、お守りさせていただきます」

龍之介「うん。よろしく!」

場面転換。

木刀で素振りをしている、龍平と龍之介。

龍平「53、54、55」

龍之介「56、……57……うう! ダメだ、もう限界!」

座り込んでしまう龍之介。

龍平「58、59、60……」

龍之介「龍平はすごいなぁ。僕なんか、全然だめだ。素振りの100回もできない」

龍平「戦うのは私の役目。龍之介さまは、そもそも訓練しなくてもいいんですよ」

龍之介「ほら! また、敬語使って! 二人の時は普通に話してって言ったでしょ」

龍平が素振りを止める。

龍平「申し訳……じゃなかった。ごめんごめん。どうしても慣れなくってさ」

龍之介「龍平は、僕の影武者でもあるけど、僕の友達でもあるんだからさ」

龍平「時期当主様と友達か……。恐れ多いよ」

龍之介「何言ってるんだよ。龍平は僕のかげ武者ってことは、僕の代わりでもあるってことでしょ? ってことは、龍平も時期当主みたいなもんじゃないの」

龍平「いや、さすがにそうはならないよ」

そのとき、遠くから声が聞こえてくる。

父親「龍之介! そろそろ、勉学の時間だぞ」

龍之介「げ! 勉学か……、やだなぁ」

龍平「なんなら、また俺が代わりにやろうか?」

龍之介「え? いいの?」

龍平「うん。俺、結構、勉学好きだからさ。代わりに授業受けれて楽しいよ」

龍之介「ふーん。勉学が好きって、龍平は変わってるなぁ。じゃあ、お願いね」

龍平「うん。完璧に龍之介を演じてくるよ」

場面転換。

10年後。

龍平「俺がここにきてから、10年か。早いよなぁ」

龍之介「はあ……。この先のことを考えると気が重いなぁ」

龍平「何を言ってるだよ。当主がそんなんだと、家臣が不安がるぞ。例え、自信がなくたって、堂々とするのが上の役目だ」

龍之介「そうは言うけどさ、どうしていいかわからないんだよ。当主としての正しい判断とか、できないって、きっと」

龍平「大丈夫だよ。そのときは、俺に相談してくれればいい。助言くらいならできるからさ」

龍之介「う、うう……うおーーーー!」

龍平「うわ、どうしたんだよ、急に」

龍之介「お前が、いつもそうやって僕を甘やかすから、僕はすっかりダメな人間になってましったよ……」

龍平「いや、ダメな人間て……。そんなことないって」

龍之介「考えてみれば、兵法とか、政とかの学問の授業を全部、龍平に変わってもらってたのが、致命的だな」

龍平「いや、致命的って……」

龍之介「…龍平。お前、知ってるのか? 僕の名前が隣国にまで噂になってるんだぞ。稀代の天才だってな」

龍平「へー、そいつはすごい! よかったな、龍之介」

龍之介「ぜんっぜん! よくない!」

龍平「え? どうしてだ?」

龍之介「だって、その評価は僕にじゃなくて、龍平のものなんだから」

龍平「え? どういうことだ?」

龍之介「今って、大体、表に出るときって龍平に任せてるだろ?」

龍平「ああ、そうだな」

龍之介「つまり、周りは龍之介だと思って見ているけど、実際は龍平なんだからさ」

龍平「そうかな?」

龍之介「あー、くそ。こんなことなら、ちゃんと学問とか怠けずに、ちゃんと授業に出てればよかった! ……うう。これじゃ、どっちが影武者かわからないよ」

龍平「いや、考えすぎだって」

場面転換。

山の奥。龍之介と龍平が歩いている。

龍之介「はあ、はあ、はあ……」

龍平「もう少しだ、頑張れ! この山を越え冴えすれば、城が見えてくる。城にさえ戻れれば、立て直しが可能だ」

龍之介「……なあ、龍平。お前は先に行ってくれ。僕は足でまといだ」

龍平「何を言ってるんだ! 龍之介。お前が当主なんだぞ!」

龍之介「わかってる! わかってるけど、このままだと共倒れだ!」

龍平「俺はお前の為に死ぬ。俺はお前の影武者なんだ。それに今回の戦は、完全に俺の采配の間違いが招いたことだ。完全に相手の策にはまって、龍之介を危険にさらしてしまっている……。影武者としても、友達としても、失格だよ、俺は」

そのとき、遠くから声が聞こえてくる。

兵士「いたぞ! こっちだ!」

龍平「くそ、囲まれたか。龍之介、俺が囮になるから、その隙に、逃げてくれ」

龍之介「龍平。一つ提案がある」

龍平「なんだ?」

龍之介「逆にしよう」

龍平「逆? どういうことだ?」

龍之介「今日から、お前は龍之介として生きろ。国にはお前の力が必要だ」

龍平「何を言ってるんだ! そんなこと、できるわけないだろ!」

龍之介「大丈夫だって。今までだって、同じようなもんだったろ?」

龍平「……」

龍之介「僕が囮になる。その隙に、お前は城へ向かってくれ。一人なら、兵士たちを振り切れるだろ?」

龍平「けど、どうやって囮になるつもりだ?」

龍之介「なに、簡単さ。俺は龍之介だと言えばいい。なにせ、狙われているのは当主である僕だからね」

龍平「だけど……」

龍之介「時間がない! いくぞ!」

龍之介が走る。

龍之介「こっちだ! こっち逃げたぞ!」

叫びながら走り、やがて兵士に取り囲まれる龍之介」

兵士1「ようやく追い詰めたぞ!」

龍之介「……」

兵士2「で? お前はどっちだ?」

龍之介「……どっち? 僕は……俺は龍之介の方だ!」

兵士1「くそ! じゃあ、影武者はあっちの方か! 追え! あっちを確実に仕留めろ!」

龍之介「え?」

兵士たちが走り去っていく。

龍之介「え? え? え? どういうこと?」

場面転換。

辰之進「父上、どういうことだったのですか?」

龍之介「答えは簡単さ。敵国は知ってたんだよ。優秀なのは龍之介ではなく、影武者の龍平の方だって。稀代の天才って言われるくらいだったからな」

辰之進「それで、父上が敵国の兵に無理されたというわけですね」

龍之介「あれはかなり悔しかったよ。完全にこっちなんか眼中になかった」

辰之進「それで、父上。その後はどうなったのですか?」

龍之介「父さんは城まで辿り着くことができて、九死に一生を得たんだ」

辰之進「龍平の方はどうなったんですか?

龍之介「笑えるよ。足でまといがいなくなったから、龍平は一人で敵兵の包囲網を破って他国へと入っていったそうだ。今思えば、父さんが囮になるって言ったのを受け入れたのは、そうなるって予測してたんだろうな」

辰之進「あの、父上。龍平はどうして、戻って来ないのでしょうか? 父上の影武者だったんですよね?」

龍之介「それはきっと、父さんを巻き込まないためだな」

辰之進「巻き込む?」

龍之介「今や、龍平はかなり名を上げている。龍平を狙う者が多い。となれば、顔がそっくりな父さんは、龍平と間違われて殺されてしまう可能性がある」

辰之進「なるほど……」

龍之介「ふふ。最終的には影武者が本人を超えてしまい、立場が逆になってしまったという話だな。これで、龍平との……伝説の影武者のお話は終わりになる」

終わり。

〈前の10枚シナリオへ〉 〈次の10枚シナリオへ〉