■概要
人数:5人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス
■キャスト
貴文
淳一
青年
タレント
鑑定士
■台本
貴文「……」
ピッというテレビを入れる音。
タレント「突撃! あなたのお宝、鑑定し隊! 今日の一人目の鑑定は……こちら!」
ドアがカランカランと音を立てて開く。
淳一「ちーっす! 店長、遊びに来たっす」
貴文「……あのな。たまには客として来てくれよ」
タレント「慶兆(けいちょう)の掛軸(かけじく)ですか。これは期待が持てますね」
淳一「店長、この番組好きっすね」
貴文「情報弱者が騙されてるっていうのが面白くてな」
淳一「で、この掛軸はどうなんすか?」
貴文「偽物だな。名前のところが全然違う。本物をちょっとでも見たことがあれば、誰だってわかるくらい違う」
淳一「へー。そうなんすか」
タレント「ざんねーん! 偽物ということで、評価額は3000円! 持ち主が崩れ落ちたー」
淳一「あ、ホントだ」
貴文「大した知識もないのに、骨とう品なんかに首を突っ込むからだ。騙されて当然だな」
淳一「ええー。詐欺はダメっすよー」
貴文「あほう! こっちは食うか食われるかのギリギリの商売をやってんだ。お互い、納得した上で売買してるんだからな。詐欺なんかじゃないさ」
淳一「店長みたいな性悪な人がいるから、骨とう品の世界は怖いんすよねー」
貴文「まあ、勉強料だよ、勉強料」
淳一「……ん? あれ? 店長、これって豪雪(ごうせつ)の壺にそっくりっすね」
貴文「なんだ、お前。豪雪の壺のこと、知ってるのか?」
淳一「ええ。まあ。てか、今、話題の壺じゃないっすか」
貴文「そうなんだよなー。あー、クソ!」
淳一「え? なんすか?」
貴文「それ、贋作なんだよ」
淳一「そうでしょうね。本物が見つかって、どっかの美術館で展示されてるんすもんね」
貴文「その壺買ったのはさ、本物が見つかる前だったんだよ」
淳一「……ええ! ってことは、店長、もしかして贋作を本物だって言って売るつもりだったんですか?」
貴文「その贋作、すげーいい出来なんだよ。絶対、騙せる自信あったのになー」
淳一「ホント、最低っすね。じゃあ、どうするんすか? 二束三文で売るっすか?」
貴文「せめて、元は取りたいんだよなー。30万で買ってるからさ」
淳一「ふーん」
貴文「お前、これ、買わない? 31万でいいからさ」
淳一「友達無くすっすよ」
貴文「友達なんか、二束三文にすらならねーだろ」
そのとき、カランカランとドアが開いて、青年が入って来る。
貴文「いらっしゃいませー」
青年「ちょっと見させてもらえますか?」
貴文「どうぞ、どうぞ。ごゆっくり」
青年が店の中をゆっくりと歩きながら、品物を見て回る。
そして、ピタリと立ち止まる。
青年「……この壺、綺麗ですね」
貴文「へー。お兄さん。なかなかお目が高いね。良い感性を持ってるみたいだ」
青年「……そうなんですか?」
貴文「普通の人なら、見向きもしないよ」
青年「あの……この壺、値段が貼ってませんけど……」
貴文「この壺は、豪雪の壺と言ってね、今から1500年前に、天才と言われた陶芸家が作ったものなんだ」
青年「……そんなに凄いものだったんですか」
貴文「国宝もの、と言っても過言ではないだろうね」
青年「……」
貴文「ちょっと待ってね。えっと……」
貴文がガサガサと用意を始める。
壺を持って、台座に置く。
貴文「ちょっと、ここに座ってみて」
青年「はい……」
青年が椅子に座る。
貴文「じゃあいくよ。ライトアップ!」
パチッというスイッチ音が響く。
青年「わああ! 色が変わった!」
貴文「凄いでしょ。これが、この壺の特徴なんだよ。光を当てると鮮やかな色に変わっていくんだ」
青年「すごい……」
貴文「どうぞ、色々な角度から見てみて。深みのある色と玄人好みの形。見れば見るほど味が出る壺なんだ」
青年「……」
貴文「壺は、掛軸や絵画と違って、手入れが簡単だからね。骨とう品の世界に入るきっかけが壺からって人が多いんだよ」
青年「……そうなんですか」
貴文「これは骨とう品界の格言なんだけど、良いものを持てば、人生も引きずられて良いものになる、というのがあるんだ」
青年「……この壺……高いんですよね?」
貴文「一千万だよ」
青年「いっせん……!?」
貴文「まあ、国宝級の代物(しろもの)だからね。……だけど、どうだろう? もし、この場で購入を決めてくれるのだったら、100万にしてあげよう」
青年「……え?」
貴文「あはは。一気に胡散臭いって顔になったね。そりゃそうだろうね。いきなり、10分の1の値段になれば。でも、これは投資なんだ」
青年「投資?」
貴文「今、骨とう品の世界は人口が減ってきてね。若い人がほとんどいないんだ。それが口惜しくてね」
青年「……」
貴文「君は、素人ながら、一発でこの壺を見つけた。正直に言って、その鑑定眼は天才と言ってもいいだろうね。若い天才が、この骨とう品の世界に現れれば、きっと盛り上がる。若い人だって、興味を持ってくれるようになる。そう考えれば、900万の損失なんて安いものだよ」
青年「……俺、買います!」
貴文「……ありがとう」
場面転換。
カランカランと音を立ててドアが開き、青年が出ていく。
淳一「……あの贋作、30万っすよね?」
貴文「俺は商売人だぞ」
淳一「嘘ばっかり並べ立てて、ほとんど、詐欺じゃないっすか」
貴文「だーかーら、あいつが納得して買っていったんだから、いいんだよ」
淳一「おお、怖っ!」
場面転換。
貴文「……」
ピッというテレビを入れる音。
タレント「突撃! あなたのお宝、鑑定し隊! 今日の一人目の鑑定はこちら!」
青年「よろしくお願いします」
タレント「今日はどれを鑑定してほしい?」
青年「これです。豪雪の壺」
貴文「ぷっ! あははははははは! おいおいおい、マジかよー。夢見る時間が随分と短かったな。ご愁傷様」
タレント「……え? 豪雪の壺って……」
青年「どうか、したんですか?」
タレント「あ、いえいえ。それでは、鑑定してもらいましょう! どうぞ」
貴文「バーカ。情報弱者は騙される運命なんだよ。まあ、勉強料だな、勉強料」
タレント「どうやら、結果が出たようです。それでは、金額はどうだ?」
ルーレットのような音楽。
タレント「300万……500万……まだまだ上がる」
貴文「……え?」
タレント「2000万……まだいく! おおっと、なんとなんと! 4000万だー」
貴文「え? え? え? なんでなんで?」
タレント「では、解説をお願いします」
鑑定士「御存じの通り、豪雪の壺は、先月に本物が発見されました」
タレント「では、これは贋作?」
鑑定士「いえ、本物です。というのも、豪雪の壺を調べた結果、なんと連作になっていることがわかったんです。つまり、豪雪の壺は2つあったということですね」
タレント「ええ? そうなんですか?」
鑑定士「まあ、一般の人には出回らない情報ですが、鑑定の世界では有名な話です。知らない鑑定士はいないでしょうね」
貴文「……」
鑑定士「おめでとう。いい買い物しましたね。大切にしてください」
青年「はい! ありがとうございます!」
貴文「いやいやいやいやいや! 違う違う違う! こんなはずじゃなかったんだ! その壺、返してくれー!」
終わり。