【声劇台本】鎮魂歌

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■概要
人数:5人
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、ファンタジー、シリアス

■キャスト
リナ
クレイ
その他

■台本

男性「あ……ああ。死にたくない……。うう……鐘が……鐘の音が……聞こ……える……」

クレイ「……死亡、確認しました」

女性「ありがとうございました、先生」

クレイ「……」

リナ(N)「先生は安楽死を生業としている。……いや、もう医師の資格を持っていないので、先生といういい方は正しくないのかもしれない。……でも、私はこの人を先生以外にどう呼んでいいかがわからないから、先生と呼ぶ。とにかく、私は先生に母親を殺されている」

場面転換。

クレイ「ふう……」

ドサリと椅子に座るクレイ。

リナ「今日の患者も、死を望んでいませんでしたね」

クレイ「……家族が彼の死を望み、俺に依頼してきた。本人の意思は関係ない」

リナ「先生はそれが正しいと思っているんですか?」

クレイ「この国では安楽死は認められていない。つまり、俺がやっていることは違法行為だ。この行為は悪さ。そのことに議論の余地はない」

リナ「法律の話ではなく……先生の心に対してです」

クレイ「ふ……。正義、なんてことを考えるような人間なら、こんな仕事はしてない」

リナ「……先生」

クレイ「何度も言っているが……俺は金のためにやっている。この行為に変な幻想を描くな」

リナ「……例えば、もう死を待つしかない人の場合、生きること自体が苦しいのであれば……安楽死は、正しい行為じゃないでしょうか?」

クレイ「だから……この国では認められていない。間違った行為だ」

リナ「だから、その……法の話じゃなく、心の問題です」

クレイ「どう取り繕うと、俺のやっている行為は殺人だ。金のために俺は人を殺している。法の視点でも、心の視点でも悪そのものさ」

リナ「……」

クレイ「辛いなら、家を出ろ。無理して付き合う必要なんてない。金に関しても心配しなくても、ちゃんと……」

リナ「そういうことじゃありません」

クレイ「……」

リナ「今更、無関係だって出ていくことなんか……」

クレイ「無関係さ。今までも、そしてこれからも、お前には全くの無関係の話だ」

リナ「……先生」

場面転換。

女性2「ああ……。これでやっと楽になれる。……鐘の音が……聞こえる……」

クレイ「……死亡確認」

リナ「安らかな顔、してますね」

クレイ「よせ」

リナ「先生。この人は病気でずっと苦しんでました。絶望の中で生き続ける。それは地獄です。でも、先生はその地獄を終わらせた」

クレイ「止めろ」

リナ「先生。本人が望むときだけにしませんか? そうすれば……」

クレイ「何度も言わせるな。俺は金のためにやっている。本人が望んでいるかどうかなんて、俺には関係ない」

リナ「先生はどうして、そこまで自分を責めるんですか? 母への償い……ですか?」

クレイ「償い? なにを償うことがある? 俺はこの行為に罪悪感はない。お前の母を殺したときもそうだ。あいつは最後まで、死を拒んだ。だが、俺は殺した。金のためにな」

リナ「……なら、どうして私を引き取ったんですか? 私を引き取ったところで、お金が出るわけじゃない、いや、返ってお金がかかるだけです。母に対して、罪悪感がないというのなら、私を引き取る義理も責任もないはずですよ」

クレイ「……単なる気まぐれさ。それより、今日はあと一件ある……」

リナ「先生?」

クレイ「う、うう……」

リナ「先生? どうしたんですか?」

クレイ「う、ああ……」

ドサリと倒れるクレイ。

リナ「先生! 先生―!」

場面転換。

リナ(N)「心臓病。医師の話では、奇病と言われるほどで、100万人に1人という確率で発症する病気らしい。……もちろん、研究は進んでなく、かかった人間はほぼ絶望的との話だ」

クレイ「これは罰、というものだろうな。ふふ。ろくな死に方はしないと思っていたが、まさにおあつらえ向きだ」

リナ「……」

クレイ「俺が死んだら、財産は全てお前に相続される。一生……とはいかないかもしれないが、しばらくは生活ができるはずだ。ここでのことはすっぱりと忘れて、新しい人生を歩むんだ。いいな?」

リナ「……どうして、そこまでしてくれるんですか?」

クレイ「……気まぐれさ」

リナ「納得すると思いますか?」

クレイ「ふふ。その鋭い目。あいつにそっくりだな」

リナ「……母さんに? あの、先生。先生は母とはどういう関係……」

クレイ「う、うう……ぐああああ!」

リナ「先生!」

リナ(N)「先生が患った心臓病は、かなりの痛みを伴うらしい。その心臓病にかかった患者は、自ら命を絶つことが多い。研究が進まないのは、そういう理由もあるとの話だ」

場面転換。

クレイ「うう……ぐああああ!」

リナ(N)「最近は起きている時間のほとんどは苦しみの声をあげている」

クレイ「はあ……はあ……はあ」

リナ「これ以上、先生が苦しむのを見ていられません。先生が使っていた、あの薬の場所を教えてください」

クレイ「……ふん。俺に楽になれってことか? 冗談じゃない」

リナ「でも……」

クレイ「……俺は今まで、死を望まない患者に対しても、強制的に人生を終わらせてきた。俺には自分が望むように死ぬ資格はない」

リナ「……先生」

クレイ「あいつ……お前の母親とは幼馴染だった」

リナ「え?」

クレイ「ガキの頃から、将来は一緒になるものだと思っていたんだ。けど、あいつの家の事業が失敗してな。多額の借金を背負うことになった。だから、あいつは金持ちの家の愛人になったんだ」

リナ「……」

クレイ「俺もその借金を背負うって言ったんだけどな。俺に迷惑をかけないためでもあったんだと思う」

リナ「……」

クレイ「で、子供を身ごもったときに、あいつは捨てられた……」

リナ「……」

クレイ「不幸は続くものだ。あいつは女手一つでお前を育てていたが、不治の病にかかった。苦しかったはずだ。だけど、あいつは微塵も、それを表に出さなかった。……そこからはお前に知っている通りだよ」

リナ「母が最期まで、安楽死を受け入れなかったのは、先生に罪を背負わせないため、だったんですね」

クレイ「どういう理由だったとしても、俺はあいつの意思を無視して、あいつを殺した……」

リナ「それで、自分を責め続けるために、医師であることを捨て、安楽死をするようにしたんですね?」

クレイ「いや、違う。吹っ切れたのさ。親しい人間を手にかけたことで、慣れたんだ。金も稼げるしな。だから、俺は続けた。……多くの人を、この手にかけたよ。本当にたくさんの人間を……」

リナ「……」

クレイ「だからこそ、俺にはその責任がある。最後まで、苦しみ抜く責任が」

リナ(N)「それから先生は口を開くことはなくなった。一人で苦しみを抱えて、絶望の中で生き続けている」

クレイ「はあ……はあ……うぐっ!」

リナ「先生……」

リナがクレイに注射を打つ。

クレイ「なっ! お前……。どうして?」

リナ「先生はもう十分苦しみました。せめて、最後は安らかにいってほしいんです」

クレイ「ふ、ふざける……な。俺は……俺だけが……望んだ死なんか……」

リナ「これは私が望んだことです。死を拒む先生を、私が殺すんです。先生が母にしたように」

クレイ「……ふ、ふふ。そうか。そうだな」

リナ「……」

クレイ「結局、お前にも背負わせることになってしまった。すまなかったな」

リナ「背負ってましたよ。最初から」

クレイ「……ありがとう。ああ……鐘の音が……聞こえる……」

リナ(N)「こうして、先生は息を引き取った。その顔は安らかであり、どこか寂しそうだった」

終わり。

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