■概要
主要人数：5人以上
時間：10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、コメディ
■キャスト
真田 遥香（さなだ はるか）
竜宮 真樹（りゅうぐう まき）
その他
■台本
生徒が廊下を走って行く。
遥香「こら、廊下を走っちゃダメじゃない！」
生徒「あ、真田先生、さよーなら」
遥香「あ、はい。さよなら。気を付けて……じゃなくてっ！」
生徒の足音が遠ざかっていく。
遥香「もう……」
ガラガラと職員室のドアを開け、歩いて自分の席にドカッと座る遥香。
遥香「はあ……」
男教師「おや？ 真田先生。どうしたんですか？ 疲れた顔をして」
遥香「……私、先生として、威厳、ないですかね？」
男教師「また、生徒にバカにでもされましたか？」
遥香「……」
男教師「真田先生はまだ２年目じゃないですか。威厳が出てくるのは、これからですよ、これから」
遥香「…そうでしょうか？ 来年も同じようなことを言われそうです」
男教師「はははは。まあ、その気持ちもわかりますよ。……そうですね。そんな真田先生の不安を一発で解決する方法がありますよ」
遥香「え？ 本当ですか！？ どうやるんですか？」
男教師「それはですね……。先輩になることです」
遥香「先輩に……ですか？」
男教師「はい。下に人がついて、教える立場になれば、自然と威厳が出てくるものです。教えるという経験は、実は教える側も自信という面で大きくプラスされるものなんですよ」
遥香「……あ、部活、みたいな感じですかね？ 二年生になったら、一年生が入ってきたら、なんか先輩らしくなるっていうか、そんな感じですかね？」
男教師「ええ。そうですそうです。誰かの面倒を見るようになれば、真田先生も、自信を持てるようになりますよ」
遥香「なるほどですね……。ただ、この学校じゃ、私が一番下なので、教えるなんてこと、できませんよ」
男教師「ふふ。それがですね。ちょうどいいことに、もう少ししたら、入って来るんですよ。新任の教師が」
遥香「本当ですか！？」
男教師「ええ。今、田辺先生が産休で休まれてるじゃないですか。その穴を埋めるために校長が呼んだみたいですよ。しかも、その先生は教職免許を取ったばかりで、本当に新任という感じです」
遥香「……それじゃ」
男教師「ええ。その先生は、真田先生の下につけようという話になってます。……頑張ってくださいね。先輩として」
遥香「……はい！」
場面転換。
朝。遥香が学校に向かっている。
遥香「……よし！ 今日が新任の先生が来る日。舐められないように、しっかりしなくっちゃ。気合よ、気合！」
場面転換。
ガラガラと職員室のドアを開けて、自分の席に向かう遥香。
男教師「はい、はい。……わかりました」
男教師が電話を切る。
遥香「おはようございます。……生徒の欠席の連絡ですか？」
男教師「……真田先生は気を付けてくださいね。交通事故。一瞬の油断が大きな怪我の元ですよ」
遥香「は、はい。気を付けます。……それより、今日ですよね？ 新しい先生が来るのって」
男教師「え？ あ、その件ですが……」
ガラガラと職員室のドアが開く。
校長「はいはい。みんな、席に着いて。新しい先生を紹介します」
職員室内がざわざわと騒がしくなる。
校長「はい、みんな静かに。それじゃ、先生、自己紹介をお願いします」
真樹「えーっと。ただいま、校長より紹介に預かりました、竜宮真真樹です。よろしくお願いします」
遥香「……随分と、老け顔ね。全然、新任に見えないわ」
校長「あー、真田先生」
遥香「え？ あ、はい！」
校長「竜宮先生のこと、頼みますね。わからないことがありましたら、真田先生に聞いてください」
真樹「わかりました。さっそくですが、ホームルームまで、まだ時間があるので、ざっと学校内の案内をお願いできますか？」
遥香「え？ あ、はい。わかりました」
場面転換。
遥香と真樹が並んで歩いている。
真樹「そういえば、真田さんは……」
遥香「先輩よ」
真樹「え？」
遥香「私のことは真田先輩と呼んで。私の方がこの学校、長いんだから」
真樹「ああ……。失礼しました。そうですね。申し訳ありません、真田先輩」
遥香「真田先輩……いい響き」
真樹「え？」
遥香「いえ、なんでもないわ。それより、さっき言いかけたことはなに？」
真樹「はい。えっとですね。この学校には、クラスの中で浮いている……つまりは、不良の生徒っていますか？」
遥香「不良？ ……小学校よ、ここ」
真樹「最近は、不良の低年齢化が進んでいるんですよ。いわゆる高校の不良とは違い、喧嘩みたいな派手なことはしないんですが、教師の言うことを無視したり、口ごたえしたりするんです」
遥香「……あのね、竜宮くん」
真樹「……くん」
遥香「同じ生徒なのよ」
真樹「え？」
遥香「私たちを無視したり、口ごたえしたりしても、同じ生徒に変わりないわ」
真樹「……っ！」
遥香「先輩からのアドバイスよ。絶対に忘れないようにしなさい。いい？ 生意気なことを言うっていうのは、その子の個性なのよ。不良なんてくくりにしてはいけないわ」
真樹「……」
遥香「そりゃ、みんながみんな、私達に心を開いてくれるわけじゃないわ。でもね。だからと言って、こっちからも心を閉ざしてはダメ。ううん。逆に、向き合わなくっちゃ。私達、教師の仕事はね、勉強を教えるだけじゃないわ。生徒たちと向き合って、対話する。これも教師の仕事だわ」
真樹「……そうですね。本当にそうです。いや、なるほど……。どうやら、私は本当に大切なことを忘れていたらしいです」
遥香「わかればいいのよ。大切なのは忘れないこと。いい？」
真樹「はい！ 勉強になります」
遥香「ふふ……」
そこに女教師が走って来る。
女教師「先生―！ 竜宮先生！ 待ってください」
真樹「はい？」
女教師「私、先生のファンなんです！」
真樹「え？ ああ、はは。……光栄です」
女教師「先生の書かれた、更生の指針！ すっごく、共感しましたよ！ 週に一度は読み返してるんですよ」
遥香「……？」
真樹「ああ。ありがとうございます」
女教師「今度、本持ってくるので、サインしてくれませんか？」
遥香「ちょ、ちょっと待ってください！ えっと……何の話ですか？」
女教師「はあ？ あんた、教師なのに竜宮先生のこと、知らないの？ 教育についての論文をたくさん書いてるのよ！ しかも、現場で生徒たちと向かい合いたいって理由で、教育委員会から出て、一教師に戻ったのよ！」
遥香「え？ え？ え？ いや、えっと、新任の先生が来るって話は……？」
女教師「聞いてないの？ 二日前、交通事故で入院したのよ。それで、竜宮先生がピンチヒッターとして、この学校に来てくれたのよ！」
遥香「ひえええええええ！ 私、な、な、なんてことをーー！」
真樹「いえ、本当に勉強になったので、気にしないでください」
遥香が土下座をする」
遥香「申し訳ありませんでしたー！」
「ああ！ 顔を上げてください」
遥香「すいません！ すいません！ すいません！ 調子に乗りましたー！」
終わり。