■概要
主要人数:5人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、ファンタジー、コメディ
■キャスト
杏子(きょうこ)
明(あきら)
ニア
天使
魔王
■台本
杏子「あっくんのことは、絶対、お母さんが守ってあげるからね」
杏子「あっくん。公園なんかで遊んじゃダメよ、危ないわ。家でゲームしてなさい」
杏子「大丈夫だからね、あっくん。受験はあっくんの代わりに受けてくれる人がいるの」
杏子「あっくんは、働かなくていいの。ずっとお母さんの傍にいてくれれば、それでいいのよ」
場面転換。
明(N)「俺はずっと、母さんの望むように生きてきた。友達も作らず、部活にも入らず、学校が終わったらすぐに母さんの元へ帰る。ただ、それだけの人生だった。学校の宿題も母さんや、違う人がやってくれた。給食も断り、俺だけ母さんの作った弁当を持っていき、一人で食べた。そんな状態で、中学、高校、大学へと進み、卒業を迎える。当然のように就職活動に失敗し、今はニートとして過ごしている。正直に言って、こんな人生に全く未練はなかった。逆に早く終わらないかなと、思っていたくらいだ」
車のブレーキ音。
杏子「あっくん!」
ドンと車が衝突する音が響く。
明(N)「だから、車の事故に巻き込まれた時だって、これでやっとこんな人生から解放されると思っていたくらいだった」
場面転換。
天使「ひっく、ひっく(泣き声)」
明「あれ? 俺、死んだんじゃ……?」
天使「あ、あの! これからあなたを、異世界に転生させます」
明「へ? あの、俺、転生とかいいです! このまま成仏させて……」
場面転換。
ニア「……勇者様? 勇者様!」
明「え? あ、ごめん、ニア。ちょっとボーっとしてた」
ニア「しっかりしてくださいよ。もうすぐ、伝説の剣が眠る、洞窟なんですから」
明「うん。そうだね、気を引き締めないと」
明(N)「抵抗虚しく、天使によって俺は異世界へ転生させられ、強制的に勇者をやらされている。最初はすごく嫌だったけど……母さんの呪縛から離れた、この生活は結構気に入っている。そう。俺は母さんの呪縛から逃れて、ようやく自由になったんだ」
場面転換。
ドラゴン「グルルル……」
明「はああああ!」
ザシュっと明がドラゴンを斬る。
ドラゴン「グゴオオオオ!」
ドラゴンが派手な音を立てて、倒れる。
ニア「さすが勇者様! 伝説の剣を守るドラゴンを一撃です!」
明「はは。伝説の剣を守っていた割には歯ごたえがなかったかな」
ニア「あんな強大な力を持ったドラゴンを歯ごたえないって、凄すぎますよぉ!」
明「はは。それじゃ、伝説の剣も手に入れたし、魔王を倒しに行こうか」
ニア「はい!」
場面転換。
魔王「く、くそ! あやつさえ、現れなければ、貴様のような雑魚に負けるわけがないのに……」
明「やあああ!」
ザシュっと明が魔王を斬る。
魔王「ぐああああ! くそぉ! くそぉ」
魔王が倒れる。
ニア「やりました! 勇者様! これで世界は平和になりましたよ!」
明「うん! それじゃ、王様のところへ報告に戻ろう」
ニア「はい!」
明(N)「こうして、俺は無事に魔王を倒し、世界を平和に導いたのだった」
場面転換。
杏子(N)「あっくんは、私にとって全てだわ。あっくんの幸せが私の幸せ。だから、お母さんがあっくんに降りかかる火の粉は全部、振り払ってあげるからね」
場面転換。
杏子「え? お買い物? いいわよ、お母さんが行って来るから。あっくんはゲームでもしてて、待ってて」
明「ううん。たまには外に出ないと、体にも悪いし。俺が行って来るよ」
杏子「うう。体に悪いなら、仕方ないわね」
場面転換。
街中を歩く明と近くの物陰から見ている杏子。
杏子「……あっくん、大丈夫かしら? 不良とかに絡まれないといいけど……。え? 車があっくんに向かって突っ込んでくる! ダメ!」
杏子が走る。
車のブレーキ音。
杏子「あっくん!」
ドンと車が衝突する音が響く。
場面転換。
杏子「……あれ? ここは?」
天使「あなた達、二人は死を迎えました。これから天国に向かうための説明をしますね」
杏子「ちょっと待って! あっくんが死ぬなんて、絶対に許さないわよ!」
天使「そ、そう言われましても……」
杏子「あなた、天使でしょ? すぐにあっくんを、生き返らせなさい!」
天使「そ、そんなの無理です」
杏子「あっそう。言うことを聞かないなら、聞かせるまでよ。てーい!」
天使「きゃあああ!」
場面転換。
天使「う、うう……恥ずかしい写真を撮るなんて酷いですぅ」
杏子「この写真をばら撒かれたくなかったら、何とかしなさい!」
天使「元の世界で生き返らせるのは無理ですけど、異世界に転生するというのはどうですか?」
杏子「転生ね……。まあ、死ぬよりはいいわ。その代わり、私もその世界に転生させなさい。いいわね!?」
天使「は、はい、ですぅ……」
場面転換。
杏子(N)「こうして、私は異世界に転生し、陰ながらあっくんの危険を排除している」
場面転換。
ドラゴン「グオオオオ!」
杏子「あんたが、伝説のドラゴンね。これからあっくんがやってくるから、瀕死になってもらうわよ」
ドラゴン「ガアアアアア!」
杏子「てーい!」
場面転換。
魔王「人間風情が。魔王たる私にたてつくなど、片腹痛いわ」
杏子「もうすぐ、ここにあっくんが来るわ。だから、魔王だかなんだか知らないけど、あんたを半殺しにするからね」
魔王「ふっ……ふふふふ。下等種族が! いい気になるなよ! 魔王の恐ろしさ、存分に味わうがいい!」
杏子「いくわよ! てーい!」
魔王「ぶべっ!」
杏子「まだまだー!」
魔王「ちょ、まっ! ごばっ! ぐへ!」
杏子「えい、えい、えい!」
魔王「ば、バカな! この私が手も足も出ないとは……。ぐはあああ!」
場面転換。
杏子(N)「それからあっくんは、魔王を倒して、世界を救った勇者になった。うふふ。凄いわ、あっくん。これからも、あっくんに危険が起こらないように、私が守ってあげるからね!」
終わり。