■概要
人数:4人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス
■キャスト
満(みつる)
雪乃(ゆきの)
慧(けい)
後輩
■台本
満(N)「タバコを吸い始めたきっかけは、今となっては思い出せない。けれど、たばこを吸い続けている理由は忘れもしない」
雪乃「満さんのタバコを吸ってる姿、なんか、格好いいです」
満(N)「10年前に言われたこの言葉が、俺にタバコを吸い続けさせている。……いや、これは単なる俺のこだわりだ。決して雪乃のせいにしてはいけないことだ」
場面転換。
後輩「満先輩、知ってます? また、タバコの値段、上がるらしいですよ」
満「そうみたいだな」
後輩「それに、今のご時世、こうやってタバコを吸うのにも一苦労ですよね」
満「今はどこへ行っても、禁煙だからな」
後輩「会社でさえも、タバコを吸うのにも、こんなせっまい喫煙スペースですからね。ひと昔前だと、自分の席で自由に吸えたらしいですよ」
満「どんだけ前の話だよ。それ」
後輩「満先輩は、タバコ、止めようと思ったことはないんですか?」
満「ないな」
後輩「へー。随分と筋金入りですね。あれですか? タバコ止めるくらいなら、死んだ方がマシ的な感じですか?」
満「さあな。さすがに死ぬって言われると考えるかもな」
後輩「奥さんは何も言わないんですか?」
満「……不思議と、一度も言われたことないな」
後輩「そうですか。でも、先輩のところのお子さん、もう5歳でしたっけ? 悪影響になるって言われないんですね」
満「子供の前では吸わないようにしてるからな」
後輩「それは大変ですね。家でどうしても吸いたくなったら、どうしてるんですか? やっぱりベランダに出て、蛍族です?」
満「いや、俺の場合、どうしても吸いたくなる、ってことはないからな」
後輩「ええ? じゃあ、満先輩は止めようと思えば、止められるってことですか?」
満「かもな」
後輩「ええー。じゃあ、止めるべきですよ。俺なんか、毎年禁煙してても、すぐに挫折するんですから。……あーあ。病院に行ってみようかな」
満「タバコ、止めたいのか?」
後輩「ええ。今どき、あんまりメリットがないっていうか、デメリットの目白押しっていうか……。とにかく、今の時代はタバコは吸いずらいですし、経済的にも厳しいですからね」
満「確かに、デメリットが多いな」
後輩「ですね。だから、満先輩も止められるときに止めた方がいいですよ」
満「……俺の場合は、自信がないから、なんだよな……」
後輩「え? どういうことですか?」
満「いや、なんでもない」
場面転換。
夜道を歩く満。
満「……だいぶ遅くなったな。慧はもう寝ただろうな」
立ち止まって、鍵を取り出し、開錠する。
そして、ゆっくりとドアを開けて自宅に入る満。
満「慧を起こさないようにしないとな……」
廊下をゆっくりと歩く。
すると、リビングから声が聞こえてくる。
慧「ねえ、お母さん。どうして、お母さんはお父さんと結婚したの?」
雪乃「ええ? どうしたの、急に」
慧「ねえ、教えてよー」
立ち止まる満。
満「……」
雪乃「それはね、お母さんの一目惚れなの」
慧「一目惚れ?」
雪乃「そうよ。お父さん、格好いいから」
慧「ふーん。どの辺が格好いいの?」
雪乃「大学生のときね、お父さんがバイトをしている姿を見たの。一生懸命で、なんかキラキラしてたっていうか、とにかく格好良かったの」
満「……」
慧「でもね、慧は嫌い」
雪乃「え?」
満「……え?」
慧「だって、お父さん、時々、へんな臭いするんだもん」
雪乃「ああ、タバコの臭いのことね」
慧「そう! 慧、タバコ嫌い」
雪乃「そうね。お母さんもあんまり好きじゃないかな」
満「え?」
雪乃「いつか、お父さんには謝らないといけないかな」
慧「謝る?」
雪乃「うん。あのね、お母さん、お父さんに話しかけるために、嘘付いちゃったの。タバコ吸ってる姿が格好いいって」
満「……」
慧「ふーん」
雪乃「ホントは、お父さんにはタバコ止めて欲しいんだよね。健康にも悪いから」
慧「慧も止めて欲しい!」
満「……」
ガサガサとポケットからタバコの箱を取り出す満。
そして、その箱を握りつぶす。
満(N)「……タバコ、止めるか」
終わり。