【声劇台本】殺し屋

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■概要
主要人数:4人以上
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス

■キャスト
イーサン
アリア
その他

■台本

イーサン(N)「誰かのために、俺は引き金を引き、誰かの人生を終わらせる。俺の人生はいつでも、誰かのためにあった。……いや、他人の人生を無慈悲に、強制的に終わらせてきた俺に、自分の人生を謳歌するなんてことはきっと許されることではない」

人通りがない、夜道を歩く男女。

女「あなた、早く帰りましょ。あの子が待ってるわ」

男「どうせ、もう眠っているよ」

女「そんなこと……」

イーサン「……」

パシュっという、銃を撃つ音と、女性が倒れる音。

男「お、おい! どうしたんだ!?」

再び、パシュっと銃を撃つ音。

男「が……」

その場に倒れる男。

イーサンが歩き始める。

イーサン(N)「あの夫妻がなんのために消されるのか。その理由は聞いていない。俺はただ、誰かの命令で引き金を引く。ただ、それだけだ」

場面転換。

雨が降りしきる音。

アリア「……お願い。私に殺しの仕方を教えて」

イーサン「……」

イーサン(N)「5歳くらいの少女が、殺しの方法を教えて欲しいと願い出る。そんな異常な光景。その少女の過去に何があったかは知らない。知る必要もない。いつもの俺であれば、無視しただろう。だが、単なる気まぐれで、俺はその少女を育てることにした。……もしかすると、何もない自分の人生に対して、何かを残すことで、自分の人生に意味を見出そうとしたのかもしれない」

場面転換。

12年後。

庭で、イーサンとアリアが組手をしている。

アリア「はっ!」

イーサン「……」

アリア「やっ!」

イーサン「……」

アリア「はああー!」

イーサン「甘い」

アリア「え? あ、きゃあ!」

イーサンに投げられるアリア。

イーサン「アリア。攻撃した後に、左のガードが下がる癖がある。矯正しておけ」

アリア「でもさー、お父さん。組手ってやる意味あるの?」

イーサン「どういうことだ?」

アリア「だってさ、本来の仕事なら、引き金を引いて終わり、でしょ? 組手の練習するくらいなら、照準の訓練した方がいいんじゃない?」

イーサン「暗殺は計画通りに行くことの方が少ない。ありとあらゆる場面での暗殺の方法を身に着けておくことが必要だ」

アリア「うーん……。やっぱり、体術は苦手だわ」

イーサン「自分の命が掛かってるんだ。そんなことを言ってる場合じゃないだろ」

アリア「はいはい。わかりましたよ。ちゃんと特訓しておくわ」

イーサン「ああ。そうしてくれ」

アリア「そういえば、お父さん。明日は私の誕生日なんだけど」

イーサン「……おねだりなんて、珍しいな。何か欲しいものでもあるのか?」

アリア「……うん。あのね、お父さんが大切にしまっている、あの銃が欲しいんだ。お父さんが殺し屋になったときに、最初に使った銃なんでしょ?」

イーサン「どうして、あんなものが欲しいんだ? 型が古いし、使いづらいぞ」

アリア「使うんじゃなくて、手元に置いておきたいの。あの銃があれば、ちゃんとやっていけそうな気がするの」

イーサン「やっていけそうって、殺し屋のことか?」

アリア「うん、そう」

イーサン「ダメだ。お前にはまだ早い」

アリア「えー、どうしてよ! 射撃の腕はお父さんよりも私の方が上だわ。並みの殺し屋よりも、実力は上だと思うんだけど」

イーサン「アリア。人を殺すということがどういうことだか、わかっているのか?」

アリア「わからないわ。でも、人が死ぬってことに関しては十分わかってる」

イーサン「なあ、アリア。殺し屋ではなく、普通に生きることはできないのか?」

アリア「……お父さんが、私のことを思って言ってくれているのはわかるわ。孤児だった私を引き取って、ここまで育ててくれたことに、どれだけ感謝してもしきれないと思ってるの」

イーサン「それなら……」

アリア「それでも、私はやらなくちゃいけないことがあるの。そのために、生きてきたんだから」

イーサン「そうか。わかった」

アリア「え? それじゃ……」

イーサン「ああ。プレゼントしてやる」

アリア「ホント! ありがとう、お父さん!」

場面転換。

イーサン「……アリア。この銃を渡す前に、俺の思いを伝えておく」

アリア「う、うん」

イーサン「お前には幸せになって欲しいと思っている。だから、正直に言うと、お前には殺し屋にはなってほしくない」

アリア「……」

イーサン「だが、それは俺のエゴだ。お前の人生はお前のもので、お前にはやり遂げないといけないことがある。……そうだな?」

アリア「うん」

イーサン「だから、これ以上はお前を引き留めたりはしない。……ただ、これだけは覚えておいて欲しい。俺はどんなときでも、お前の味方だ」

アリア「……ありがとう、お父さん」

イーサン「誕生日おめでとう」

イーサンが銃をアリアに手渡す。

アリア「あのね、お父さん。私の両親は、ある殺し屋に殺されたの」

イーサン「……」

アリア「だから、その復讐がしたくて、お父さんにお願いしたの。殺しの方法を教えて欲しいって」

イーサン「……」

アリア「でもね、お父さんから、教えてもらううちにわかってきたの。きっと、私の腕じゃ、両親の仇は討てないなって」

イーサン「……」

アリア「だからね、考えたの。両親の仇は討つことができないかもしれないけど、確実に復讐する方法を」

イーサン「……」

アリア「それは、その人の大切な人を殺すこと……」

イーサン「アリア……お前は?」

アリア「ねえ、お父さん。私のこと、大切に思ってくれてる?」

イーサン「どうして、そんなことを聞くんだ?」

アリア「私は、お父さんのこと、大好きだよ。……本当のお父さんと同じくらい」

イーサン「……」

アリア「本当は、もっと時間をかけようかなって思ってたんだ。もしかしたら、そこまで大切に思われてないかもしれないって。でもね。私の方がもう、限界だった。これ以上、時間をかけたら……きっと、私の方の気持ちが揺らいじゃう」

イーサン「アリア……」

アリア「お父さんがくれた、この銃……。私の両親を撃った銃なんだよ」

イーサン「え?」

アリア「さようなら、お父さん。世界で一番大好きで、世界で一番憎んだ人……」

バンと自分で自分を撃つアリア。

イーサン「アリアー!」

イーサン(N)「結局、俺の人生は何も生み出すことはなかった。何も残すことがなかった空虚な人生……。いや、違うな。俺は一人の殺し屋を生み出すことができた。最後まで自分の手を汚すことなく、相手を討つという的外れで、変わった殺し屋を」

バンという銃声が響き、どさりと倒れる音が響く。

終わり。

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