■概要
人数:2人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス
■キャスト
誠人(まこと)
巧也(たくや)
■台本
巧也「俺さ、将来は総理大臣になるんだ」
誠人(N)「僕の、巧也くんへの第一印象は、凄い人、だ。誰に対しても明るく話す巧也くんは友達が多かった。だから、友達が全然いなかった僕でも、巧也くんを通して、たくさんの友達ができた。明るく、人懐っこい巧也くんは友達の中でも中心の存在だった。つまり、人気者だった。だけど、それは中学生になるくらいまでだ」
巧也「俺さ、5人相手に喧嘩で勝ったんだぜ!」
巧也「この前さ、道で困っていたおばあさんを助けたら、俺に一万円もらえたんだ」
巧也「え? 勉強? 1日5時間くらいしてるぞ」
誠人(N)「中学生になったときの、巧也くんのあだ名は、二枚舌の巧。いつも大げさなことを言うだけの、嘘つきのお調子者、それが周りの評価だった。そして、それは高校生になっても、変わらなかった」
場面転換。
教室内。
巧也「みんな、聞いてくれ! 俺、今回の期末テストは本気出す! 5教科とも、95点以上取るぞ!」
誠人(N)「だけど、張り出された順位表では50位以内にも入っていなかった」
巧也「いやー、英語のテストの時さ、すげー腹痛になったんだよ。我慢するのに必死でさ、全然、テストに集中できなかったんだよな」
場面転換。
巧也「俺、マラソンだけはすげー、自信あるんだ。もしかしたら、今度のマラソン大会は、学年で10位内に入れるかも」
誠人(N)「だが、マラソン大会の当日の順位は下から数えた方が早かった」
巧也「いやあ、練習し過ぎてさ、前の日、足の皮剥がれて、めちゃくちゃ痛かったんだよ」
誠人(N)「いつも、大きなことばかり言っては、それが出来ずに言い訳をする。周りは巧也くんのことをピエロのような感じで見ている。もちろん、僕も巧也くんとは距離を置くようにしている」
場面転換。
教室内。
ガラッと勢いよくドアが開き、巧也が入ってくる。
巧也「みんな、聞いてくれ! 音楽室で幽霊見たんだ! しかも、その幽霊、すげー、悪霊っぽくてさ、角が生えてたんだぜ、鬼みたいにさ! でも、安心してくれ! 俺が除霊してやるよ!」
誠人(N)「また始まった。クラスのみんなは、冷ややかな目で巧也くんを見ている。高校生になっても、そんなこと言い出すのかと呆れていた。精々、幽霊を見たで終わらせればいいのに、と失笑する。……正直に言うと、僕も同じように思っていた」
場面転換。
学校のチャイムが鳴り響く。
放課後の廊下を歩く誠人。
誠人「……あーあ、もうこんな時間だ。掃除当番の代わりなんて引き受けるんじゃなかったよ」
そこに巧也が走って来る。
巧也「おお、誠人じゃねーか」
誠人「げっ!」
巧也「今帰りか? 随分と遅い時間前残ってるんだな」
誠人「まあ、ちょっと、用事があってね。それより、巧也くんはこんな時間まで何してたの?」
巧也「ほら、この前の音楽室の幽霊の話あっただろ?」
誠人「う、うん……」
巧也「除霊までやるって言っちゃったからさ、除霊のお札を貰ってきたんだよ。蘆屋(あしや)先輩からさ」
誠人「蘆屋先輩? 誰?」
巧也「あれ? 知らないのか? 陰陽師なんだよ、あの人」
誠人「陰陽師って……。そんな人がこの学園にいるの?」
巧也「そうなんだよ、俺もビックリしてさ。なんか、怖い印象の人だったけど、除霊のお札を作ってくれたんだよ」
誠人「……」
巧也「ん? どうした、誠人。急に黙り込んで」
誠人「……ねえ、巧也くん。どうして、嘘を付くの?」
巧也「へ? 嘘?」
誠人「嘘なんかついて、何が楽しいの? 自分を大きく見せたいから? でも、そんなんじゃ逆に小さく見えるよ! クラスのみんな、笑ってるんだから!」
巧也「……誠人、お前もか」
誠人「え?」
巧也「お前も、信じてくれないんだな」
誠人「いや、だって、幽霊なんかいるわけないよ! それを、除霊するなんて言い出してさ! ……すごく格好悪いよ」
巧也「……」
誠人「僕はね、ずっと憧れてたんだ、巧也くんに。いつもすごいって思ってた。でも、それが嘘だってわかってからは……僕」
巧也「誠人……」
誠人「なに?」
巧也「あぶねえ!」
誠人「え?」
鬼「ギガアアアアア!」
鬼が爪で誠人を引き裂こうとするが、間一髪で巧也が誠人を庇う。
巧也「うわっ!」
鬼「ギギギギギ……」
誠人「え? え? え? な、何、あれ?」
巧也「いてて……。あれが、俺が見た幽霊だよ。蘆屋先輩に聞いたら、幽霊じゃなくて鬼だったらしいけど」
誠人「ええ? お、鬼って、そんなのいるわけが……」
巧也「いや、現に目の前にいるだろ!」
誠人「……で、でもどうするの? すごくこっちを睨んでるけど」
巧也「だから、蘆屋先輩から除霊のお札をもらったって言っただろ」
誠人「え?」
鬼「ギガアアアア!」
巧也が札を構える。
巧也「斬!」
巧也がお札を掲げる。
鬼「ギガアアア……」
鬼が消滅する。
誠人「……鬼が消えた。ホントに、お札もらってきてたんだね」
巧也「当たり前だろ」
誠人「ねえ、巧也くん。……その……今回みたいに本当のことだけ、言ったらどうかな?」
巧也「は? 本当のことだけ? ……いや、俺、いつも本当のことしか言ってねーし」
誠人「嘘だ! じゃあ、テストの件は? 忘れたのは言わせないよ。5教科とも90点以上取るっていってたのにさ」
巧也「俺、なんて言ってたか覚えてるか?」
誠人「えっと……英語のときに腹痛で……」
巧也「そう。英語は5点で、その他は95点以上だったんだぜ。ほら」
巧也がポケットからテスト用紙を出す。
誠人「……ホントだ。英語が5点だったから、50位以内に入れなかったんだね」
巧也「けど、まあ、最初に言ったことを守れなかったんだけどな」
誠人「じゃあ、マラソン大会は?」
巧也「ああ、これだよ」
巧也が靴を脱いで、足を見せる。
巧也「練習し過ぎてさ、すげー深く足の裏の皮が剥けたんだよ。今も痕が残ってるだろ?」
誠人「う、うん……。じゃあ、もしかして、昔話してた、5人に勝ったとか、一万円もらったとか、勉強、毎日5時間してるとかも……」
巧也「ああ、本当だよ。……けど、なんで、みんなは信じてくれねえんだろ?」
誠人(N)「確かにその通りだ。どうして、みんなは……いや、僕は巧也くんのいうことを嘘だと思い込んだんだろうか? たぶんそれは、巧也くんが凄いことを言ったからだろう。そんなことはできない、やれるはずがないと、勝手に嘘つきのレッテルを貼ってしまった。嘘だっていう証拠もないのに……。巧也くんは、こんなにも凄い人なのに、だ。きっと、巧也くんは、将来、総理大臣になるのだろう。今度こそ、僕はそれを信じたいと思う」
終わり。