■概要
人数:1人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代ファンタジー、シリアス
■キャスト
アリス
■台本
アリス「いらっしゃいませ。アリスの不思議な館へようこそ」
アリス「おや? 随分とやつれているようですけど、夏バテですか?」
アリス「……なるほど。困っている人にお金を貸したせいで、今度は自分が金欠になってしまった、ということですか。それは大変でしたね」
アリス「……え? なにか、いい儲け話はないか、ですか?」
アリス「……そうですね」
アリス「これは儲け話ではないのですが、お金についての助言を一つ」
アリス「それは美味い儲け話には乗らない、というものです」
アリス「……ふふふ。今の状況を打破する助言じゃない、ですか? いえいえ、そうでもありませんよ」
アリス「いいですか? お金というものは増やすことも重要ですが、減らさないというのも、とても重要なんです」
アリス「あなたもお金を減らし過ぎて、今がつらいのですよね?」
アリス「お金が無くて、増やすために変な儲け話に乗ってしまうと、お金はゼロどころか、マイナスになってしまいます」
アリス「借金というのは、なにかと人を不幸にするものです。是非、お気をつけてください」
アリス「……そろそろ、話を聞かせてほしい、ですか? わかりました」
アリス「せっかくですので、今回はお金にまつわるお話を」
アリス「あなたはわらしべ長者という物語を知っていますか? ええ。そうです。ワラ一本から、様々な物を交換して大金持ちになるという話です」
アリス「あなたは実際にはこういうことはあると思いますか?」
アリス「確かに商売というものは、安く仕入れて、それを高く売る、というが基本です」
アリス「そういう点でいうと、わらしべ長者というのは商売の基本というのを抑えた物語なのかもしれませんね」
アリス「今回お話するのは、その逆のお話です」
アリス「正直者はバカを見る、ということわざがありますが、この物語の男性は、本当に正直者でした」
アリス「いえ、違いますね。正直者、というよりはお人よしという方が近いでしょうか」
アリス「とにかく、この男性は騙されることが多かったようです」
アリス「すぐに騙されるということで、男性は裕福ではありませんでした。……いえ、貧乏、と言った方がいいですね」
アリス「その男性は日々、食べることすらままならない状態で、せめて普通の暮らしがしたいと、神に祈りました」
アリス「そうすると、神からある助言がされます」
アリス「……え? 神の助言なんて、嘘くさい、ですか?」
アリス「まあまあ、いいじゃないですか。童話だと思って聞いてください」
アリス「神からの助言は、困っている人がいれば助けてあげなさいというものと、落ちている藁を一本拾いなさい、というものでした」
アリス「それを聞いた、男性が思ったことは、こうでした」
アリス「すでに自分が困っている状態なのに、人を助けるなんて冗談じゃない。そもそも、自分が困っているのに、神は自分を助けてくれないのか、と」
アリス「とにかく、男性は食べ物を探すために山へと向かいました」
アリス「山に入ると一本の藁が落ちていたので何気なく男性は拾います」
アリス「するとそのとき、熊に襲われている人を見つけます」
アリス「男性はそれを見たとき、危険だと思い、自分だけでも逃げようとします。ですが、お人よしである男性は、見過ごすことができず、熊の前に飛び出し、藁を鼻に入れました。そのことで、くしゃみが出て、その大きな音で、熊が驚き、逃げて行きました」
アリス「熊に襲われていた人は砂金取りをしていた人だったそうで、助けてくれたお礼として小袋に入った砂金をくれました」
アリス「男性はこれで食べ物が買えると喜び、山を下ります」
アリス「すると、山の麓で、ある商人に出会いました」
アリス「その商人はお得意先から、砂金を仕入れて欲しいと言われていたのに、買い忘れてしまったそうです」
アリス「そこで、男性は砂金が入った袋を見せて、なにか品物と交換しようと持ちかけました」
アリス「お腹が減っていた男性はとにかく、食べ物が欲しいと商人に言うと、商人は、米俵はどうかと言ってきたんです」
アリス「ですが、米俵は一俵しかなかったそうです。もちろん、男性が持っている砂金があれば、五俵は買えるほどのものだったようです」
アリス「商人に懇願されたのと、そもそも一人では五俵も持てないということで、男性は砂金と米俵の一俵を交換してしまいます」
アリス「……ええ。普通に損してますね」
アリス「男性は米俵を背負って、家に帰ろうと歩いていたところ、餓死寸前の家族に出会います」
アリス「家族は男性に、なんとか米を分けてもらえないか言ってきます。ですが男性も、自分も余裕がないと話しました」
アリス「そこで家族はこう言ってきます。米はそのままでは食べられない。うちで美味しいご飯にして、さらに梅干を付けるということでどうか、と……」
アリス「男性は断ろうとしましたが、家族に必死に懇願され、渋々、受けることにしました」
アリス「家族は米を炊き、ご飯にして、その中に梅干を入れたおにぎりにしました。家族はおにぎりを一つ、男性に渡し、あとは食べてしまったんです」
アリス「結局、一俵の米が一個のおにぎりになってしまった男性ですが、美味しそうなおにぎりを見て、無理やり納得して、再び帰路へとつきます」
アリス「……ええ。こんなことをしているのですから、男性が貧乏なのは当然と言えるかもしませんね」
アリス「おにぎりを持って、歩く男性は、次は道端で蹲っている老人を見つけました」
アリス「訳を聞くと、空腹で倒れていたようです」
アリス「見るからに何も持っていない老人でしたので、無視して進もうとしますが、砂金がおにぎり一つになってしまったことを思い出し、半分、投げやりになって、老人におにぎりを渡してしまいます」
アリス「おにぎりを食べ終わった老人は感謝しますが、やはり、お礼に渡せるようなものを持っていない、とのことでした」
アリス「そのことを覚悟していた男性は、やっぱりとつぶやいて、立ち去ろうとします。ですが、老人はせめて、これだけでも、と言って墨と筆を出し、男性の服に文字を書いたのです」
アリス「お礼どころか、服をダメにされてしまった男性は、完全に心が折れてしまい、怒る気力すらなく、家に帰ったそうです」
アリス「……はい。最初は砂金を手に入れたのに、最後は何もない状態どころか服がダメになってしまったという話です」
アリス「ふふ。まさしく、わらしべ長者の逆ですね」
アリス「え? オチですか? ありませんよ」
アリス「……というのは嘘です。怒らないでください」
アリス「男性はダメになってしまった服を買い替えるために、古物商へと向かいました」
アリス「どうやら、少しでも安く済ませるために古着を買うためだったらしいです」
アリス「そして、店に入ったときでした。そこの店主が男性の服を見て驚きます」
アリス「それは人間国宝と呼ばれる人物が書いた文字に間違いないとのことでした。また、最近は全然、文字を書かなくなったということで、市場では高騰を続けていたようです」
アリス「店主は男性にその服を売ってほしいと言ってきます」
アリス「元々捨てようと思っていた服なので、男性は快く売ることにしました。そして、その売った金額は……家が2軒買える値段だったそうですよ」
アリス「つまり、この男性は最後の最後で逆転して、わらしべ長者になった、という話ですね」
アリス「え? この話の教訓……ですか?」
アリス「そうですね……。情けは人の為にならず、と言いたいところですが……」
アリス「度が過ぎたお人よしは損をする、でしょうか」
アリス「人を助けるということは素晴らしいことです。ですが、度が過ぎてしまうと、他人の為に自分が犠牲になってしまうことがあるということです」
アリス「この男性も最後、老人に会わなかったり、古物商の主人に騙されていたりしたら、結局は一文無しになっていたわけですから」
アリス「あなたも、お人よしもほどほどにしてくださいね」
アリス「ふふ。それではまたのお越しをお待ちしております」
終わり。